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出会いの章(1)

はじめまして!あきチャンです。

お立ちより頂き感謝です。

更新は遅いかも知れませんが、途中で投げ出さない様頑張ります!!

宜しくお願いします。


「うぇ…気持ち悪ぃぃ…。」

二日酔いのムカムカ、喉の渇き…目も重くて開けたくない。

俺、また飲み過ぎたのか…体中が軋んでるよ。


そういえば昨日は、俺の少ないの指名客の一人、麻美が来てくれたんだっけ。

何か無茶苦茶な飲み方をしていて…俺も付き合って…その後どうしたんだけ?

うーん、あんまり覚えてないや。

俺は、とにかく喉の渇きを潤そうと起き上がろうとした。

フカフカの布団に手を付いて…ん?何か肌触りが…?


うっすら湿った芝生の様な…それでいてガサガサしていて…何時もと違う。

俺は、重くて仕方ない瞼を開けた。


「こっ……、ここ何処だ?」

見慣れない風景。辺り一面草木のみ。

俺、酔っぱらって野宿しちゃったのか?うわぁ最悪だ。

見れば俺の一丁着のスーツに染みが出来ている。

「クリーニング出さなきゃな…。」

何気に高いクリーニング代を気にしながら立ち上がる。

「よぃっしょ!……痛っ。うわぁ、頭痛ってーー!!」

立ち眩みと酷い頭痛に襲われる。まぁ何時よりチョイ強烈。


フラフラと歩き出し、自宅に帰ろうと辺りを見回すが、草木ばかりだ。

「ったく、俺って何処まで来たんだ?」

都内にこんな自然が残っている事にも驚いていたが、

いくら歩いてもアスファルトを発見出来なかった。

家に帰るなら、まず道路を発見しなくては。


しかし…いくら歩いても道路どころか、街頭すら発見出来なかった。

でも、獣道だが人間が歩いている形跡はあった。

キチンと草木が切られ、身体に当たる事無く先に進める。

でも整備されてる…には程遠い出来。

しかも坂…きつい!山道かよ!!……って、もしかして…ここって山?

もしかして俺、酔っぱらって山まで来ちゃったのか?

俺は胸ポケットに手を突っ込み、財布を取り出す。

1、2、3、4…金が減って無いって事は、自力で?山まで?…あり得ない。

歌舞伎町のど真ん中から山まで歩いて来たって事?あり得ないだろ!!

とにかく人里でも見つけなきゃ!山奥だって駐在さん位居るだろうし。

登山とか知識無いけど…とにかく山を降りなくては!


腕時計によると、今の時間は…1時。日が出てるから午後の一時だな。

早く帰って出勤しなければ!!


2時間ほど山を下ったが、人に逢う所か民家すら無かった。

傾斜が少なくなってきた事から、けっこう下って来たと思ってるけど…。

腹も減ったし、喉なんてくっ付きそうだ。

苦労して買ったブランドの靴が泥だらけだし…最悪。


帰ったら病院に診察にでも行った方が良いかもしれない。

だって、尋常じゃないだろ!

いくら酔ってても、こんな山奥まで自力で来るなんてあり得ない!!


……そうだよな、あり得ないよな。

正直感じてたんだ。俺、誘拐でもされたんだろう。

資産は持ってない。実家だって普通の家庭。って事は、客絡みか?

起きた時、スーツは汚れてたけど、靴はピカピカだった。

自力で昇って来たなら靴だって汚れている筈。

やっぱ俺、誘拐されたのか。

でも、一体誰だ?恨みを買った覚えは無い。


そっそうだ!レスキュー出動をお願いしてみよう!!

俺は携帯を取り出す。……けっ圏外じゃぁーー!!


少々自棄になりながら道路を探していると、ふと光る何かが見えた。

光りに反射している物の傍に近寄る。

そこには…真っ赤なハイヒールとハンドバックが落ちていた。

何か…見覚えがあるなコレ。


……っあああーーー!!!思い出した!!




テレビでホストという存在を知った俺は、良い女、良い車に憧れ上京。

自分なりに一生懸命頑張ったが、一向に芽は出なかった。

勤め始めて2年目が経ち、後輩には抜かされ、同期には置いて行かれ…

正直地元に帰ろうかと思っていた。

そんな時知り合ったのが麻美だった。

そんな太客では無いが、毎週の様に通ってくれた彼女。

彼女は借金返済の為、泡嬢の仕事をしていた。

人形の様な可愛らしさとテクニックで、店のNO.1だった。

借金返済もあり、飲んでいく金額こそ少なかったが、

俺は、客の中でも彼女との時間を一番楽しんでいた。

何時もは大人しい酒の飲み方をする彼女も、昨日は少し荒れた飲みをしていて…


俺は身体を考え、ホストの身ではあったが…少し控える様に勧めた。

でも彼女は聞く耳を持たなくて、仕方なく俺も一緒に飲み始めたんだ…。

二人で閉店まで飲み続け、泥酔した彼女を自宅まで送ろうとした時の事だった。


店の前にタクシーを呼び、車に乗り込もうとした瞬間、低い男の声が後ろから聞こえた。

「おい!麻美!!」

振り返れば如何にもサラリーでないスーツを身に纏う、金髪ロン毛マッチョ男。

何気に美男子でムカついたが、どうやら彼女の借金回収に来た様子だった。


「…彼女に何の様ですか?」

俺は解っていたが時間を稼ごうと会話を振る。

「俺は麻美の昔からの知り合いだ。貸した金を返して貰おうと思ってな!!」

やはり借金取りだ。

「…麻美さん。起きられますか?」

「うーーん…気持ち悪いし…お金なんか…無いし。」

半分眠っている彼女が答える。

「てってめぇ!!今日は返済日だろ!!金も無い女がホストなんかで飲んでんじゃねぇ!!」

金髪ロン毛は乱暴な手つきで彼女の手首を掴む。

「ちょっ乱暴は辞めろ!!」

暴力反対平和主義人間ただのビビりな俺だが、流石に引く訳にはいかない!!

俺は、男の手を振り払い、金髪ロン毛と睨みあった。

彼女も俺たちのやり取りで目が覚め、身体を震わせていた。


「金返せないなら…俺にも考えがある。」

「なっ何よ!!」

「取り合えず泡の掛け持ちだな!!寝る間も惜しんで働け。

 それに、俺のボスもお前と一回楽しみたいって言ってるしな。

 ……取り合えず俺と一緒に来いよ。」

強引に彼女を連れて行こうとする。

「手を離せ!!!」

こっこんな怖そうな男に怒鳴った!!腰が抜けそうだ!!

でも、流石の俺も引けない!!

俺は金髪ロン毛の分厚い胸を思いっきり付き飛ばし、上に覆いかぶさった。


「はっ早く逃げろ!!!」

俺は麻美に向かって叫んだ。

「うっうん!!また連絡するね!!ありがと光!!」

俺の源氏名を叫びつつ、一目散に逃げた。

「くそっ!!ふざけんなぁー!!」

当然マッチョに勝てる筈もなく付き飛ばされた。

「このアマ!!待て!!」

俺の事なんか見向きもせず、金髪ロン毛は麻美を追いかけて行った。


俺も流石に放っておく事も出来ず、二人の後を追いかけた。

麻美は走りにくかったんだろう、ハイヒールとハンドバックが道に落ちていた。

俺は道しるべを拾いながら二人の後を追った。そして…

ハイヒールとバックのお陰で、俺は二人の元に着く事が出来た。


金髪ロン毛は麻美の腰を掴み、自分の肩に担ぎあげている所だった。

やばい!!拉致監禁強制労働ぉぉぉーーー!!


「まっ待てよ!!」

俺は足を震わせ、金髪ロン毛に叫んだ。

金髪ロン毛はゆっくり俺の方を向き、イケてる顔で俺に睨みを効かせた。

「あぁぁん?お兄さん、何か様?忙しいんですけど…。」

ふっっと不敵な笑みを浮かべる金髪ロン毛。むっムカつく!!


「あぁ…麻美さんを離せ!!警察呼ぶぞ!!」

素早く国家権力に頼る俺。

また不敵な笑みを浮かべ、金髪は俺に近づいて来る。

俺はだらしないファイティングポーズを取り、迎え撃った…れた。

金髪ロン毛は、俺のパンチより遥かに早いスピードで攻撃をしてきた…。

鈍い大きな痛みが顔面を襲う。なっ殴ったな!!殴られた事ないのに!!

俺は跪き、顔を両手で押さえた。

そんな俺の横を、金髪ロン毛は麻美を抱え、優雅に歩いて行った。


「まっ待て…。」

少々勢いは無くなったが、俺も麻美を見殺しには出来ない!

再び金髪ロン毛に向かって行った。

「兄ぃさん、しつこいよ?」

俺の方を向こうと体勢を変える…瞬間、俺は金髪ロン毛にタックルを先制!

「うわっ!!」

流石の金髪ロン毛も倒れた…麻美を抱えながら。

ヤッヤバイ!!麻美担いでたのに!!!


しかも、良く見れば後ろには道路工事途中のカラーコーン!

ご丁寧に大きな穴まで!

このままだと麻美まで穴に!怪我で済まないかも!!!


俺は麻美だけでも引っ張ろうと手を伸ばす。

麻美も俺に掴まろうと手を伸ばす。



そうだ…全部思い出した。

俺は結局麻美を捕まえられず、二人は穴に落ちて行ったんだ…

そして俺も勢い良く手を出したお陰で、一緒に落下しちゃったんだ…。

俺…情けないなぁ…

って、穴に落ちた筈なのに、何で山の中?

もしかして、助けに来た金髪ロン毛の仲間に、拉致&放置されたのか?


でも、なんで離れた場所に靴やバックが?

もしかして拉致った連中が落したのか?

ってか、凄い労力だな…俺の事担いで山昇ったのか?

こんな所、車でなんか走れないし…なんか、腑に落ちないな。


今は原因を考えても解らん!!

とにかくどうにかしてココを抜け出さないと!!


俺はその後も山の中を彷徨った。

正直、自分が遭難していたのは解っていたが、喉も乾いた、腹も減った…歩くしかなかった。

もしやと思い麻美の鞄も開けてみたけど、中には化粧品やら香水やら…

俺の空腹を満たしてくれる物は無かったんだ。


もう…汗も出ないよ。

俺は山の中に倒れ込んだ。

気付けば空は薄暗く、時計を見れば6時になっていた。

今日は取り合えずココに寝て、明日また歩こうと野宿を覚悟した時、俺の耳に音が聞こえた。

そう…微かに水音が聞こえたんだ。


「みっ水…。」

俺は音の方へ走りだす。

みっ水!!ちょっと汚れていても構わない!とにかく水が飲みたい!!

経験した事のないハイテンションを感じ、一心不乱に走った。


いきなり開けた場所に出たっと思ったら、目の前には美しい小川が流れていた。

「みっ水ぅぅぅぅーーー!!」

俺は小川の中に顔を突っ込み、息をするのも忘れ水を飲んだ。

「………ぶはぁぁーー!!美味ぁぁーーい!」

生き返るってこういう事かと思った程染みわたる水。

味も悪くない。喉が渇いていたからとか関係なく、その小川の水は美味かった。

夕焼けにキラキラ光る小川…。なんて綺麗なんだ…。

俺は、川縁に腰を降ろし、一息ついた。

煙草に火を付け、深く吸い込む…ふぅぅぅーーー。…疲れた。

煙草を吸い終わると、一気に身体に疲れが襲いかかった。


「あーぁ、無断欠勤しちゃったよ…俺、首かなぁ…。」

俺は疲れ切って目を閉じ怒っている店長を思い浮かべる…。

そして俺は潤った身体を横にして、川縁で気絶する様に眠ってしまった。



翌朝、俺は眩しい朝日に起こされた。

電気、消し忘れたか?

……あぁ、そうだ。俺は拉致&放置されたんだ。

産まれて初めての野宿。ふーん、腹さえ一杯なら悪くは無いな。


俺は水を腹一杯飲み、また歩き始めた。


もしかして、川沿いなら民家が有るんじゃないか?

俺は川に沿って歩く事にした。


そして…俺の感は的中したんだ。


川沿いに汚い小屋を見つけた。

人が住んでるとは思えなかったが、連絡機器は有るかもしれない!!

俺は小屋に駆け寄った。


「失礼しまーす…。どなたか御在宅でしょうか…。」

俺は簡素な扉を開ける。…誰も居ない。

最初、山小屋か船でも保管している場所かと思っていた。

でも、中は狭かったが布団や窯がある事から、人が生活している様だった。

もしかしたら資料館かとも思ったが、こんな場所に造っても意味が無いと悟った。


それに…なにやら食材らしき物が置いてある事や、テーブルが置いてある事から、

やはりここは、人様のお宅の様だ。

しかし、このハイテク時代にこんな家がまだ存在しているとは…凄いな。

ってか、俺が知らないだけで、山奥の家って皆そうなのか?


俺は固定電話を探した。

…無い。ってか、この家は文明拒否でもしてるのか?

電化製品が一切無い!冷蔵庫もテレビも、電灯すら設置されてない!

山奥すぎて電気来ないのか?

とにかく、俺は家で住民の帰りを待った。

ここの住民に脱出方法を聞く為に…。


夕方になり、人の声がしてきた。どうやら住民が帰ってきたようだ。

扉がソーッと開かれる。


現れたのは50代位の夫婦だった。

俺は帰宅する道を聞こうと話しかけようとしたが…ビックリして声が出なかった。

なんでビックリしたかというと…夫婦の服装だった。


時代劇に出てくる様な汚いボロ着物を身に纏っている。

奥さんの手には籠、旦那の背中には薪…。

あぁ!退職して田舎暮らしってヤツか?ここまで徹底してるとは…。


「あっあのぉ…どなた様で?」

旦那が話しかけてくる。奥さんは旦那の後ろに隠れて俺を見ている。

「あっ勝手に上がってすみません。俺、遭難しちゃったみたいで…。」

「はぁ…。」

「んで、帰り道を教えて貰いたくて待ってました。あの、ココって何処なんですか?」

「こっココかぇ?ここは江戸村の外れだが…。」

えっ江戸村?…って何処だ?

「江戸村ですか?あの、何県ですか?」

「なにけん?なにけんって何だ?」

この旦那、馬鹿にしてるのか?

「あの、都道府県を聞いてるんですけど。」

「とっとどうふけぇ?なんだそりゃ…。お宅、異国の人かぇ?頭も茶ぁこいしなぁ…」

この旦那…茶髪も見た事無いのか?天然?ボケ?喧嘩売ってる?


「あの、もう良いんで。帰り道だけ教えて下さい。」

怒りを抑え、にこやかに笑い聞きだす。ホストで良かった。

「はぁ…お前ぇさんは何処に住んでるんだ?」

「はい。歌舞伎町です。」

「かっかぶき?何処だそれ…。」

歌舞伎町…本気で知らないのか?

「あの…本当にもう良いんで、駅とか交番とか教えてもらえませんか?」

「疫?高…はん?お前ぇさんの言葉は解らんなぁ…ニッポン語話せんのか?」

「あの…勝手に家に入ったのは謝ります。でも、俺も本当に困ってるんです。

 助けてもらえませんか?」

「そりゃ、袖振り合うのもってな!助けてやりてぇが…お前ぇさんの言葉が解らん。」

「だから!!……本気で言ってるんですか?」

「はぁ?あったり前ぇだ!俺は冗談は好きだが、人を困らせるのは性じゃねぇや!!」


この旦那…本気で言ってるのか?

「あの…俺、東京に行きたいんですけど…。」

流石に首都位解るだろ!!

「はぇ?とうきょう?何処だ?」

あっ…頭にくる男だ。

「うーん、解んねぇ。すまねぇ兄さん。そのかわり明日先生の所に連れてってやるよ!!」

「はぁ?先生ですか?」

「あぁ。俺が野菜届けてる先生だ。子供に学問を教える偉ぇ先生だ。」

まぁ、この男よりマシか…。


「そうですか…。あの、今すぐという訳には?」

「はぁ?今から山降りたら、俺が家に帰ってくるのは朝になっちまう!!そいつは無理だ。」

「そこを何とか…。」

早く帰らなくては!!流石に二日も無断欠勤は出来ない!!

出勤は無理でも連絡しなくては!!

「すまねぇ…兄さん。今から山歩くなんて危険すぎて無理だ。」

「……そうですか。解りました。」

しょうがないか…ここで怒らせて帰れなくなったらもっと困るし。


「そのかわり、今日はココに泊まって行け!飯位出させろ!!」

旦那が俺に向かって言う。

まぁ、小屋でも野宿よりはマシか?

俺は素直に礼を言い、一晩御厄介になる事にした。

「あの、御名前は?」

一晩厄介になる以上、名前位聞いておかないとな!!

「俺は弥平。こっちはツルだ。お前ぇさんは?」

「俺は光って言います。」

「光かぁ。珍しい名前だな!!やっぱ異国の人は違うな!!」

「いや…日本人ですよ!!」

「日本人?いやぁ、お前ぇの頭、茶色だし、言葉は解んねぇし…まぁどうでも良いか!!」

どうでも良いなら…俺も何回も説明するのは面倒なんで。



「何も無くて…すみませんが。」

ツルさんは俺に食事を出してくれた。

茶碗に白いご飯。上には一枚の沢庵…のみ。

「おぉ!!張りきったな!」

弥平さんは満足そうにツルさんを褒めた。

…飽食の時代ですよね?でも、こんな暮らしをしている二人だし…。

「ありがとうございます!頂きます!!」

無いよりマシと思い、口に運ぶ。


俺が食べるのを満足そうに眺める弥平さん。

「あの…お二人は食べないんですか?」

自分たちはニコニコ見ているだけで、食事をしていない。

そんな食べ辛い視線に耐えられず話しかけたんだ。

「あぁ。俺たちはもう食った!!なぁツル?」

「はい。沢山!!」

「そうですか。では遠慮なく。」

俺は一気に口の中に放り込んだ。


食事が終り、ツルさんは布団を敷いてくれた。

俺は布団を一つ宛がわれ、夫婦は一つの布団に眠った。

正直薄っぺらい布団だったが、野宿より快適ではあった。

早く家に帰りたい。美味い飯食いたい…。

そんな事を繰り返し考えながら眠りに就いた。


深夜、俺は物音で目が覚めた。

隣に視線を向けると…夫婦は居ない。

土間を見ると…夫婦は水を一心不乱に飲んでいた。

ツルさんはお腹を擦っている。弥平さんはお腹をグーグー鳴らしている…。

もしかして…夫婦は食事をしていなかったのか?

見るからに貧乏だし…少ない米を俺にくれたのか?

そうだとしたら…俺は何か誤解をしていたかもしれない。

俺をからかう弥平さん…実は凄く良い人では?

それに…からかったんじゃ無くて、本気で言葉が解らなかったのか?

俺は…人を見る目が無いな…。

有難う弥平さんツルさん。



翌朝、俺はすっきり目が覚めた。

夫婦は既に起きていて、ツルさんは窯の前に立ち、

弥平さんは胡坐で楊枝を咥えている。

「おう!光ぅ。良く眠れたか?」

「はい。お陰さまで。」

「じゃぁ、早く飯食って先生の所に行くぞ!!」

「はい。」

そこにツルさんが昨日と同じ食事を出してくれた。

茶碗一杯の白い米…夫婦にとっては大事な食糧だろうに…

「すみません。頂きます。」

「おぉう!遠慮せずに食え!!」

嬉しそうに進める弥平さん…お腹がまだ鳴ってますよ?

本当にありがとう二人とも。

俺は一粒一粒大事に食べ茶碗をツルさんに返す。


「じゃぁ、行ってくるな!!」

「はい。御気を付けて…。」

ツルさんは深く頭を下げ見送ってくれている。

俺はツルさんに挨拶を済ませると、財布の中から二万円を渡した。

本当は全部渡したかったけど…流石に帰り賃は残さないと…。

「ツルさん、御世話になりました。少ないですけどお礼です。」

「……あの、これは何に使う道具ですか?」

札の匂いを嗅いだり、裏返してみたり…不思議そうに眺めるツルさん。

「あの…偽札じゃないですよ?」

「にせさつ?何ですか?」


そっか、わかった!!この夫婦は仙人だな!!

いや、そんな事ないか。一緒に山を下りてくれるみたいだし。

札で買い物する土地じゃないのか?不思議な場所だな。


「じゃぁ、お礼にコレを受け取って下さい。」

勝手に麻美の鞄を漁り、箱に入った口紅を手渡した。

「あの…コレは?」

「口紅です。すみませんこんな物しか持ってなくて…。」

「まぁ!!紅ですか?」

嬉しそうに顔を緩めるツルさん。

「でも…これはどうやって使うので?」

俺は箱を受け取り、封を外し、キャップを外し、実際にツルさんに付けてあげた。


俺が再びツルさんに口紅を返すと、ツルさんは嬉しそうに川へ走って行った。

川を覗き込み、嬉しそうに自分の顔を見ていた。

「すまねぇ…本当に良いのか?紅なんて高価な物…。」

弥平さんは俺を顔を見ている…。

「勿論!こんな物しか持ってなくてすみません。」

「いやぁ!紅なんて高価な品を下さって…ツルの顔なんか…垂れ下がりやがって…。」

心底嬉しそうにツルさんを眺める弥平さん。


「おぅっと!すいやせん!!先生の所にご案内致しやす。」

弥平さん…言葉使い変わってませんか?


俺は弥平さんに連れられ、やっと山から脱出出来た。

先生のお宅は町中にあるらしい。

俺は弥平さんの後を追い、町と呼ばれる場所に入って行く。



そこは…俺が思い描いていた町では無かった。

俺は近代的なビルを想像していたけど…ビル無いじゃん!!古い民家だけ!!

一軒一軒が重要文化財並みに古い。

しかも、すれ違う人全員、着物を着ているじゃないか!!

しかも…!頭がチョンマゲなんですけどぉーー!!

アマゾンの奥地に来るより衝撃を受けた。


次第に人も増え、ドラマで見た様な光景が広がった。

綺麗に整備された古民家。出店もある。

ちょんまげ頭&刀の男たち、着物で小包持って歩く女…。



ここは…一体何処だ?

弥平さんは江戸村って言ってたし…まさか…まさかまさかまさか!!


江戸ですかぁーーーーーーーーーー!!!



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