恋する女の子
私の名前はアズキ。カズミお姉ちゃんとふたり暮らし。お姉ちゃんは美人でキレイなのに、私は醜い獣みたいな姿。お姉ちゃんがすごく羨ましい。憎いくらいに。
ピンポーン
「カズミー?」
カナトくんが遊びに来たみたい。カナトくんはお姉ちゃんの彼氏。だけど、私もカナトくんが好き。美人でキレイなお姉ちゃんに容姿で勝てるはずはないけど、お姉ちゃんに負けないくらいカナトくんが好き。
私はお姉ちゃんよりも先に玄関に向かう。早くカナトくんに会いたい。
「遊びにきたぞー。お、アズ! お出迎えか?」
カナトくんはそういって私の頭を撫でる。アズというあだ名を付けてくれたのもカナトくんだ。だから、カナトくん以外にアズなんて呼ばれたくない。
お姉ちゃんもキッチンから顔を出した。
「カナト、早かったのね。いまお昼ご飯出来たとこなの。上がって?」
「おう。……アズ、まだ声出ないのか?」
「そうみたい……お医者さんは、ふとしたきっかけで声は戻るっておっしゃってたけど」
「そうか。アズ、頑張れよ!」
私の声が出るのなら、すぐにカナトくんにありがとうって言えるのに。愛を伝えることだって出来るのに。いつだって私は、出来損ないの女の子。そんな自分が悔しい。
「心配してくれてありがとうね。さあ、ご飯にしましょ」
「あー、カズミの作る飯はなんでも美味いなあ。アズも、美味しかったろ?」
お姉ちゃんは料理も上手だ。カナトくんの好物ならなんでも作れる。お姉ちゃんは、ズルイ。
「あっ、アズキ、ご飯残してるじゃない。ちゃんと食べなさい」
「なんだなんだ、ダイエットか?」
カナトくんの前でがっついてるとこなんて見られたくないもん。それに、なんだか食欲もないし。「病気なのかしら? カナト、どう思う?」
「そうだ、俺、アズにおやつ買ってきたんだった! クッキー、これならたべるだろ?」
えっ、カナトくんが私に? 私のためにクッキーを? カナトくんがくれるならどんなものでも嬉しい。私はカナトくんにすり寄る。
「もう、アズキったら……。カナト、あげすぎないでよね?」
「まて、お手!」
カナトくん、私、犬じゃないんだから! お手なんてしないわよ!
「はい、どーぞ。」
カナトくんがやっと手渡してくれる。私は無心にいただく。それを見てカナトくんが私の頭を撫でてくれる。
「それと、カズミにはこれを」
カナトくんはお姉ちゃんに書類の束を渡す。お姉ちゃんはぱらぱらとそれをめくる。私には難しい話を始めるの?
「どうしようかしら……アズキだっているのよ?」
「アズは連れてくよ! 置いては行けないだろ!」
「でも……」
私が、どうしたの? カナトくん、お姉ちゃん? ああ、ダメだ、お腹いっぱいで眠くなっちゃった……。
「考えておく。また来週辺りにくるよ」
「ええ、わかったわ」
「じゃあな、アズ。って、寝ちゃったよ」
それからちょうど一週間後、カナトくんはひどく悲しい顔で訪ねてきた。どうしたの? どういうこと?
「……アズっ!」
わわっ。カナトくんは急に私を抱き締めてきた。お姉ちゃんの前で。
「今日で、お別れだな」
お別れ? カナトくん何言ってるの? こないだいってたのと、何か関係あるの? ねえ!
私の気持ちがカナトくんに届かないのが辛い。お姉ちゃんが私の顔をそっと撫でる。
「ごめんなさい、アズキ。私たち、あなたの事が大好きよ。いつでも、会いに行くからね」
「叔父さんは優しい人だから、きっとアズのことも可愛がってくれるさ」
どういうことなの!? 私、カナトくんやお姉ちゃんと一緒に居られないの? 嫌よ、そんなの!
ピンポーン
「叔父さんかな。もう迎えに来たんだ」
カナトくんは席を立つ。待って! 私行きたくない! カナトくんと一緒がいい!
それもこれも、私の声が出ないせい。出て、私の声! お願い、カナトくんと別れるのは嫌! いやぁ!!
「にゃあ……!」
カナトくんが凍り付く。お姉ちゃんが唖然とする。私も、何が何だかわからない。
突然、カナトくんが叫んだ。
「カズミ! アズが!」
「私も聞いたわ! ああ、アズキ!」
カナトくんは私を抱き上げた。
「今まで鳴いたことなかったのに……アズは俺たちのために鳴いたんだ! アズー! 叔父さんに引き取ってもらうなんて言ってごめんよ!」
「アズキが、離れたくないって言ったのよ。ねえ、カナト。なんとかならない?」
「アズが一緒に居たいっていうんなら、どうにでもするさ! 高いけど、アズのためならペットOKのマンションに決定するか!」
「そうね! 私たちの都合でアズキを見捨てるなんて、なんてことをしようとしてたのかしら」
なんのこと? よくわからないけど、カナトくんが抱きしめてくれたからいいか!
「これからもずーっと一緒だぞ! 今日は上等なキャットフード買ってやるよ、アズ!」