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出会いの章(4)

「祥さん!今帰りました!」

怖そうな男に勝利した余韻で、俺は上機嫌で祥さんに話しかけた。

「おや、随分ご機嫌ですね?」

「いやぁ、聞いて下さい…」

俺は祥さんに事の顛末を話した。


「へぇ、そんな事があったんだぁ…でも注意しないと危ないよ?」

思ってもみない言葉だった。

「あっ危ないって?」

「あのね、いくら本物の江戸じゃないって言ったって、生活環境は江戸その物と言って良い。

 変に現代文明をだしても、魔女狩りじゃないけど殺されるかもしれない。」

「そっそんな物騒な!まさか殺されるなんて冗談ですよね?」

「…そうでもないんだよ?時代が時代だから…まぁ、身分の高い人達に気に入られれば…」

「身分の高い?」

「あぁ、例えば城に勤めている侍とか…

 妖術使いじゃなくて祈祷師といて捉えて貰えるかもしれない。」

「あぁ、陰陽師みたいな?」

「そうそう、そんな感じ。まぁ、それは置いておいて、友達は見つかったのですか?」

「…いえ、手掛かりすらありませんでした。」

「そうですか、残念ですが気を落さないで?きっと見つかりますよ!」

祥さんは俺を励ます様に笑顔を見せる。


「一つ聞きたいんですけど、祥さんなら先生じゃなくてもっと仕事があったんじゃ?」

「何故?」

「だって、現代文明を生かせば何か他の人と違う仕事できたんじゃ?

 先生より儲かる仕事。」

俺じゃないけど、祥さんだって陰陽師風になれる筈。何でしないんだ?

「…まぁ、そうでしょうね?でも…あるのは知識だけ。上からは何も持ってきてないんです。」

「そうなんですか?だって俺は服とかバックとか…持ってこれましたよ?ってか、

 祥さんは何で江戸村に来ちゃったんですか?」

「そういえば話してませんでしたね?何故私が江戸村に来てしまったか…」

祥さんはそう言うと、悲しそうな顔で続きを話し始めた。


「私が来たのは10年前。恋人と至福の時間を過ごしていた時でした。」

「恋人と?至福って…まさか。」

「ふふっ。そう、愛し合っていた時です。その日は大風が来てましてね…。」

祥さんは俺に江戸村に来てしまった理由を話してくれた。


祥さんと恋人の女性は、結婚の約束をしていたらしい。

でも祥さんはホストだし、相手の女性は大金持ちの財閥で一人娘。

当然親に反対され、掛け落ち同然で同棲生活をしていた。

そして祥さんはホストを辞め、日中の仕事を始めたらしい。

ある日の深夜、突然の台風が襲ってきて節約の為に住んでいたボロアパートは倒壊。

死んでしまう!っと思って目を深く閉じ…気が付けば江戸村に来ていたそうだ。

裸一貫で江戸村に来てしまった祥さんは、その変に干してあった衣装を拝借し街を放浪していた。

何とか帰る術を探していた祥さんは、ある親切な人と出会い、

食べる為に、この教師という仕事を紹介され就いた。


しばらくは変わりない日々だったが、突然訃報が祥さんに届いたんだ。

祥さんは教えられた場所に行くと…そこにあったのは変わり果てた恋人の姿だった。


腐敗の様子から死んだのは祥さんが江戸村に来た日辺り。

裸で傷だらけ…何があったかは想像がつく。

祥さんと同じように裸のまま江戸村に来てしまった彼女は、夜盗に襲われる。

弄ばれた揚句に放置され…死んでしまったのだ。

祥さんは酷く悲しみ、食事もとらず、毎日自分も死ぬ事だけを考えていたらしいが、

職を紹介してくれた人に励まされ、この江戸村で生きて行く決心をしたらしい。


祥さんは立ち上がり、一番奥の部屋にあった大小二つの箱を持ってきてくれた。

「こっちの大きい方は私の恋人…妻の遺骨だよ?ほら美里…挨拶して?」

俺の前に遺骨を差し出す。

俺は気の毒な遺骨に手を合わせた。

「こっちの小さな箱は?」

祥さんに尋ねた。

「こっちの箱は…私の子供だよ?」

「こっ子供?」

「あぁ、彼女は私の子供を妊娠していたんだ。もうすぐ産まれそうだったのに…」

祥さんの痛みが心に流れてくる。


「そんな辛い出来事が…」

「あぁ、当時は本当に死んでしまいたかったんだ。

 でも彼女を上で待ってる両親に合わせてあげたくて…俺は生きて行く決心をしたんだ。」

「そうなんですか。…あっ!だから俺の他にも江戸村に来た人が居るって言ったんですね?」

「あぁ、私もそうだった。なら君にも一緒に来てる人が居るんじゃないかって思ってね?」

「そっかぁ。俺も早く麻美を見つけないと!」

「おや?マッチョ男は?」

「あれは…どうでもいいんです!」

「…ぷっ。」

俺の言葉に祥さんが笑う。

良かった。


「祥さんは、その恩人さんの為に教師をしているんですね?」

「そうです。食べる術を教えてくれ、私に生きて行く勇気をくれた人だから…」

「そうですか。俺にとって恩人は、弥平さんにつるさん、そして祥さんですね。」

「私は何もしてませんよ?ただ自分の経験を語っているだけで…」

「いえ、俺にとっては心の支えです。同じ時代を知っていて同じ価値観で話せる人。

 唯一安心出来る場所ですよ。」

「ふふっ、何だか照れますね。」


祥さんの顔に余裕が戻り、俺は一安心だった。

でも…本当に早く麻美を見つけないと危険だな。

せめて何処かで隠れていてくれれば…


「でも、何も手掛かりが無いのはキツイですね?少しでもヒントがあれば…」

「そう思って携帯を持ち歩いていたんですが…麻美の写メが有る方がいと思って。

 でも使わない方が良さそうですね?」

「あぁ、辞めた方がいい。他には?」

「えっと…探すのに役立ちそうな物は無いです。」

「そうですか…。」

「明日は俺が江戸村に来た時倒れていた場所に行ってみようかと思ってます。」

「ほう、それは良いかもしれません。私は仕事で行けませんが…大丈夫ですか?」

「あっはい。道は簡単だったので大丈夫です。」

「そうですか。でも余り遅くならない内に帰りなさい?」

「はい。分かりました!」


俺は与えられた部屋に戻り、一日の疲れを癒そうと布団に入った。

でも…祥さんから聞いた話が頭の中で映像に変換され流れてくる。

愛する者を二人同時に失った悲しみ…想像もつかない。

早く麻美を見つけてやらないと…


翌日、俺は倒れていた場所に麻美を探しに行った。

たとえ見つからなくても、何か手掛かりもあるかも知れないし。

でも…何一つ見つからなかった。

今日は一旦帰ろうかと思って、山を下っていた時だった。

もうすぐ街という所まで来た俺の耳に、聞いた事のある…どなり声が聞こえてきた。

「くぉのののーーー!待てよオイ!!」

「ひぃ!おっ御助けーー!」

「ってんめーー!俺からスリなんて1000年はえぇ-んだよ!」

「とっ盗った物はお返ししますから!助けてーー!」

「ふん、弱ぇー癖にイキがってんじゃねー!…もうスリなんてやるな!」

「へぇへぇ!やっやりません。やりませんからーー!」

「ちっ、失せろ。」

バタバタと足音がする。

へぇ、自分から物を盗った奴を逃がしてやるんだ…何気に良い奴。

でもこの声…聞いた事ある様な?

俺は確かめる様に、草むらから覗いてみた。



視線の先には、この世界には居る筈が無い容姿が仁王立ちしていた。

汚れてはいるが、あり得ないほど派手なスーツで、髪は金髪でロン毛。

服がピッチピチな程の荒々しい肉体…こっこいつ!

「金髪…ロン毛。」

思わず言葉に出てしまった。


金髪ロン毛は俺の声に気付き、俺の方に視線を向け近づいてくる。

やっヤバイ!こいつには文明も通じないし、喧嘩も勝てない!

きっ木の棒…木の棒は無いのか?せめて道具!!

…周りに無いもなーい!!


「おい、誰か居るのか?出てこい!」

声を低くして話しかけ来る。

「にっニヤァーー!」

思わず猫の鳴き真似。

「ふん、猫か。」

良かった。誤魔化せた?

「…って、こんな太い声の猫が居てたまるか!さっきの野郎の仲間かぁ?」

そうですよね。俺自身も猫の真似はキツイと思ってました。

「…俺だよ。俺。」

観念して姿を現す。


「…おっお前は…ホスト…」

「なっ何だよ!俺…何も盗ってないぞ!!」

「…や。」

「やっ?」

「やったぁ…やったぁぁぁーーー!」

んっ?何か変な反応だ。

「なっ何だよ?」

「おっし!やっと話しの通じる相手が居たぜ!あぁーーー良かったぁ!」

「何だお前…」

「いやぁ、俺正直心細くてさぁ。穴に落ちた筈なのに気付いたら知らない場所でさぁ。

 話しかけても相手にされないし、役人みたいな奴に追いかけられるしさぁ…

 仕方なくこの辺に隠れてたら、今度はスリだぜ?何なんだよ此処。」

何だか大変だったらしい。


「…此処は江戸村っていうらしいぞ?」

「江戸村…日光か?」

「あぁ、そういえばそんなレジャー施設あったな。でもレジャーじゃ無い。リアルだ。」

「…はぁ?意味わかんねぇ。」

「俺たちの時代から取り残された街…それがこの江戸村だ。

 文化は実際の江戸時代と同じだ。タイムスリップみたいな感じか?」

「タイムスリップ…だと?」

「あぁ。でも2010年なのは確か何だが…」

「よっ良く分かんねーけど。んで何でお前はそんなに詳しいんだ?江戸村ってのについて。」

「詳しくは無いけど…俺は親切な人に出会って教えて貰ったんだ。」

「親切な人?誰だそれ。」

「俺達より10年も前にこの江戸村に来た人、祥さんって言うんだ。」

「祥だと?」

「あぁ、祥さんに話しを聞いて知ったんだ。この世界の事。」

「そっか、んなら俺にも会わせろよ。その祥って奴に。」

「…やだよ。」

「んだとぉ?」

「そっそんなぼっ暴力的な奴に会わせられる筈ないだろ!」

身構える俺。


「…わかったよ、もう殴んねーよ。だから会わせろ。」

「…本当か?」

「あぁ。」

「本当だな?」

「しつけー!!殴んねーって言ってんだろ!」

こっ言葉だけで怖ぇぇー。

「わっ分かったよ。会わせるから…」

「よし。分かれば良い。早く行こうぜ?」

「あぁ、こっちだ。」

俺は金髪ロン毛と並んで祥さんの家に向かった。


「祥さん、今帰りました。」

「おぉ、お帰りなさ…おや?この人は?」

「お前が祥か?」

いきなり失礼な男に、俺は精一杯の威嚇を込め睨んだ。

金髪ロン毛は、分かったよと言わんばかりに唇を噛んでいた。

「はははっ元気のいい若者ですね。その容姿からして…光くんと一緒に来た人ですね?」

「あぁ、そうだ。あんた10年もここに住んでるんだろう?」

「えぇ、そうですよ?」

「なら、帰る方法を教えてくれ!」

「…知ってたら私も帰ってますよ。」

「知らねーのか?」

「えぇ、残念ながらね?」

「んだよ。使えね―な。」

こっこいつ本当に礼儀知らず!

思わず足を蹴っ飛ばす。


「なっ何だよ!殴ってねぇだろ!」

「お前の態度だよ!折角会ってくれてんのに何だよ!」

「この!やんのか?」

「あぁ、やってやるよ!カカッテコイ…」

カタカナなのは俺の動揺の表れだ。でも此処で引いたら男じゃ無い!!


「まぁまぁ、取り合えず今日はゆっくり休んで明日また対策を考えましょう?」

「しっ祥さん…」

「ちっ飯あんのか?」

ここに泊まる気か?こいつ。

「ふふっ、沢山食べなさい?さぁ上がって。」

「あぁ、遠慮なくごちそうになるぜ?」

泥だらけの靴を脱ぎ、座敷にドカドカ入って行く金髪ロン毛。

こいつを連れてきたのは失敗だったか?



ロン毛との合流。

話しが動きだしそうです。

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