立ち上げの章(3)
新八さんから出た、あり得ない言葉。
「お上ですよ。」
俺に殿さまと交渉しろって事?
「あの…新八さん?その土地は殿さまと交渉しないと無理ですかね?」
何とか現実的な解決策を!!!
藁にも縋るってこういう事なのかもしれない。
「…まぁ、殿様といっても直接話しなんて無理ですし、
役人に顔が利く人に相談するのが一番かもしれやせん。」
役人に顔が効く人…、あぁ!!祥さん!!!
俺には祥さんと言う強い見方が居るじゃないか!!
たしか…役人も相談に来るとか言ってたよな?
なら口利いて貰えないか?そうだよ!祥さんに相談してみよう!!
「居ました!役人に顔が利く人!早速相談してみますね!」
善は急げと立ち上がる俺。
「旦那ぁ!ちょっと待って下さいよ!」
新八さんが俺を止める。
「はい?」
「旦那、お話しを伺うに…問題は幾つもありますぜ?」
「…問題ですか?」
「へぇ。まず土地が手に入っても、通路を造るのにも店を立てるにも…相当腕のいい大工が必要ですし、
ホストウをやるには器量の良い男衆も必要。」
「あぁ…。確かにそうですね。大工さんも探さないといけないしキャストも…。」
そうなんだよな。この江戸村に女性にヘェコラしてくれる男が居るだろうか。
俺が想像する江戸時代って、女は一歩下がって着いてくるって感じだし。
男が女性の後を着いて…なんて無理かもしれに。
でもキャストが居ないと店は回らないし…どうしよう。
人材確保…これ、一番の問題かもしれない。
新八さんに問題を指摘され、頭の痛い俺。
重い足取りで一旦家に帰る事にした。
帰宅途中、どうやって人材確保しようか悩んだけど…結局いい案は出なかった。
「祥さん、只今戻りました。」
暗~い表情で祥さんに声を掛ける。
「おや光君、随分落ち込んでますが…どうかしましたか?」
「はい、幾つも問題があって…。あっ祥さん、お願いがあるんですけど。」
とにかく土地を何とかしようと、俺はさっきの話を祥さんにしてみる。
「…土地ですか。うーん…あっ!!そういえば…。」
祥さんは思い当たる人はいる様だ。
「祥さん!誰か良い人居ましたか?紹介してもられませんか?」
「居るには居るんですが…、ただ私にも会えるかどうか。」
「…会うのが難しい人何ですか?」
「えぇ。確か君も会ってますよ?ほら吉原で…。」
「吉原?…っ!!まさか梅さん?」
吉原で会った人といえば、最初に思い浮かぶのは梅さんの顔!
でも…、梅さんって遊び人っぽいし、真面目な相談が出来そうなタイプには見えない。
「…梅さんではありませんよ?ほら…、武君を探して居る時に会ったでしょう?」
「探してる時?……。まさか…徳さん?!」
「当たり!その徳さんなら何とかしてくれるでしょうが…。」
そう言えば会った!若くて強い侍に。
若いなら頭も柔かいだろうし、話を聞いてくれるかも!
「でもね、徳さんは侍の中でも身分が高い人なんで…私も滅多に会えないんですよ。」
「祥さんでも会えないんですか?それは…困りました。」
祥さんが会えない人に、俺が簡単に会えるとは思えない。
これは…一歩進んで二歩下がった心境だ。
「…何とか徳さんに会える方法は無いですかね?」
祥さーん、お願いですから何とかして!
「うーん、直接会いたいと願い出ても、まず会えないでしょうし…私の所に来るのを待つか、
徳さんの好きな吉原で待ち伏せするか…まぁ、どちらかでしょうね。」
なんと気の長そうな提案。
「あの、もし徳さんが祥さんの所に来るとしたらどれ位で会えますかね?」
「まぁ…半年以上は見ていた方が。」
「はっ半年ですか?」
「前回来たのも半年前ですし…、つい先日来ていたんですがねぇ。」
「まっマジッすか?」
半年なんて悠長な事言ってらんない!
今度こそ…花菊さんに首をへし折られそうだよ。
じゃぁ…吉原で待ち伏せしていた方が良いかもしれないな。
「…じゃあ俺、毎日吉原で待ち伏してみますね?」
「多分、それが一番早いかも知れませんよ。」
「はい。じゃぁ早速…と言いたいんですけど、あの…。」
「何か?」
「はい、俺が急に声を掛けて徳さんは話を聞いてくれるでしょうか。」
そうなんだよなぁ、徳さんみたいな侍…一般人の俺が話しかけても聞いてくれるかどうか。
顔見知りならまだしも、挨拶しかした事無い俺の事なんか覚えているだろうか。
いきなり取り巻きに切りつけられたりしないだろうか。
うーん…俺、超不安なんですけど!!
「まぁ、そうですよね。多分徳さんは覚えてる筈ですが…。」
ほら、祥さんも同じ事考えてるじゃん!これ…ピンチじゃねぇ?
「あの…、祥さんも一緒に来て頂く訳には…。」
祥さんが一緒なら話は早いけど…
「それは…無理ですね。」
がくっ。
「やっぱり無理ですよね。」
「はい、無理です。私が家を長時間離れれば…私だけでなく貴方も稼ぎが出るまで断食ですよ?
それでも良いなら構いませんが…どうします?」
くっ、一文無しの俺には効果絶大だ。
俺は仕方なく一人で吉原に戻る事にした。
とにかく徳さんが来るのを待って、駄目元でも話をするしか…
せめて、急に切られる事だけはありません様に。
俺は徳さんを探して、吉原の町をうろつく毎日。
でも…徳さんの姿を発見する事も無く一週間が過ぎてしまった。
流石に吉原の住人達は、俺の事を不信がって…
そりゃそうだよな。江戸村に似つかわしくない格好でウロつく男。
女を買う訳でもなく、ただ誰かを探す様に街中を眺めているなんて不気味だよな。
通りゆく人達がジロジロ見てくるので、流石に居辛くなってきたよ。
なんか…、泣きそうです。
「あれ?光かぁ?」
センチメンタルな俺に、後ろから声が掛る。
「あっ、武…久しぶり。」
そこには、すっかり江戸村に馴染んでいる武の姿があった。
江戸村の衣装を自分流に着こなし、長い金髪は上の方で纏められている。
周りを数人の厳つい男たちに囲まれ、すっかりヤクザの雰囲気醸し出している。
これ…、知り合いじゃなかったら、絶対声掛けないな。
「なんだよ光、何凹んでんの?」
「いやぁ、それが…。」
久しぶりに話しの分かる相手に会った俺は、今までの経緯を武に話した。
近くの飯屋に入り、二人だけで酒を飲んだ。
「ふーん、徳さんねぇ…聞いた事ねぇーな。そんな目立つ侍なら俺の耳に入ると思うが?」
「そっか…。俺…どうしたら良いか分かんねーよ。」
「…でも、ここで待つしか方法ねぇーんだろ?」
「そうなんだよなぁ。祥さんの方に来たら連絡あるだろうし。」
「んー、っ…よし!俺が手伝ってやるよ!!」
「…えっ?」
突然の武の申し出だった。
武が手伝ってくれるって…一体何を?
「徳さん見つけても、周りを侍達が守ってんだろ?俺に任せろよ!!」
ガハガハ笑いながら話す武は、すっかりヤル気になっている。
俺…本当は円満に解決したいんだけどなぁ。
「あの…、僕は円満的解決が出来た方が嬉しいんですが?」
「分かってるって!あくまでも俺はボディーガード!」
「まぁそれなら。でもさ、何で俺の手伝いする気になったんだ?お前そんなに暇なのか?」
「…聞いてくれよ。おれさぁ…。」
武は、よくぞ聞いてくれました!とばかりに話し始める。
武は新八に気に入られヤクザの客になった訳だけど、
この所毎日ある事を勧められ、武はウンザリしているらしい。
それは…、新八の娘と結婚みたいだ。
「俺さぁ…、女は好きだけど結婚とかって…無理じゃねぇ?」
「まぁな。お前…家庭向きでは無いよな。」
武なんか婿に貰ったら、奥さんは大変だぞ?
「…お前、何か勘違いししてねぇ?」
「何が?」
「だから、俺は結婚が嫌なんじゃなくて、結婚自体しても無意味だろって言ってんだよ。」
「…無意味?」
「お前…まさか、花菊って女とマジで結婚してぇとか思ってんの?」
「…いや、だってしょうが無いだろう。」
「しょうが無いって!お前…元の場所に戻る気は無いのかよ。」
「元の…場所?」
「東京だよ。日本国の東京…歌舞伎町だよ!まさか諦めた訳じゃねぇーよな?」
「…まっまさか!俺だって元の世界に帰りたいよ。」
「…ならいいけど。俺は元居た場所に絶対帰って見せる。それだけは忘れんなよ。」
武はグイッと酒を飲み、俺も続いて酒を煽る。
ちょっと忘れかけてた。元の場所に戻りたいという気持ち。
この世界で生きて行く事ばかり考えて…大切な事忘れてた。
なにも一方通行って訳じゃ無いだろうし、帰る方法は必ずある筈!(多分)
そうだよ…今やってる事は、金を稼ぎ、何時か来るその日まで生きている為の手段!
本気になっても無意味。
…逃げちゃおうかな?…嫌、祥さんに迷惑掛けるだろうし…麻美の事も気になる。
とにかく金の為にも麻美の為にも…俺に出来る精一杯の事を頑張るしかない。
そうだよ…、落ち込んでる場合じゃない!!
「…武、頑張るよ俺。」
「あぁ?…まぁ、頑張れよ。」
ちっ、武なんかに励まされるとは!!!