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第二章 依頼と報酬 その1




 女神撲滅委員会会長、奈々星優希の命令で、二十億円を稼ぐために放置悪魔たちと異世界に来て、いまジャングルを彷徨っている。


「この辺り、かなり深い森の中だよな。人の気配まったくしないし」


 見渡すかぎり熱帯植物に覆われ、獣道すらない状況に少しげんなりする。


「モンスターがうじゃうじゃいそうでいいじゃねぇか。俺様たちはバトルしにきたわけだし」


 後ろを飛んでいるマルコシアスが言う。


「なあ哲斗、腹へったし、モンスターじゃなく獣でも狩ろうぜ」


 マルコシアスは前方に移動して、お腹を押さえて言った。


「そうだな、見付けたら狩れよ。でも可愛いのとか子供は狩るなよ。てか魔法書の中に食料入れてあるけど」


「バカヤロー、それ缶詰とかだろ。異世界に来たばっかなのに、向こうの食糧食うとか冒険の雰囲気台無しだ。やっぱテンション爆上げするためにドデケーの狩って丸焼きだ丸焼きぃ」


「はいはい分かった分かった」


 そういえば、魔力で造り出すモンスターと自然にいる獣とか魔獣って、戦ってみないと見分けつかないよな。絶滅危惧種とか希少な動物を狩ってしまったら、後々面倒な事になる可能性もあるし、気を付けないといけないかも。


「って食えそうなのなんもいねぇー‼」


 三十分ほど移動したところでマルコシアスが叫ぶ。


「次のモンスターも出てこないし退屈だな」


 サマエルがそう言って欠伸あくびした。


「なぁなぁなぁ、そろそろ異世界テンプレ発動してたら、この辺りでヒロインになる女の悲鳴が聞こえてくるんじゃね。それか空から落ちてくるとか」


 マルコシアスはきょろきょろ周りを見渡す。


「流石にパ〇オ展開はないだろ。まああっても受け止めないから死亡で終了だし」


 サマエルがニヤつきながら返すが、俺は「そこは受け止めろよ」とツッコんだ。


「いや待てよ、長老かちびっ子かもしれんぜ」


「それはありそうだな。村がモンスターとか山賊に襲われてるとか。まあ助けないけどな」


 サマエルがまたニヤつきながら言った。


「おいおい分かってねぇな、サっちんは。そこは助けてやるパターンなんだよ。で、村でハーレム展開、これっきゃないだろ」


「……ありだな」


 妄想して思わず呟いてしまった。


「お前らの頭の中は、相変わらず淫欲まみれだな」


 サマエルは呆れて首を左右に振る。


「てかベタな展開はよこい‼ カモン、ピンク髪のビ〇チ‼」


 マルコシアスはテンション高く両手を上げて叫ぶように発した。


「そんな都合よく、テンプレのチョロインくるわけないだろ」


 サマエルが冷静にツッコむ。だがその時、周辺の鳥が逃げるように一斉に飛び立ち異変を報せる。


「魔力の高まりを感じる。冒険者あたりがバトってやがるな」


 マルコシアスが言い終わると同時に凄まじい爆発音が響き渡り、離れた場所で黒煙が空へと上がる。


「おっ⁉ 地面が少し揺れてる」


 すぐに木々の間をすり抜け爆風が届く。


「キタキタキターーーーっ‼ 期待したテンプレじゃねぇけど、面白かったらなんでもいいぜ」


 テンションMAXでマルコシアスが喜んでいるとサマエルが「一番乗りは俺が貰うぜ」と言って高笑いしながら爆発の方へ飛び立つ。


「んなろっ、ざけんな、負けっかよ‼」


 透かさずマルコシアスが飛んで追い掛ける。


「勝手に行くなよ、バカどもが」


 ポツンと一人残され呆れ口調で言った後に追いかける。


 爆発があった場所に辿り着き見た光景は、人間と大型系モンスターが戦っているものだった。


「あの熊は、冒険者たちにサイコベアードと呼ばれていたやつだ。ランクは中の上ってとこか」


 この異世界経験者のサマエルが教えてくれた。


 そのサイコベアードは7〜8メートルに達する巨大なパープルの熊で、手足には鋭く大きな爪、お尻にはモコモコで長いレッサーパンダのような尻尾がある。


 人間のように立って両手を上げ威嚇しているサイコベアードは迫力満点で、普通の人間なら腰を抜かして動けなくなるか、気を失っているだろうな。だがサイコベアードの眼前にいる者は臆する様子はなく、戦い慣れたつわものだと分かる。


 謎の男は白人系で、雰囲気からこの世界の人間だと思う。でも女神に選ばれた召喚者じゃなくとも、それなりに強い魔力を持っている。


 男の身長は185センチ程で、青い瞳、金髪の美形、二十五歳ぐらいで、ボディビルダーのような筋肉隆々ではないが、鍛えこまれた武闘家なみの体をしているのが服の上からでも分かる。


 服装はグレイのロングTシャツにベージュのズボン、ミリタリーブーツのような黒い靴、腰には焦げ茶色のウエストポーチを付けている。


 ウエストポーチは魔力を感じるので、冒険者御用達の魔法のアイテムと分かる。ポーチの中は魔法の力で異空間になっており、基本設定の範囲内なら収納量や大きさに関係なく、生物以外ならなんでも出し入れできる。って感じだろ、どこの異世界でも。

 入れ方は簡単で、ただ入れと念じ物を近付ければ自動で吸い込まれる。出し方は手を入れて出したい物を念じれば、自動で選ばれて手の中に納まる。とても便利なため冒険者はほぼ全員持っているはずだ。


「今の爆炎魔法で倒れないのか、なんてタフな奴だ」


 謎の男は呟くように言って、険しい表情で汗をぬぐう。


 サイコベアードは空間を震わすほどの雄叫びを上げると、巨大な爪の生えた右手を勢いよく振り下ろす。右手はそのまま地面に激突し、鈍く大きな打撃音を響かせ大地を揺らした。


 男は超人的な身体能力で大きくジャンプして攻撃を躱し、同時に魔力を高め右の手の平の中にソフトボール程の大きさの炎の玉を作り出し、そのまま空中でサイコベアードの顔面目掛け投げ放った。


「喰らえっ‼」


 炎の玉は見事に直撃し、まるでミサイルのように爆発する。


 サイコベアードは叫びを上げて仰け反るが、倒れるほどのダメージではない。しかし朦朧としており、すぐに反撃することはできない。


「顔面直撃ぃぃぃっ‼ 大チャンスキターーーっ‼」


 マルコシアスがテンション高く声を上げる。


 男は透かさず同じような炎の玉を作り出し連射した。ファイアーボール的な魔法攻撃は全て直撃して爆発する。だがサイコベアードはまだ倒れていない。めちゃくちゃタフな奴だ。でも目を回しているようにフラフラしている。


「やりますなぁ。しかもイケメンやし」


 男の後方に位置しており、戦いを少し見て本気で感心した。


「ヒロインじゃねぇのかよ。空気読めよな。男はいらねぇんだよ男は」


 マルコシアスは急激なテンションダウンでしかめ面で言う。


「召喚者か……」


 すぐに俺たちの存在に気付いていた謎のイケメン金髪戦士は、服装や雰囲気から察したのか、瞬時に別世界の人間だと見抜いた。


「おい金髪、お前に美人の姉ちゃんか妹がいるなら助けてやるぜ」


 マルコシアスはバトル中でもお構いなしに話しかける。


「助けてもらうつもりはないさ。今から止めを刺すから下がっていたほうがいいぞ」


 男は意識を眼前のサイコベアードから外さずに返事するが、マルコシアスを見て『なんだこの生物は、見たことないぞ』って感じの怪訝そうな顔を一瞬見せた。きっと異世界の召喚獣とか思ってそう。悪魔どもからは、セーブしてても途轍もない魔力を感じるからな。


 男は言葉通り止めを刺すため一気に魔力を高める。放出されるのは魔力だけでなく、全身から炎が噴き出す。


 右の手の平を上に向け、男は意識を集中させる。すると手の平から凄まじい火柱が上がり、瞬時に剣のような形に変化する。


「カッケ―、イケメンの炎使い。てかそれ剣か、剣なのか、炎の大剣なのか⁉」


 マルコシアスは手を出さず楽しんでいるが、 もう一人の空気読まない悪魔がなぁ……。


「超見せ場だけど、ごめん。出番なかったりして。っていうか逃げろ、巻き込まれるぞ‼」


 申し訳なさそうに言ってその場より回避する。男も謎の魔力を感じて透かさず逃げた。


 グロッキー状態から回復したサイコベアードの後方から凄まじい斬撃音が連続して轟く。そして三日月形の巨大な斬撃が背後からサイコベアードを切り裂き通り抜けた。


 複数の斬撃はジャングルの木々を三十メートルほど切り倒し、途中で更に勢いを増して空へと上昇し消えた。


 サイコベアードは自分に何が起きたのか分からぬまま、断末魔の叫びを上げ、ボンっ‼ と大きな音を出すと同時に煙の塊になり消滅した。


「なっ、誰が……」


 男は驚愕しながら呟く。


「あ〜あ、やっちまいやがった。てか超よえー」


 マルコシアスはつまらなそうに頭の後ろで手を組み、白けた顔をしている。


 当然だがいとも簡単にサイコベアードを倒したのは、死神のような大鎌を持ったサマエルだ。


「ザコが、手応え無さすぎだ」


 サマエルは吐き捨てるように言う。


「なんだあいつは……あの小さい鎌でやったというのか、いったいどうやって……」


 7〜8メートルに達する巨体のモンスターを倒したサマエルが、見たことのない、しかも50センチ程の小さい生物だったので、男は驚愕の表情をしている。


「うちのがサーセンっす。あれは見ての通り、鎌で斬ったんじゃなく、デカい斬撃を飛ばした訳です」


 一応は解説したが、サマエルを凝視する男にはほとんど聞こえていなかった。


 サマエルは持っていた大鎌を上に放り投げる。すると瞬間移動したようにその場より消えた。これは悪魔の持つ特殊能力であり、念じるだけで瞬時に武器やアイテムを出し入れできる。


 サマエルは地面に落ちているサイコベアードの原料を拾い、軽やかに飛んで、男に興味を示さず無視して前を通り過ぎ、俺の前までくると原料を投げ渡した。


 受け取ったのは2キロの銀の塊であり、ズシリと重みを感じ落としそうになる。こりゃ結構な金になるやろ。でも金髪イケメンが険しい表情で見ているため素直に喜べない状況だ。


「あの……これ原料なんですけど、こっちが勝手に割り込んだので……どうぞ」


 なんかめっちゃ気まずいので、そっと銀を差し出す。


「そんなものはいらない」


 マジで⁉ やったね。てかそう言ってもらうの待ちですわ。


「じゃあ遠慮なく貰っておきます」


「それより君たちは何者なんだ。アレをこうも簡単に倒すなんて」


 男はまだ気を許しておらず、いつでも戦える状態で話していた。


「とりあえず敵じゃないので、魔力下げて戦闘態勢解除してくれません。落ち着いて話せないから」


 穏やかにそう言うと、男は俺たちの気配と雰囲気から安全と判断し、戦闘態勢を解いた。


「でも何者とか言われても困るなぁ。この世界には来たばっかだし」


 ポリポリと頭を掻きながら言う。


「もしかして、魔王討伐に向かう勇者殿か」


「だあっははははははっ‼」✖2


 悪魔二人が同時に大笑いした。


「なにが勇者だクソが、そんな訳ねぇだろ。こいつは無職だ無職、ム・ショ・ク、スーパーウルトラ無職星人だ」


 マルコシアスがまくしたてる。


「って星人ってなんやねん。てかどこにあんねん無職星は、あったら怖いわ」


「ふへへへへっ、まあ、殿って言うよりドロだろ。ドロ無職」


 サマエルがいやらしく笑ってバカにする。


「ぶはははっ、ドロぉぉぉぉっ、おっもしれぇーーっ、サっちんドロ無職とか天才かよ、面白すぎんだろ」


「うっさいぞ、無職はよけいだ。そもそも泥ってなんやねん。俺がかわいそすぎるやろ」


 いつも通り言われ放題で情けない。が、悪魔相手に本気で怒っても仕方がない、疲れるだけだ。


「しかしこの辺りは、ザコしかいないみたいだな」


 サマエルがつまらなそうに言う。


「雑魚か……低級のスライムでも相手にしている言い草だな。まったくなんて強さだ」


「おい貴様、スライムさん舐めんな、スッゲー呪文使えんだからな。てか俺様はスライムレベルじゃないけどな‼」

「お前はスライム以下だ、クソワンコ」

「んだとクソパンダ‼」


「うるせぇよ、ちょっと黙ってろ、話が進まん」

「お前が黙ってろ、寝ぐせ全開クソチビニート‼」

「ワンキャン吠えるんじゃねぇ‼」


 サマエルがマルコシアスをいつもの顔面パンチでぶっ飛ばし、おバカな会話を強制終了させる。この時の金髪イケメンは怪訝というか、なんとも言えない顔をしていた。


「まあザコってわけでもないぞ、原料は銀の塊だったし……これって本当に貰ってもいいのかな」


「構わない。それは君たちの物だ」


「流石イケメン、太っ腹だぜ。どっかの無職とはえれー違いだな」


 マルコシアスはいつの間にか復活して嫌味に言う。俺は「うるせぇよ」とだけ返した。


「じゃあ遠慮なく貰っておきます」


 念じて足元に魔法陣を作り出し、銅をゲットした時と同じように収納した。この様子を見ていた男は、魔力を高める事無く念じるだけで簡単に魔法陣を作り出した技量に驚いていた。


「あの、迷惑かけついでに、色々この世界のこと教えてほしいんですけど。例えば、今ここがどこで、村や町がどこにあるのかとか」


「本当にこの世界に来たばかりのようだな。いいだろう、知っていることは教えよう」


 男は軽く微笑み言った。






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