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ゲオルク戦記  無実を証明するための決闘裁判

作者: 恵京玖


 温厚な気候でなだらかな平地が広がるクライノート国。そんな国にはゲオルク・ヴァールハイルと言う英雄がいた。

 彼の子供時代は平民として生き、十八歳の時にヴァールハイル家の養子になり騎士となった。

 当時、戦争して他国を支配して行った帝国がクライノート国に侵略しようとしていた。しかしゲオルクが率いた第三歩兵騎士団がヴァールハイル領のアクサイ丘で交戦して、犠牲者を出さずに勝ったと言われている。

 戦後、彼は英雄となり、平民から絶大な人気になっていた。


 そんな彼が死んだのは戦場ではなく、闘技場。

 彼は無実を証明させる決闘裁判を行っていた最中だったと言われている。





*1*

 事件があった日はフスロ公爵家で行われたパーティーだった。参加者は高位貴族(伯爵、公爵、大公の爵位の者)と騎士団長のみ。もちろんゲオルクも騎士団長なので招待状が出て来ていた。


「えーっと、この度はわたくしめ? のような者をご招待いただき、誠にありがとうございます」


 華やかなシャンデリアが照らすパーティー会場で、ゲオルク・ヴァールハイルは主催者であるヘルムート・フスロ公爵と彼の妻に、かなりぎこちなく挨拶をした。

 それをゲオルクの友人のニクラス・ベルッザ伯爵は取り繕った笑みを浮かべながらヘルムートに「すいません、ゲオルクはこういったパーティーは初めてですので……」とフォローを入れた。


「あれ? ニクラス、挨拶の文言が間違っていた?」

「間違ってはいないけど、もうちょっと滑らかに言って頭を下げないと」


 小さな声で話す純朴そうなゲオルクとハラハラしているニクラスに、ヘルムートは「おほん」と咳払いをした。


「いやいや、今日は騎士団長も参加するパーティーだ。例え君がマナーも礼儀も知らない平民だとしても、騎士団長の職を就いているから参加させないといけないからな」

「いやあ、本当に初めてなんですよ。まるで収穫祭のパイ食い競争並みに華やかです!」


 よく分からない例えを聞いてヘルムートは怪訝そうな顔をして「パイ食い競争とは?」と聞いた。ゲオルクは朗らかに答える。


「はい! ようは駆けっこですね。その途中にある吊るされたパイを手で取らずに口で取ってゴールするんです」

「……吊るされたパイに手を使わないで取るとは?」


 意味が分からないと言った感じでヘルムートが聞き、ゲオルクは「口でこう、取るんですよ。こう」と大口を開けてパイを口で取るジェスチャーをする。

 それを見てヘルムートもその妻も野蛮人を見ているような顔になった。周りにいる高位貴族達も聞いていて、冷笑と呆れた雰囲気を出していた。

 それをすぐに察してニクラスはすぐさま話しを変える。


「だけど、この祭りってずっと中止していたんですよ」

「ああ、そうなんですよ。戦時中はずっと出来なかったんです。でも帝国とも休戦となって、領民達もお祭りが出来そうなので、みんなも喜んでますよ」

「まあ、領民に娯楽を与えるのも貴族の役目だからな。例え野蛮な行事でも」


 ヘルムートがドン引きしているのを察してニクラスは話題を変える。


「あ、ヘルムート様。この度は私の妹 ヘレンの結婚相手を紹介してくださり、ありがとうございます。これで亡くなった両親も喜びます」

「別にどうという事でも無いよ。この戦争の功績により、君は爵位が子爵から伯爵になる。そうなってくるとそれ相応の人間との結婚をしないといけないからな。今までの低位貴族(子爵・男爵の爵位)のような平民と同レベルの者と結婚なんて、他の高位貴族に示しがつかない」

「いやあ、ヘレンと結婚できる殿方は幸せですよ。騎士学校時代にニクラスの家に招待された時はいつも彼女の料理をごちそうになっていましたが、ものすごく美味しいんですよ。特にジャガイモのガレットが最高です。そんな彼女の結婚相手を紹介してくださって、ありがとうございます」

「そう言えば、ゲオルク。君、上着はどうした?」


 ヘルムートの言葉でゲオルクは自分の腕を見て「あれ?」と上着が無い事に気が付いた。


「どこに置いたんだっけ?」

「え! ゲオルク、上着を無くしちゃったの? いや、ここに来た時は来ていたはずだ」

「……あそこの椅子に置いたと思うんだけど。メイドさんたちが持って行ったかも」

「かもしれないな。平民の上着をゴミと思って捨てたのかもしれない」

「え……、オーダーメイドで作った上着だったのに……」


 ヘルムートはそう言ったがゲオルクはニクラスと一緒に上着を探したが見つからず、メイドにも聞いたが「知らない」と言われてしまった。結局ゲオルクの上着は見当たらなかった。

 そしてパーティーは終わりを迎えて、ゲオルクとニクラスは馬車で帰った。


「すまない、ニクラス。俺が上着を無くしたばっかりに……」

「いやいや、俺の事は気にするなよ」


 それでもゲオルクは落ち込んでいるので、ニクラスは仕方がないとばかりに笑って、「じゃあ、今日はうちに来なよ」と話す。


「ヘレンが今日の朝来て、料理を作ってくれたんだ。でも大量に作ったから、まだ残っているんだ。悪いけど一緒に片付けてくれないか?」

「お! 本当か! いやあ、久しぶりにヘレンの料理が食べれて嬉しい限りだ。パーティーの料理もあまり食べれなかったからな」


 こうしてゲオルクはパーティー終了後、ニクラスの住んでいる王都のアパートへ向かった。すでに日は沈み、星も輝く夜空が広がっている。そして王都にある多くの古い建築物をゲオルクは遠い目をして馬車の窓から見ていた。

 そしてニクラスのアパート近くで馬車を降りると「おお! ゲオルク団長じゃないですか!」と商人が話しかけてきた。


「やっぱりそうだ。私、王都で行われた戦勝パレードであなたを見て感動したんですよ。生まれが平民で騎士団長にまで出世して、しかもアクサイ丘での戦いの活躍はいつ聞いても感動します。あそこは」

「ありがとうございます。でも自分一人で騎士団長になったり、戦いに勝てた訳じゃないです。他の騎士達、同じ国を守ろうと思ってきた仲間達のおかげです」

「なんて謙虚なお方だ。おーい! みんな!」


 商人の声に彼らの仲間もやってきて、「あ、ゲオルク様だ」と集まってきた。そしてちょっとしたゲオルクの握手会のようになっていった。だがゲオルクはニコニコと笑って、全員に握手をした。そして商人たちは自分達が売っているジャムなどをプレゼントした。

 全員に握手した後、待たせていたニクラスにゲオルクは「申し訳ない。待たせてしまって」と言った。


「いや。それにしても凄いな。ゲオルクの人気」

「本当に。俺自身は何も出来ないのに」


 そんな事を話しながらニクラスのアパートの中に入った。そこでヘレンの料理を堪能して、ゲオルクは夜も遅いという事で泊まった。

 ニクラスとゲオルクは騎士学校の同期であり、友人同士だった。田舎で元平民だったゲオルクはクラス内でも浮いていたのを、ニクラスがよく助けた。騎士になった後も友人同士で、アクサイ丘の戦いで古い型だがカタパルトなどの援助をしたのだ。これでニクラスの家は褒美として、子爵から伯爵になったのだ。

 翌日、朝の十時頃にゲオルクはニクラスのアパートを出た。


「いやあ、ヘレンの料理は最高だったよ。彼女にも美味しかったって伝えてくれ」

「ああ、分かった」


 そう言ってゲオルクとニクラスは別れた。ゲオルクは馬車に乗って、自分が住んでいるヴァールハイル領へと帰って行った。

 馬車はゆっくりと王都を離れていく。ヴァールハイル領はかなり遠い場所にあるので、ゲオルクは途中で宿舎に泊まった。そこでも平民たちから話しかけられ、感謝され、更に宿泊代もタダにすると言われてしまった。さすがに宿泊代がタダは申し訳ないとゲオルクは言ったが、せめて食事はごちそうすると大量に作ってくれた。ちょっとしたお祭りのような感じで平民とゲオルクはその村で食べ、お礼を言った。


 その村を離れて、自分の生まれたヴァールハイル領へと向かう。その間も馬を休ませるため村へ立ち寄ると、村人はゲオルクに気が付いて話しかけたり感謝されたり、お土産をもらったりした。ゲオルクはニコニコと対応した。


 夕方になって、ようやくヴァールハイル領が見えてきた。

 馬車の窓からゲオルクは自分の生まれ故郷を遠い目で眺めていた。火事で燃えた家々、植林、小麦畑が見え、それを住んでいた者達は黙々と片していった。

 ここは戦時中、戦場では無かったが帝国の者が村を燃やしたのだ。犠牲者は居なかったが生存者は戦時中、帰れなかったのだ。だから戦争が終わって、故郷に帰ってようやく直しているのだ。

 それが通り過ぎると教会が見えてきた時、ゲオルクはある物を見つけた。


「すいません、ちょっと停めてもらっても良いですか?」


 従者にお願いして馬車を停めてもらって、ゲオルクは教会の裏へと向かう。そこには昔、亡くなったゲオルクの母と父の墓があるのだ。そこでゲオルクはそこへ向かい祈りを捧げた。

 すると牧師がやってきて、ゲオルクの祈りが終った時に声をかけた。


「お疲れ様です、ゲオルク様。王都に行っていたんですね」

「ええ。ここの村も復興を始まりましたね。元通りの生活が早く戻ってほしいです」

「最悪、ここが戦場になって、帰れなかったかもしれなかった。それをゲオルク様やフリッツ様、そして第三騎士歩兵団様が守ってくださって」

「いや、騎士の務めです。それに私もフリッツ様もここで生まれ育った。ここを戦火にさせるくらいなら、命を懸けて戦いますよ」


 ゲオルクは強い眼差しでそう言い、牧師は涙ぐむ。

 そんな時、「あ、ゲオルク様だ」と男の子が言うと、村人たちが集まってきた。再び、ゲオルクは村人と挨拶したり、話したりした。ゲオルクは一人一人、にこやかに答えていた。

 そうして長い立ち寄りをした後、お土産をもらってゲオルクは馬車に乗った。




 焼けた林を通り過ぎると高い城壁が建てられていた。つい最近出来たばかりの城壁であり、かなり無骨で荒々しい石が積まれている。

 城壁の門の前に「ゲオルク団長、お帰りなさい!」と新人の騎士とベテランの騎士が敬礼をする。馬車から降りてゲオルクは「ご苦労! 異常は無かったか?」と鋭く聞くと騎士達は「はい!」とハキハキした返事をする。

 平民達や高位貴族と会話していたようなニコニコな顔ではなく、すでに戦う者として厳しく鋭い声と表情で部下を見た。


「よし! 引き続き見張りをせよ!」

「はい!」

「それから領民や王都の者からの差し入れだ! 団員全員で感謝して食べるように!」


 ゲオルクは平民からもらったジャムや野菜を見張りの騎士に渡す。新人の見張りの騎士は顔を綻ばせて、すぐに団員の基地へと持って行った。

 それを見届けて、ゲオルクは城壁の外へ出る。

 城壁の外はしばらく林が続くが、すぐに開けて何もない雑草が広がる丘になる。なだらかな丘でここの土地を持った者は耕して、畑にしようと思うだろう。しかしここの土地は耕しても大きな岩が大量に出てくるのだ。そのため開拓を諦め、領民は忌々しく無駄な丘【アクサイ丘】と呼ぶ。だからヤギやヒツジの放牧をするくらいしか価値が無いのだ。だがすぐに深い森があり、自由に放牧するには狭すぎる。

 そんな丘ではあるが、戦後は騎士団が育てている畑があり、囲いはあるがヤギの放牧もしている。そして使い古したカタパルトと言う投石機が綺麗に整備されて置かれていた。


 少々険しい表情でゲオルクは更に少し高い丘へと歩く。頂上につくと目の前には地面を覆いつくすイバラのようなツタ植物が生い茂っていた。それは丘に広がり、森の入り口まで木々に絡みついている。以前の森は帝国すら見えないくらい広がっているが、今は肉眼でも帝国の騎士団の基地がチラッと見える。

 ゲオルクは木々で作ったヤグラへと向かう。


「お疲れ様です! 団長!」

「帝国の基地はどうだ」

「特に動きはありません。イバラを切ったりするくらいです」

「そうか。だが油断はするな! 何かあったら伝えるように!」


 戦争が始まる半年前から帝国はクライノート国を侵攻するため、緩衝地帯であったアクサイ丘の向こうの深い森の伐採を始めたのだ。

 ゲオルクとヴァールハイル領の当主でありゲオルクの義兄のフリッツはすぐに気が付いて、王国に報告をするが、王都とかなり離れたヴァールハイル領に対して興味が無さそうだった。

 それでも食い下がらなかったゲオルクとフリッツに、王は新たに第三歩兵騎士団を作ってゲオルクを団長にした。しかし一年で戦争が起きなければ、解散と言う条件付きだった。だから高位貴族の騎士達には【一年団長】とからかわれていた。

 

 だが騎士団が出来て数か月後、本当に帝国が宣誓布告をしてヴァールハイル領を攻めてきたのだ。

 国中がひっくり返ったように慌てていた。


 しかしフリッツとゲオルク、そして第三歩兵団騎士団は何も冷静に事をする目ていた。宣誓布告する前から攻めてくると分かっていたため、アクサイ丘を農園にするように装って、大きな岩を取り出したり、肥料を撒くフリをしながらスパイクを撒き、耕すフリしながら大きな落とし穴を作ったり、更に異様に生命力の強いイバラを植えた。

 このイバラは深く根を広げるため、巨大な岩を掘り起こして耕した場所にしか生えないようにした。


 こうして帝国の侵攻が始まると、あらかじめ作った罠が有効となった。イバラが絡みついて侵攻を防ぎ、燃やそうとするが火にも強いため、なかなか燃えない。更にイバラを無視して進んでも、尖ったスパイクで馬も歩けない状況になり、大きな落とし穴には嵌って動けない者もでる。

 ゲオルク達には大砲など持っていなかったが、大昔に使われていたカタパルトを使って巨大な岩を侵攻する帝国の騎士達に向けて投げた。この岩はアクサイ丘から出た岩である。

 開戦してすぐにゲオルクの故郷の村が帝国の野党に襲われたが、目立った被害はそれくらいだった。

 宣誓布告をして半月後、帝国は一方的に休戦と言って撤退していった。だがゲオルクもフリッツもまた攻め込んでくると考え、監視の目を光らせている。


 夕日に照らされる帝国の基地をゲオルクは団員が貸してくれた望遠鏡で見ていると、下から「団長!」と別の団員から声をかけられた。


「ヴァールハイル様がお越しです!」

「え? フリッツ様が?」


 ゲオルクが驚いていると後ろからフリッツが歩いてきて手を振っていた。ゲオルクは慌てて「フリッツ様! こんな所に来たら危ないですよ!」と言ってヤグラを降りる。


「帝国はまた攻めてくるはずです。それなのにこんな所に来て」

「来るのは当たり前だよ。ゲオルクが意地悪な高位貴族どもの住処である王都を無事に帰還できたんだから」

「無事に帰還って大げさだと思いますよ」

「それからゲオルクの荷物を片していたメイドが、パーティー用のスーツの上着が無いって言っていたけど」

「ああ、無くしてしまいました」

「それ無くしたんじゃ無くて、隠されたのでは?」

「そんな酷い事をする人は居ないですよ。ただもしかしたらメイドがゴミと思って、捨てたかもしれないってヘルムート様が言っていましたが……」


 ゲオルクの言葉にフリッツはちょっと呆れた顔になるも、「じゃあ、上着の尊い犠牲のおかげでゲオルクは帰還できたんだね」と笑う。


「それはかなり痛い犠牲です。あの上着はオーダーメイドで高かったんですから」


 悲し気に言うゲオルクにフリッツや他の団員は笑いあう。

 緊張感がある戦場でちょっと和やかな雰囲気が流れた。この時はあんな大騒動が起こるなんて、ゲオルク達は知る由も無かった。




*2*

 パーティーから一週間後。ゲオルクは国の裁判所にいた。


 しんと静まり返った王城にある裁判所。小麦と剣、鷹の絵があるクライノート国の旗が掲げられ、それを背に高座に座る国王や公爵家の当主達十五名は証言台に立つゲオルクに厳しい目を向けている。

 一方、証言台にいるゲオルクは俯いてはいるが、表情は歯を食いしばって我慢していようだった。

 そんな彼を侮蔑した目で見ながらヘルムート公爵は口を開いた。


「一週間前、我がフスロ公爵家で行われたパーティーが終了した後、馬車で招待客が帰って行った。だがゲオルク、お前は屋敷に残っていたな」

「残っておりません。俺は……」

「いや、残っていた。私の屋敷に居るメイドが証言をしている。その後、ゲオルクは階段に昇って行った」


 再びゲオルクは反論しようとするが、畳みかけるようにヘルムート状況を語る。


「三階には私の妻が休んでいた。メイド達を下がらせて寝室で眠っていたんだ」

「俺は……」

「聞け! 貴様は妻の寝室に入って乱暴したんだろ!」


 ヘルムートは感情をむき出しでゲオルクに怒鳴りつけた。あまりの迫力にゲオルクさえも、気圧され黙ってしまった。

 ヘルムートは睨みながら更に言う。


「物音が激しいとメイドがおかしいと思って私や私の部下と一緒に見に行ったら、襲われて震えていた妻だけだった。部屋を荒らして、三階の窓が開け放たれていた。恐らく犯人はそこから逃げたのだろう」

「……」

「妻はあまりのショックで寝込んでしまった! しかも卑劣な事に覆面して、誰がやったのか分からないと証言していた。だが教養のない平民のお前はやらかした。妻の部屋にお前が着ていた上着を落としていったからな」


 ゲオルクはすぐに「ちょっと待ってください!」と反論する。それを冷めた目でヘルムートや国王と他の公爵は見る。

 「『発言をさせてください』と言え」と他の公爵に言われて、ゲオルクは嫌そうな顔になりながら「発言させてください」と言った。すぐに国王は「許そう」と返した。


「俺はやっておりません。上着はパーティーの最中に無くしてしまい、俺は持っていませんでした。俺が上着を無くした事をヘルムート様も知っていますよね」

「知っているがその後、見つけたのかもしれないし、自分が隠した可能性もあるかもしれないだろ」

「……それに俺は招待客と一緒に馬車で帰りました。それは他の招待客も見ているはずです。それに俺はニクラスと一緒に帰りました。それから商人達と会って、話しています。その後、ニクラスの住んでいる別宅で夕飯を食べて泊まって、朝まで休んでいました!」


 怒涛の勢いでゲオルクはヘルムートや他の公爵、そして国王に向けて話す。だが彼らの表情は変わらず、ヘルムートは馬鹿にしたように話す。


「君は平民の商人達を証言させようとしたのを注意されたのを忘れたのか? 貴族間の裁判では平民は証言できない」

「でもニクラスは俺と一緒に……」

「彼はパーティー後、一緒ではないと言っていたぞ」


 ヘルムートの言葉にゲオルクは言葉を失う。


「私の言葉が信じられないのか? ではなんで彼は君のアリバイを証言してくれないんだ?」


 ゲオルクはそのまま黙ってしまった。確かにアリバイを証明するため裁判に出てくれとお願いしたのだが、断られてしまったからだ。だけど、まさか会っていないと言われてしまうとはゲオルクは思っていなかったのだ。

 その後、ヘルムートはゲオルクが犯行を行った証拠を話す。だがゲオルクは反論する気力もなく、黙ったままだった。

 だがヘルムートに「お前がやったと認めろ!」と言われると、ゲオルクは声を荒げて「俺はやっていない!」と否定した。


「俺は絶対にやっていない! 確かに俺はニクラスと一緒に帰って、商人達と会っていたんだ!」

「あくまで認めないのか」


 汚いものを見るような目でヘルムートはゲオルクを一瞥した後、国王と他の公爵に向けて言った。


「これだけの証拠を突き付けてもゲオルク・ヴァールハイルは罪を認めません。皆さん、厳しいかもしれませんが、団長、いや騎士である立場であるにも関わらず、卑怯卑劣な犯行をして否定する彼に死刑を求刑したいと思います」


 ヘルムートの言葉に国王と他の公爵を肯定するように頷く。当時、貴族の犯罪者の判決を提案するのは事件が起きた場所の領主であり、判決を言い渡す者は国王だった。

 ゲオルクは「……そんな」と呟く。そんな彼にヘルムートは重々しく宣言した。


「貴様は奢っていたのだ、ゲオルク。確かに帝国の攻撃を守ったのは認めるが、粗暴で礼儀知らずの平民なのだ。そんな奴に騎士団に入る事さえ、間違いだったのだ!」


 そして日を改めて国王はゲオルクに判決を言い渡した。


「ゲオルク・ヴァールハイルはフスロ公爵家の夫人を乱暴した婦女暴行の罪で、死刑に処する」


 この判決を下した瞬間、ゲオルクは膝から崩れ落ちた。それを国王や公爵、そしてヘルムートは冷めた目で見下ろす。

 その時だった。


「判決非難します」


 ドアが開いた瞬間、フリッツの声が裁判所に響いた。裁判所にいた全員がドアを開けて中に入るフリッツを見た。そしてフリッツの後ろには第三歩兵騎士団や平民たちが入ってきて、ヘルムートは怒鳴った。


「おい! 今回の裁判は一般公開されていないのだ! 勝手に入ってくるな!」


 ヘルムートの言葉を無視してフリッツはスタスタと裁判所へ入った。真っすぐに国王へ向かい判決非難の書類を提出した。国王は目を丸くしながら書類を手に取った。

 フリッツは膝をついているゲオルクを立ち上がらせた。それを忌々しく見ながらヘルムートは「貴様、判決非難をすると言う意味を分かっているのか!」と怒鳴った。


「判決非難という事は、我々公爵家や国王の考えに異議を唱える事だぞ! 非礼にも程があるじゃ無いか! フリッツ・ヴァールハイル!」

「ゲオルクが犯人なんて思えないからですよ! こんなにもゲオルクと会ったという証言する者達が多いのに、犯人にされて死刑だなんて! こんな判決、間違っている!」

「黙れ! 国の隅で生きている子爵風情が! しかも判決非難をする権利は親族のみだ! ゲオルクはヴァールハイル家の養子だが元平民だ。お前と血がつながっていない兄弟じゃ無いか!」

「身分が高い人間だろうとヴァールハイル家の者に危害を加えるなら私は戦う! 周りは元平民とか養子とか言っているが、ゲオルクはヴァールハイル家の人間だ! それに小さい頃から私を助けてくれた弟だ! そんなゲオルクが冤罪で死刑するなら、不敬だと言われても判決非難をする!」


 大声で怒鳴ってフリッツはせき込み、傍にいたゲオルクは背中をさする。


 フリッツはヴァールハイル子爵家の当主として領地を守ってきた。しかし彼は子供の頃から喘息があり、前当主で騎士でもあったフリッツの父親は剣を教えたかったが諦めたと言われている。

 その代わりフリッツの乳母の息子だったゲオルクに剣の才能を見出して、フリッツの父親は剣を教え、騎士になる時は貴族である条件だったためヴァールハイル家の養子に入ったのだ。

 体の弱いフリッツではあるが、何もしなかったわけではない。剣を持たない代わりに本を読み、家庭教師を雇って勉強をして知識を深めていった。またアクサイ丘の戦いの前から帝国の歴史や動きなどを調べ、戦いに活かしていたのだ。

 だがこの時、高位貴族達はフリッツの存在は病弱な子爵家にしか見ていなかった。そのためアクサイ丘の戦いでは活躍したのは元平民であるゲオルクだから、ヴァールハイル子爵の位を上げるなどの褒美をしなかった。つまりかなり見下していたのだ。


 せき込むフリッツにヘルムートは「言葉だけは強いな」と嫌味を吐く。


「そんなんで国王や我々公爵家に判決非難が出来るのかね?」

「出来ますよ。それくらい捜査が穴だらけですから!」


 ようやく咳が止まってフリッツは反論する。


「まずパーティーの招待客が帰った後、ゲオルクは屋敷内をフラフラしていたらしいが、何で誰も止めなかったんだ。ゲオルクが平民だから嫌がらせで無視していたとしても、奥方の部屋へ行こうとするなら誰もが止めるはずだ!」

「……」

「それからゲオルクがどうやって帰って行ったのか誰も見ていない。君の屋敷の警備やメイドの教育はどうなんだ?」

「田舎の子爵がうちのメイドや警備に文句を言われる筋合いはない! それにメイドも平民出は無く貴族の者を使っている!」

「本当に貴族の者なのか?」


 フリッツはギロッと睨んで、「シアさん、こちらへ」とある女性を呼んだ。女性は怯えているが、しっかりとした足取りでフリッツの所へ来た。


「裁判所の記録を読んでゲオルクを見たと証言したメイドはカトレル男爵家のシアさんらしいな。彼女はパーティーの数日前に推薦状をメイド長に渡したそうだな」

「そうだな。証言したメイドの彼女がどのくらいいるのか、どうやってメイドになったのか私は知らないが……」

「君が証言を信じたようだが、本当のシア・カトレルはフスロ公爵家のメイドとして在籍していない。そして本物のシアさんは彼女だ!」


 フリッツの言葉にヘルムートたちは「はあ?」と声を上げた。フリッツは「あのことを話してください」と言うと、本物のシアが緊張した面持ちで話し出した。


「はい。私はフスロ公爵家のメイドとして推薦状をもらって屋敷に向かいました。しかしすでにシア・カトレルは雇っていますとメイド長に言われました。推薦状をお見せしましたが、信じてもらえず、そのまま帰りました」

「推薦状を出した者にはお伝えしましたか?」

「伝えましたが私より位の高い貴族の子を雇ったのでは? と言われました」

「ちなみにその推薦状は持っています?」

「持っています」


 そう言ってシアはフリッツに推薦状を渡した。まだシーリングスタンプが付いたままの推薦状だった。

 フリッツは推薦状の封を切って書類を見せながら「おかしいと思いませんか?」とヘルムートに向かって言った。


「あなたが信じていた証言者は一体、何者なんですかね?」


 シアの推薦状は確かに本物だった。国王や公爵家の者たちは顔が真っ青になり、互いの目を見合せた。

 ヘルムートは虚を突かれた顔になったが、すぐに「何の目的でそんな事をするんだ?」と顔を真っ赤にして怒鳴る。それにフリッツは一切動じないで「ゲオルクを陥れるためですよ」と言った。


「もちろんヘルムート様がやったと思っていません。メイド一人一人覚えていなさそうですしね。犯人は恐らく帝国側の人間でしょう」

「……帝国って、アクサイ丘の戦いで撤退していったじゃ無いか」

「表向きは撤退しました。しかしまだ休戦です! 戦争は終わっていません! 国内にはまだ多くの帝国のスパイがいるはずです!」


 フリッツがそう言うと公爵家や国王は目を丸くする。それを冷めた目で見ながらフリッツは続ける。


「アクサイ丘の戦いが始まった時、我がヴァールハイル領の村を帝国の者が放火をしました。幸い犠牲者は居なかったのですが、恐らく帝国側はアクサイ丘をすぐに制圧して村をすぐに占拠しようと思ったのでしょう。彼らは外からではなく、国内に潜伏していたんだと思われます」

「……貴様、帝国のスパイがいると嘘を言って国を混乱しようとしているな」

「でしたら、あなたが信じていた証言者のシアを連れてきてもらってもよろしいでしょうか」


 フリッツがそう言うとヘルムートは苦々しく「出来ない」と言った。


「昨日、多くのメイドが私やメイド長に無断で辞めていったんだ。シアもその中に入っている」

「じゃあ、その多くのメイドが帝国のスパイって事でしょう」

「そう決めつけるな! それにニクラスと一緒に帰っていたとゲオルクは証言していたが、本人は否定している! ゲオルクのアリバイを証言してくる貴族の者が存在しないぞ!」


 そしてヘルムートは嫌な笑みを浮かべながら、更に言う。


「そもそも貴様は国王と公爵家の者に判決非難をした。これ以上、アリバイも証言の確認なんてしなくていいだろ」


 この言葉にゲオルクは「どういう事です?」と聞いた。この疑問にフリッツは答える。


「後日、本当にゲオルクが犯人なのか、神に問う決闘裁判をするんだ」

「え?」

「この場合、死刑を求刑した国王と公爵家とこの死刑に異議を申した私達ヴァールハイル領の決闘になる」


 決闘裁判。それは【正しい者は神が味方をする】という考えを元に、決闘の勝敗で判決を決める裁判である。この勝敗でゲオルクの処遇が決まる。

 フリッツが決闘裁判を説明するとゲオルクは「でしたら!」と訴えかけた。


「俺が決闘裁判に出ます!」

「え? 大丈夫だよ、ゲオルク。別の人に任せよう。ずっと拘置所に入れられて疲れがたまっているし、精神的に辛いだろ」

「いや、俺が戦う! これは俺の戦いだ! 俺の無実を証明するための戦いなんだ!」


 そしてヘルムートの方を見てゲオルクは言った。


「そして出来たらニクラスと戦いたい! あいつは俺と一緒だったのに、居なかったって証言した。もし決闘中に一緒にいた事を証言したら、それは適用されるのか?」

「もちろんだ。あいつがお前のアリバイを証言して降参すれば、お前が無実だと証明できる」


 ヘルムートは意地悪気にそう言った。

 こうして三日後に決闘裁判が開かれる事になった。




*3*

 裁判から三日後、決闘裁判は予定通り行われた。


 会場は王都にあるドーム型の闘技場である。平和な年だとお祭りや騎士達が闘技大会を開いたり、戦時中では避難所とされていた。

 この国では決闘裁判をするのは珍しく、やるとしても教会の空き地で行う事が多かった。なぜこの裁判が闘技場を使う事になったのかは民衆の、特に平民の注目度が高かったからと言える。当日は闘技場には立ち見の平民たちがひしめき合い、入れなかった者も闘技場前に集まっていた。


 闘技場には王族と貴族用の席と平民の立ち見席があった。

 ヘルムートや公爵が貴族用の席に現れると平民たちはかなり乱暴な野次を多く飛ばしていた。それを平民の立ち見席にいたフリッツが諫めていた。

 騒がしい中、審判である牧師が闘技場に入ってきた。これは【決闘の結果は神の審判】と言うように、神に問う審判であるため裁判を執り行うのは教会の者達だったのだ。


 審判である牧師の号令で闘技場には、ニクラスが入ってきた。ゲオルクの申し出通り、ヘルムート達公爵家が代わりに決闘してもらう事になった。彼は思い詰めたように俯いて審判の前で止まった。

 ニクラスが闘技場に入ってきたが、ゲオルクがなかなか出てこなかった。

 訝しがっている観衆の中、彼はようやく入ってきた。足を引きずり、頭に大きな傷をつけてフラフラになりながら審判の前にやってきた。

 この姿にフリッツは怒り、「どういう事なんだ!」とヘルムートがいる貴族用の席に向かって叫んだ。


「貴様ら! 拘置所でゲオルクに拷問をしたな!」


 決闘裁判が行われるまで逃亡しないようにゲオルクは国の拘置所に入れられた。フリッツはゲオルクの剣を渡したが、面会は出来なかった。しかも差し入れの食事も毎回持って行ったのだが、看守は受け取ってくれなかったのだ。

 怒りのあまり叫んだフリッツの言葉に、観衆の平民たちも騒ぎ始めた。一方、貴族用の席に座っていた者達、特にヘルムートはゲオルクの姿に戸惑ったような雰囲気だった。

 大騒ぎになりそうになり審判が止めようとした時、ゲオルクは手を上げて「大丈夫だ!」と叫んだ。


「ちょっと転んだだけだ。それに騒げば審判が困って決闘が始められない!」


 そう言うと観衆はピタッと静かになった。しかし彼らの顔は険しいままだった。

 やっと静かになった所で審判は聖書を出し、ゲオルクは宣誓をする。


「神よ。私はフスロ公爵家の夫人を乱暴などしておりません。どうかそれを証明するために力をお貸しください」


 はっきりした声でゲオルクはそう言い、次にニクラスが宣誓する。緊張しているのか、たどたどしかった。闘技場に入ってきた時から顔はこわばっていたが、ケガをしたゲオルクを見たら、更に狼狽えていた。

 そして審判の指示でゲオルクとニクラスは剣を構えた。


「初め!」


 審判の声が響いた瞬間、ゲオルクは剣を鞘に納めて地面に置いて「ニクラス」と穏やかに呼びかけた。戸惑うニクラスにゲオルクは真っすぐに見て語り掛けた。


「あの事件が起きた夜、一緒にヘレンの料理を食べたよな。相変わらず美味しかったよな」

「……やめてくれ」

「ニクラス。もし俺の言っている事が違っていたのなら、俺を斬ってくれ」

「……え?」

「そして思い出せたのなら、ここで証言してくれ。俺とお前が一緒にいた事を」


 それは傷ついた友人を慰めるような優しい語り掛けだった。そしてゲオルクの表情もどこまでも穏やかだった。

 更にゲオルクは口を開く。


「美味しかったな、ジャガイモのガレット。こんな上手い料理を毎日食べれるヘレンの婚約者が羨ましいって話したよな」

「……」

「他の話しもしたな。この国は豊かで、領民一人一人暖かくていい人々だ。そんな人々や領地が戦争で傷つき、亡くなってしまうなんて絶対にあってはいけないって」


 ゲオルクの言葉はどこまでも穏やかだった。それをニクラスだけでなく闘技場にいる者達は静かに聞いていた。

 剣を構えていたニクラスはゲオルクの話しを聞いて大きく震えて、俯いた。そして剣を落として膝をついて、泣きながら叫んだ。


「すまない! ゲオルク、本当は、本当はあの日の夜、俺の家に泊まってヘレンの料理を食べてお前を泊めていた! 覚えているよ、あの日の夜の事を。ゲオルクは犯人なんかじゃない!」


 ニクラスの言葉に観衆が騒めいた。その中でヘルムートが「貴様!」と怒鳴って何かを言っていたが、騒めきでかき消された。


「ヘルムート様にもゲオルクのアリバイを言ったんだ。でも正直に話さないと妹の結婚を無しにするって言われてしまって……。本当にごめん。いや、謝って済む問題じゃないけど、本当にすまない」


 泣きながら懺悔するニクラスにゲオルクはしゃがんで、肩を叩いた。


「謝らなくていい。この場で証言してくれた。それだけで充分だ。ヘレンの事もあるのに、正直に言ってくれてありがとう」


 ここで審判は「負けを認めますか」と聞くとニクラスは「はい」と頷いた。これでヴァールハイル家の訴えである【ゲオルクが犯人ではない】が証明でき、ゲオルクの死刑は無くなった。

 これには国王と公爵側の貴族席は言葉を失い、平民達は歓声を上げた。

 ゲオルクが「さあ、立ち上がろう」と言い、ニクラスを立たせようとした時だった。

 ゲオルクが倒れた。


「ゲオルク!」


 ニクラスが駆け寄り、フリッツも平民席から闘技場へと向かった。

 そして審判は「医者を呼んでください」と民衆に言った。本来、審判は中立な立場であるため、ケガした決闘士を助けるため医者を呼ぶことはしない。しかし今回のゲオルクの事件で国王と公爵側の捜査や判決に不快感があったため、ゲオルク側に肩入れしていたのだ。

 フリッツも闘技場へ入り、倒れたゲオルクの元に駆け寄った。


「ああ、申し訳ございません。心配させてしまいましたね、フリッツ様」

「喋るな! ゲオルク! このケガは転んだものじゃ無いだろ!」

「はい。看守にやられました」

「看守を任されたのは、ヘルムート達の騎士達だ。あいつら、ゲオルクをこんな目に」


 フリッツが怒りに震えているとゲオルクは苦し気だが、はっきりした口調で言う。


「いいえ。フリッツ様、悪いのは帝国です。ヘルムート様も奥様を傷つけられた被害者です。だから彼を恨まないでください」

「……ゲオルク」

「それにやられたのは看守に扮した帝国のスパイです。我が国の言葉の発音に言い慣れておりませんでした。しかしやり返せば決闘裁判が出来なくなると言われてしまいました。恐らく帝国のスパイは高位貴族とも親しくしている者もいるようです」

「……」

「帝国のスパイはクライノート国を分断させようとしています。だから今こそ、一致団結して帝国から国を守りましょう」


 ゲオルクの言葉にフリッツは泣くのをこらえて「分かった、ゲオルク」と手を握った。

 そしてゲオルクは泣いてうわ言のように謝るニクラスの方を向いて、「ニクラス」と呼びかけた。


「もう謝らなくていい。お前は俺の無実を証明したんだ。勇気ある行動だったよ」

「だけど俺が言わなかったから、ゲオルクはこんなケガを……」

「ケガさせたのは帝国のスパイだ。それにこんなケガ、すぐに治るさ。知っているだろ、俺の丈夫さを」


 気丈に笑うゲオルクだったが、目が虚ろになり「すいません」とフリッツに言った。


「少し疲れてしまいました」

「死ぬな、ゲオルク!」

「目が覚めたら、お祭りの計画を立てましょう」


 その言葉を最後にゲオルクは永遠の眠りについた。




*4*


 その後、ゲオルクの葬式には第三歩兵騎士団や彼を慕っていた騎士達、そして平民たちが大勢、集まった。

 そこでフリッツはゲオルクの最後の言葉を話し、帝国の脅威に打ち勝とうと周りを奮起させ、攻めてくる帝国に対して迎え撃つ準備を始めた。

 国王や公爵家は拘置所でゲオルクを暴行した指示を出していないと表明して、暴行した看守を探したが見つからなかった。

 この責任を取ってヘルムートは騎士団を辞めてフスロ公爵家当主の座を引いた。国王も息子に王の座を渡している。

 そしてフスロ公爵家の当主はヘルムートの甥が継いだが、その直後に帝国側がフスロ公爵家の管理している領地を攻めてきたのだ。

 突然の事だったため、何も準備ができておらず帝国の侵攻を許してしまった。しかしこれにゲオルクがまとめていた第三歩兵騎士団などが援軍にやってきて応戦した。ゲオルクの冤罪の事もあるのに応援に来た第三歩兵騎士団がやってきて、高位貴族の騎士達は驚いたと言われている。

 アクサイ丘の戦いよりも厳しい戦いで、多くの騎士達を失った。

 その中に裁判後、伯爵家の爵位などを王家に返し、ただの歩兵となったニクラスもフスロ領地奪還のために戦い、命を落とした。またフリッツの妹も平民として生き、戦時中は戦う騎士への料理を作っていたと言われている。


 終わりの見えない戦争と思いきや、一年で帝国側の勢いを失った。

 戦争して侵略と支配で巨大化した帝国だったが、広がった領土を持て余していた。帝国内では支配されている人々の不満が多く出て、クーデターやテロ行為が頻発していたのだ。これでクライノート国との戦争を続けることが難しくなり、帝国は撤退を余儀なくされた。

 やがて巨大化した領土をまとめられず帝国は、いくつかの国に分かれていった。


 フリッツは騎士では無かったが、第三歩兵騎士団の希望で参謀として戦争に参加した。やがて研究していた帝国の戦略を打ち砕く作戦を考えるなどして、他の騎士団の指揮官をするまで信頼を得た。

 また国内にいるスパイをあぶりだす方法などを考えて信頼できる騎士達に伝え、帝国のスパイを捕まえる事が出来た。

 しかし終戦して一年後、元々体が弱かったのに酷使したからなのか体調不良になって寝込むことが多くなる。それでもベッドの上で帝国側のスパイを一掃するための法案や貴族の裁判で平民の証言が有効になるような法案など現国王に提案する手紙を送っている。

 そして終戦から二年、フリッツもゲオルクの元へと旅立った。


 ゲオルクやフリッツの思いを受け継いだ者達は、クライノート国を守り続けようと決意した。また高位貴族や低位貴族の格差を無くしたり、平民を見下さないよう現国王は提言した。そしてゲオルクや帝国と戦った者達を忘れないように、【ゲオルク戦記】や【クライノート戦記】と言う本も綴られた。


 ゲオルクとフリッツは自分達の故郷 ヴァールハイル領の墓地で眠っている。そしてアクサイ丘には帝国の侵攻を防いだイバラは今も生い茂っている。

 そして無駄な丘とは呼ばれず、ゲオルクの丘とヴァールハイル領の者達は呼んでいる。





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