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出会いの章(5)

金髪ロン毛は本当に遠慮なくご飯を胃袋に納めて行く。

「ふふっ。お腹が空いていたんですね。ほら、こっちも食べなさい?」

「おぉ!はっ早くよこせ!!」

祥さんから皿を奪う様に引き寄せ、瞬く間に空にしていく金髪ロン毛。

「おっお前、少しは遠慮しろよ…あぁ!俺のオカズー!」

油断していると、俺の食いものまで無くなりそうだ。


見事に出された物を食いつくした金髪ロン毛は、〆とばかりに味噌汁を一気に飲み一息つく。

「…っ。ぷはぁーー!ごちそうさん!食ったぁー!」

「だろうな…。」

「ふぃー。久しぶりの飯だった所為か、こんな質素な飯でも美味く感じたぜ!」

「おっお前なぁ!…って、まさかお前、ずっと食って無かったのか?江戸村来てから…。」

「あっ?んまぁ…その辺の畑から失敬したりはしたが…生はキツかったな。」

「って、お前が役人に追われてたのって…畑泥棒だからじゃないのか?」

「んー、かもな。」

「かっかもなってお前なぁ…」


俺と金髪ロン毛の話を面白そうに聞いている祥さん。

「祥さん、笑ってないで何かコイツに言ってやって下さいよ!」

「んっ?そうですか?では…君は何て言う名前なの?」

「しっ祥さーん…。」

「あっ?俺の名前か?まだ言って無かったな。俺はたけしだ。郷田 武。」

「ほう、武さんですか。宜しくね武さん。」

「ごうだ…たけし…。ぷっ。」

「なっなんだよ!何がおかしいんだよ!」

名前を聞いて噴き出した俺に、武は何かを感じて怒りだした。

「だっだって!同名じゃん!ドラ○もんのジャイ◎ンにさぁ!」

「いっ言いやがったな!この!」

どうやら武のコンプレックスは名前の様だ。今度何かあったらフルネームで呼んでやろう。


祥さんは俺たちに風呂を勧めてくれた。

どっちが先に入るか喧嘩になりそうだったが、今日の所は武に譲ってやった。

まぁ、久しぶりの風呂だろうし…武…めちゃ汚れてたし。


武が風呂から上がり、俺もサッサと入浴を済ませた。

さっぱりした俺が与えられた部屋に戻ると…部屋中に大鼾が木霊していた。

「…ぷっ。すげー鼾!こいつ…疲れてたんだろうなぁ。」

俺は弥平さんや祥さんに救われたからマシだったけど、こいつは一人だったんだもんなぁ。


翌朝、眠い目を擦り布団から出た。

居候の分際で言えた事ではないが…祥さんに言って部屋を変えて貰おうか。

一晩中…ってか今現在も五月蠅いコイツと同室だと、確実に睡眠不足になる…

俺は布団を端に寄せ、身支度を軽く整え祥さんに挨拶に行く。

「お早うございます祥さん!」

「おや、早いね。」

「あっあはは…。武の鼾が五月蠅くて寝れませんでしたよ。」

俺は呆れているんだと言わんばかりの顔で祥さんに愚痴った。

「ふふっ、彼も疲れていたんでしょう。なにせ何も分からない場所に一人で過ごしていたんですから。」

「あーっ、まぁそう言われると…。」

「大目に見てあげて下さいね。」

「祥さんは…本当に優しいんだなぁ。」

「困った時はお互い様でしょう?」

「祥さん…有難うございます。」

「あっ、光君。今日も彼女を探しに行くんですか?」

「あっはい。勿論です。」

「そうですか。でも昨日も手掛かり一つ見つからなかったんですから、ただ闇雲に探すのも…」

「はい…実は俺も思ってたんです。ただ辺りをうろついてるだけで見つかるかどうか…。」

「多分見つからないだろうね。でも今のところ…死体が出たって話も聞かないしから…」

「しっ死体って!!」

「ごめんごめん。でも何も聞かないって事は何処で生きてるって事でしょ?

 しかも変わった服を着ているから彼女は目立つだろうに、今のところ目撃話しも聞かないし…

 もしかしたら彼女は自分の意思で何処かに隠れている可能性もあるよ。

 なら歩き回って見つかる訳は無いだろう?」

確かに言われてみればそうだ。

俺たちが着ている服は、この江戸村では目立つ。

女性だし服を脱ぐなんて事はしないだろうしなぁ。

でも…そんな事を思いつく祥さんは凄いなぁ。しかも祥さんの口ぶりって…


「…祥さんって情報ツウなんですね?」

目撃話しって、叔母ちゃんの会議じゃないんだから…

「そうですか?まぁ仕事柄相談に来る人から情報を手に居れるなんて事もありますし、

 役人達が情報交換に来る事もありますしね?」

「うわ、なんか危険な香りがします。」

「ふふっ。別に危ない事をしてる訳ではないですよ?安心して?」

「あはは、祥さんに限って心配なんて!…でも、隠れているかも知れない奴なんて、

 一体どうやったら見つけられるんでしょうか。」

「うーん、難しいね。そこら辺に張り紙する訳にはいかないし…」

「張り紙…駄目ですかね?」

「そりゃ駄目だろう。君は何て書くんだい?変わった服を着た女性を探してますって?

 そんな張り紙を街中にしたら役人がやってくるよ?」

「あぁ…そうかも。ただの携帯の光で驚くんだから、全身異世界の服を着ている彼女は間違いなく捕まりますね。」

「うん、多分ね。君は自覚が無かっただろうけど、二人とも捕まる寸前だったんだよ?

 役人が相談に来てたもん。あの変わった服を着ているのは何者だってさ。

 だから探す方法は慎重に考えないと。」

「マジですか?うわぁ…祥さんが執り成してくれたんですね?助かりました。」

「ふふっ。まぁ害は無いといっただけですけどね。」

「あはは!確かに俺はめちゃ無害ですけどね。」


俺と祥さんが話しをしている時、いきなり部屋の襖が開き武が股間をボリボリ掻きながら入ってきた。

「おぃーす。おはようさん。」

「うっ、汚ねーなぁ。」

「おっおはようございます。」

ほら、流石の祥さんも顔引き攣ってるぜ?汚すぎだ。

「んーー!久しぶりにゆっくり眠れたぜ!すっきり爽快だぁ!」

晴々とした表情の武が少し勘に障った。


「さて、話しの続きですが…。まぁ取り合えず先に朝食にしましょうか?

 腹を満たして考えた方が良い案が出るかもしれないですし。」

「あっ、頭は糖分があった方が働くっていいますからね?」

「そうそう、腹が減っては良い案が出ず!ですよ。さぁ、行きましょう。」

俺たちは祥さんの後を歩き、居間の様な所で朝食をご馳走になった。

また武は家畜の如く飯を食らい、祥さんはそれを唖然とした表情で見守っていた。

「本当に…よく食べますね。」

「ふぁい。はりゃが減ってはりゃが減って…。」

頬をハムスターの様にして喋るから、何を言ってるのか分からない。

「おい武!お前さぁ…遠慮って言葉知らねーの?」

「へっへんりょ?はぁなぁ…モゴモゴ…。」

何言っているのか分からないよ…。

「まっまぁ、若い男の子だし無理は無いですよ。たっ沢山食べなさい…。」

そう言いながらも祥さんの顔は、少し引き攣っている様にも見えたが?

「ほぉう(おう)!しゅにゃねー(すまねー)!」

一応感謝はしているのか?なら少しは態度で示せって!


俺たちは食事を済ませ、祥さんはゆっくり話しをしようと場所を移した。

そこそこ広い庭の一角、人目に付きにくい端っ子の方。

背の高い木で囲まれた場所だった。

真っ白な小さなテーブルと、それを挟む様に椅子が二脚、横には長椅子が一つ置いてあった。

クッションなんかも置いてあって…小さなリビングの様だった。

和装な家には似つかわしく無い洋風の出で立ちで…

燦々と日が当たる場所で、この長椅子に横たわり昼寝をしたら最高だと思った。

「へぇー、センスいいなぁ。」

ニコニコしながら武は長椅子を陣取った。

「あー!その椅子は俺が狙ったのにー!退けぇ!」

子供の様に椅子の奪い合いをする。


その洋風な場所は、何故かとても懐かしく感じて…安心出来る。

俺はその長椅子に横たわり、日に当たり…東京での生活を感じたかった。だから超必死に争奪!

でも、所詮俺は夜しか外に出なかったモヤシホスト。

マッチョ男に叶う筈も無く…椅子取り合戦は呆気なく敗戦。

「くっ、悔しい!」

「ばーかぁ!お前みたいなヒョロ男に負けるか!」

「むっムカつくー!」

俺は腹を立てながら、小さめの椅子に腰を降ろした。


「まぁまぁ、喧嘩しないで?でも、この場所を二人が気に入ってくれたようで嬉しいです。

 この場所は、俺の秘密の隠れ家なんだよ?」

「隠れ家?ですか?」

「うん、俺が作ったんだ。木材貰ってきて組み立てて…なかなか上出来でしょ?」

「これ、祥さんが作ったんですか?すげー!」

「ふふっ、ありがとうね。私もこの時代に身一つで飛ばされて…

 何か昔を感じる様な場所が欲しかったんだ。まぁ取り合えず落ち着いて座って?」

祥さんはニコニコしながら椅子に座る。

「はぁーい。」

「うぃーす。」

お兄ちゃんに窘められた弟の様に大人しく従う。


「では、彼女の捜索方法でも相談しましょうか。」

「あっはい。お願いします。」

「うん。あのね…さっきも言ったけど、張り紙とかの目立つ方法は良くないと思うんだ。

 でも情報は仕入れなくてはいけない。勿論私の情報網も活用はするけどね。」

「目立たずに人を探す…かぁ。誰かに話し聞いたりしないと情報もヒントも手に入らないし…

 人の噂話しとか盗み聞き出来ればいいのになぁ…。」

「…噂話し…盗み聞き、ですか?」

「あっ、はい。噂話しとか…あの、前から思ってたんですけど、

 叔母ちゃんの井戸端会議とかの情報ってスゲー!って思ってたんです。

 一丁目の誰さんの息子が大学落ちたとか、二丁目の誰さんの娘が妊娠したとか…

 うちの母ちゃんも、何で知ってんの?的な事話ししてた事あったから…」

「女性特有の情報網ですね。そうかぁ…井戸端…噂…盗み聞き…。」

「うっ、盗み聞きは聞き流して下さい…。」

「いえ、良いアイディアだと思いますよ?」

「ぬっ盗み聞きがですか?」

「えぇ。何も犯罪を犯せとは言ってませんよ。

 ただ自然に会話の内容が聞き取れる事が出来たらって。」

「あぁ、本当なら盗聴器が有れば一番ですけどね。」

「ふふっ、それは犯罪じゃないですか。まぁ冗談はさておいて、女性の情報網は確かに侮れません。

 どの時代の女性も、噂や人の秘密の話しが好きなのは変わらない筈ですからね。」

「多分そうでしょうね。」

「なら何とか噂を聞きだす方法を考えなくちゃいけませんね?」

「方法…かぁ。うーん…むぅー。」


女性の話に割り込んで聞く…訳にはいかないな。追い出されるか不審者扱いが落ち。

こっそり陰に隠れて聞く?いやいや…隠れる場所が無ければ出来ない。

うーん、どうやって話しを聞く?


俺が少ない脳みそをフル回転させていると、祥さんが話し始めた。

「まぁ、彼女が自らの意思で隠れている可能性がある以上、焦る必要も無いでしょう。

 ゆっくり…そして確実な方法を探しましょう?」

パンク寸前の俺の頭を冷やす様に祥さんは優しく語りかける。

「はっはい、そうですね。」

「そう、事を焦っては良い結果が産まれませんよ?」

「はい。そうします。」


俺が祥さんと話し合っている最中、一言も言葉を発さない武。

何をしているかと武の方に視線を向ければ…スヤスヤ昼寝なんてしていやがった。

一瞬殺意を覚えたが…よく見れば上半身裸で腰に布を巻き付けた身体は太陽の光に反射している。

眩しそうに腕でムカつく程整った顔を隠しているその姿は、まるでモデルの様だった。

不覚にも見入ってしまった俺。くっ…同じ男なのに納得いかねー!!





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