第二章 依頼と報酬 その2
「まずは自己紹介だな。私の名前はアーサー、君たちの名は?」
「俺は哲斗。あと犬みたいのがマルコシアスで、白黒の熊みたいのがサマエル。二人とも別世界から召喚した生物、というかまあ、悪魔ってやつなんだけど……」
「悪魔……そんな生き物がいるとは……」
「本当の姿は、こんな可愛い感じじゃないですよ」
普通に異世界人と話しているけど、俺や優希は様々な魔法書を所有しているため、その特殊な力でどの世界の人間とも会話できる。悪魔たちは言うまでもなくチートなので何でもありだ。
「それにしても君たちは、途轍もない強大な魔力を持っているな」
「おいおいアーサー君や、俺様の魔力はこんなものじゃないんだぜ。俺様の本気を見たら、腰抜かしてちびっちまうぞ」
マルコシアスは自慢げに言う。
「勿論、俺もだ。本気など出さずとも、今すぐ魔王討伐できるからな」
サマエルは最後に高笑いした。
マジ強気だな、ザコ倒しただけのくせに。まあ力を封印されたままでも魔王に楽勝で勝ってしまいそうだけど。てかこいつら、もしも魔王が鬼強で危なくなったら俺を生贄にして逃げるよ絶対。なにせ悪魔だからな。仲間でもなんでもないから信用しちゃいけない。
「俺たちの事はいいので、この世界の基本情報お願いします」
「分かった。じゃあ今いる大陸の地図を見ながら話そう」
アーサーは魔法のアイテムであるウエストポーチに手を入れ、B4用紙程の地図を出す。
「この地図はかなり縮小されているが、一番わかりやすいものだ。因みにこの世界には五つの大陸があり、ここはもっともモンスターが多い大陸、タナトスだ」
どうやら地図は、そのタナトス大陸だけのもののようだ。
「うほっ、いいじゃねぇか、モンスター天国。今の俺様たちにうってつけの場所だな」
嬉しそうにマルコシアスが言う。
「モンスターが多い事に理由があるのか?」
質問したのはサマエルだ。
「あぁ、理由はある。この大陸には四人の魔王がいるからだ。それぞれ東西南北に居城を構えている」
「ヒャッハー、テンション上がるぜ‼ ここだけで四人も魔王いるとか鬼畜すぎだろ」
テンションを上げるマルコシアスを冷めた目で見て胸中で「お前らが魔王みたいなもんやろ」とツッコんだ。
「星印が町のある場所だが、他にも小さな村なども無数に存在している。中央にある砂漠は途轍もなく広いから、行くなら気を付けろよ。あと北と南にある城が、大国の場所だ」
「なるほど。ならば東西南北の小さめの城が、魔王城というわけだな」
サマエルが言う。
「魔王城の近くに行けば、金になる強いモンスターがいそうだな」
地図を覗き込み独り言のように発した。けど魔王に近づけば勇者や冒険者がいるだろうし、色々と面倒な事になりそう。このパーティーには悪ノリ全開のアホどもがいるし、カオスな展開になるのは目に見えている。あぁやだやだ。
「おい、なんで北の魔王城にバツが付いてんだよ」
怪訝な顔をしてマルコシアスが言う。
「北か……真相は分からないが、半年ほど前に突如、一夜にして魔王と城が消滅したらしい。噂では、南の魔王の仕業か隕石が落ちたかのどちらかだと語られている」
「おいおい、せっかくの魔王が既に一人いねぇのかよ。まったく酷い事する奴がいたもんだ。まるでどこぞの暴君魔導師みたいな奴だぜ」
不機嫌な表情でマルコシアスが言う。
「ふははっ、本当に優希がやってたりしてな」
サマエルは冗談で返したが、全然冗談に聞こえないっす。
「それ笑えねぇ……マジっぽくね」
なんか知らんが冷や汗が出てきた。
「…………」
悪魔二人は苦虫を嚙み潰したような顔で見合わせ沈黙する。てか顔芸やめろ、ムカつくんだよクソ悪魔ども。
「で、今いるのが、この辺りだ」
アーサーは中央の砂漠地帯の西側にある森を指差す。
「とにかく北の方に行くのは危険だ。生き残った魔王軍の将軍二人が、次の魔王の座を狙って、それぞれ軍を率いて戦っている最中だ」
アーサーは真剣な顔で助言したが、危険地帯の情報は、悪魔たちには逆効果だった。
「うほっ、それ超絶燃える展開じゃん。俺様そういうのに茶々入れるの大好物だし」
宝物を見る子供のように目をキラキラさせてマルコシアスは言った。
「君たちはこの世界の歪みを正すために、女神に召喚されたわけだが、既に強いから訓練もいらないし、すぐに魔王討伐に向かうのかい?」
正規のルートで来てないんですよねぇ。いま俺って、なんともいえないバツが悪そうな顔をしてるんだろうな。
「そ、そうですね。一応はそういう流れで……いや、どうかなぁ、まだはっきりとは決めてないかな」
弱々しく発したその時、サマエルが耳元に近付く。
「おいコラ哲斗、ちゃんと言え。わざわざ異世界まで泥棒しに来ましたってな」
サマエルは俺の耳を掴んで引っ張り、アーサーに聞こえない程度の小声で言った。
「そこはほら、ついでに魔王倒すってことで、チャラになるやんか」
ボソボソと小声で返す。
「でたーーっ、ご都合主義。流石無職のプー太郎。てか無理だからな。その技を使えるのは、マンガやアニメの主人公だけだし。お前はザコだってこと自覚しろ、クソ無職」
マルコシアスが嫌味たらしく面と向かって言う。
「うっせぇんだよ。言わせておけば図に乗りやがって、役立たずの補欠のくせに」
ムカっとして反射的にマルコシアスの頭を強めに殴る。
マルコシアスは地面に叩き付けられ、そこにサマエルがいつもの悪ノリで止めを刺すために連続して踏みつける。
「言っておくが、補欠はお前だけだクソワンコ。俺は準レギュだ」
てかサマエルさん準レギュって、レギュラーじゃない自覚はあんのね。
「ふふっ、面白い奴らだ。しかしその強さは本物……君たちなら、助けになってくれるかもしれないな」
アーサーはバカ騒ぎする悪魔たちを笑顔で見詰め言った。




