出会いの章(6)
「あの…祥さん何処に行くんですか?」
俺達は祥さんに連れられ、何処かに移動中。
「ふふふっ、良い所ですよ?」
祥さんは不敵に笑う。
すでに日も落ちた夕方の空の下、他の人達より一回り図体のデカイ俺達。
三人並ぶと余計にデカさが際立つ。
髷を結ってる訳でもないし…他から見れば、変人の集団だ。
まぁ頭を剃る勇気は無いから、この事は考えない様にしよう。
さてさて祥さんは何処に行くのか…もう30分も歩いてるし、そろそろ教えて欲しいです。
「祥さーん、疲れました。そろそろ目的地だけでも教えてもらえませんか?」
「知りたい…ですか?」
「はい。理由も分からず歩くのは疲れますよ。」
「そうですか…。到着した時の驚いた顔が見たかったんですがね、残念。」
「おい!いい加減教えろよ!!」
武が乱暴に口を挟んでくる。
しかし…もうちょっと丁寧に喋れないのかねこの男は。
この人はお前の命の恩人よ?分かってる?
「あっ、でも見えてきましたよ?ほら…あそこ。」
「えっ?」
「んん?」
俺たちは祥さんの指差す方向を見る。
大きな門に、眩い光…
男たちは小走りで門に吸いこまれていく…
これってもしかして…
「うおおお!!これって売春街じゃねーか!!」
…もうちっと言い方ないの?武くん。
「ふふふっ。その通りです。まぁ本物の吉原では無いですがね?
ここの名前は「吉原」(きちはら)。」
「きっきちはら…読み方が違うのか?」
「えぇ。でも行われている事は同じ。はっきり言って売春街。春を売っている街です。」
「いやっほーー!!久々に女抱けるのかぁー!」
「いえ、あのね…、あぁ!武君待って!!」
祥さんの話を聞かずに武は走って行った。
「あいつ…祥さんすみません。」
「いえいえ、男として気持ちは分かりますから。」
「でも…何で吉原に?もしかして慰労会か何かですか?」
「いえ?慰労会ではありません。貴方達無職でしょう?」
「ぐっ。まぁ…この世界では…」
やっやけに引っ掛かる祥さんの言葉。
「あのね、木を隠すなら森の中って言うでしょ?なら女を隠すなら?」
祥さんのナゾナゾ。
「えっと…女を隠すなら…あっ!!女の中!」
「ふふっ、正解。これだけ女が溢れる場所なら隠しやすいと思いませんか?」
「なるほど!!さすが祥さん!!」
「ふふっ。では行こうか光くん。」
「はい!お供します!!」
俺は武の後を追う様に大門に吸い込まれていった。
大門の中は華やかだった。
白粉の匂いが充満し、軒先には煌びやかな女性達。
光り輝くその場所は、俺に歌舞伎町を思い出させる。
「うわぁ…これが吉原。って偽物ですけど…。」
「まぁ実際もこんなもんだと思いますけど…さてとりあえず武くんを探しましょう。」
「たっ武ですか?あんな奴放っておけばいいのに…。」
「まぁまぁ、ここは外とは違う理屈で色恋が行われる場所です。それに何かと危ないんですよ?」
「危ないんですか?まっまさか侍とか?」
「んー、侍も居ますけど…ほら例えばアレです。」
祥さんは一軒の宿を指差す。
そこには入口で大声で叫ぶ浪人風の男。
どうやらお目当ての花魁に酷く振られたようだ。
そういえば…花魁は客を選ぶって聞いた事があるなぁ。
んで、その浪人は苛立ちを誰かれ構わずまき散らし始めた。
遠巻きに見ていた町人に毒を吐き、近くの若い侍に絡んでる始末。
うわ、殺されちゃうんじゃなの?侍に何か絡んで…
「んだよぉー、お前等みたいなお坊ちゃんの所為で振られるんだろうがぁ!!」
酔ってるなこの浪人、これじゃ振られるよ。
「貴方は酔い過ぎています。今日は早くお帰りなさい?」
「うるせぃ!俺に説教してんじゃねぇよ!この若侍がぁ!!」
…殺される。侍になんて事を!!
俺は見て居られない。
「しっ祥さん!やばくないですか?あの浪人殺されちゃいますよ?」
「ふふっ。あの浪人は運が良いのか悪いのか…。」
「へっ?」
「まぁ、黙って見ていなさい。」
祥さんは落ち着いている。まぁ祥さんが言うなら大丈夫なんだろうけど…
見た目は15~6歳位の嫌気がする程の美男子な若い侍。
若い侍は身分が高いのか、両脇に部下みたいな侍を引き連れている。
部下は侍の前に立ち、真剣を抜く…
「なっ何だよ!きききっ吉原で刀なんて抜きやがって!!」
浪人は噛みながら毒を吐く。
「五月蠅い。浪人風情が若に対して何たる暴言!許すまじ!!」
今にも斬りかかりそうな部下たち。
うわぁ!!ひっ人殺しが目の前で!!
「ししし祥さん!やばいですって!!」
「まぁ、大丈夫だからね?あっほら見て御覧?」
祥さんは笑って指を指す。
「ふふっ、刀を閉まって下さい?僕は大丈夫だから…。」
若い侍が取り巻きを抑える。
「しっしかし!」
「僕は大丈夫だから…。さぁ、掛っておいで?」
若い侍は、身体を乗り出し浪人を誘う。
「ばっ馬鹿にしやがって!!」
浪人は胸元から小さな刀を取り出した。一方侍は丸腰の様子。
あっ危ない!!!
浪人は鞘を放り投げ、侍の方へ一直線!
「うりゃぁぁぁ!!」
殺された!っと思ったけど、若い侍はそれを軽く交わす。
「うっ…うぅぅぅ…」
うめき声が聞こえたかと思うと、浪人は地面にひれ伏す。なっ何が起こった?
周りから歓声が上がり、また何事も無く男たちは徘徊を始める。
俺には何があったのか全然わからない。
「祥さん…一体どうなってるんですか?」
「分からなかった?今の手刀。」
「しゅっ手刀?全然見えなかった…。」
どうやら若い侍は、避けると同時に浪人の首に手刀を一発お見舞いしたらしい。
すっすげぇぇーー!
俺は若い侍に釘付けだ!
すると、その若い侍は何かに気付いた様に、俺たちの傍にやって来たんだ。
やば!ガン付けた訳じゃないよぉー!助けて!
「おや?先生じゃないですか。お珍しい…。」
若い侍は祥さんに声を掛ける。よっ良かった…。
「おやおや若じゃありませんか。今日も遊びに?」
「うん。盛りなんでね?それはそうと…若は止めてくださいよ!」
「ふふっ。若なんだからしょうがないじゃありませんか。」
「もう先生ってば…。はて、その隣の派手な方は?お知り合いですか?」
若い侍…若は俺の方を見ている。何故か緊張。
「あぁ、古い友人です。光という者です。さぁ光ご挨拶申し上げて?」
「ふーん、先生のご友人ですか。初めまして。」
若い侍は俺の方に手を差し出す。
「あっはい!俺は光と言います、。宜しくお願いもうもう…もうしあげまする…。」
噛み噛みな程俺が緊張する理由。
どうみたって俺より年下だし、風貌も優男って感じなんだけど…
こいつは絶対腹黒い!!俺の野生の感が危険だと信号を発している。
しかも身分も高そうな侍!逆らわない方がいい。
俺はオドオドしながら侍の手を握り返した。
「よろしくね?俺は徳…えっと、徳さんだよ。宜しくね!」
「とっ徳さんですか?宜しくお願いします。」
若い侍…徳さんはにこやかに笑い、また花街へと繰り出して行った。
あの侍…一体何者だ?
「祥さん、あの人は一体…。」
「ふふっ。まぁ誰でも良いじゃないですか!さぁ武君を探しましょうか?」
祥さんははぐらかしたけど…さっき徳何とかって言って無かったか?
俺たちは再び武を探し始めた。
あの風貌だから直ぐに発見できるかと思ったけど…居ないぞ?
立ち並ぶ店を一軒一軒覗いていく。
しかし武の姿は何処にもない…あいつ、何処行きやがった!!
暫く歩いていると、一軒の食事処から大きな笑い声が響いてきた。
聞き覚えのある笑い声…武の声だ!!
俺と祥さんは声のする店の中に入って行く。