第一章 20億と異世界冒険 その4
「とりあえず、モンスター狩りながら、村か町を探すとするか。装備とかはいらないけど、金はこっちのがいるだろうし。後モンスターがどの程度の強さでどのくらい金になるのか早く知らないと」
「人間が居る場所となると、まずはジャングルから出ないとな」
サマエルが言ったその時、前方の草むらがガサっと大きく揺れ、すぐにバキっと枯れ木が折れたような音がする。
「おっ、魔力を帯びた気配、さっそく来るか」
マルコシアスが嬉しそうに言うとモンスターらしき生物が姿を現す。
モンスターの顔や体は白で、頭は赤茶色の大きなキノコが乗っており、額と思われる部分には角が二本ある。顔は犬猫風で、横から見れば体はL字型、足は六本だが短足だった。大きさはボックス系の車ぐらいあり、既に牙を剥き出し威嚇していた。
「モンスターキターーーー‼」
テンションMAXでマルコシアスは喜ぶ。
「あれは前に来た時に見たぞ。確かマッシュブルと呼ばれていたな。ランクは下の中ぐらいだ」
そのマッシュブルは巨躯を揺らしながらゆっくりと歩き間合いを詰めてくる。
「近くにきたらけっこうデカいな。顔とキノコ頭で三メートルあるんちゃう」
距離は既に五メートルまで縮まっていたが、こっちは全員余裕の表情で焦ることは微塵もない。何故ならば、俺たちそこそこ強いから。
「ぶへへへっ、こいつ軽トラみたいな形してんな。超絶ウケるぜ」
マルコシアスは空中で笑い転げる。
「こっちのモンスターはリアルじゃなく可愛い系だな。普通に弱そう。マルコかサマエルに任すわ」
「完全にハズレだ。おいマー坊、お前がやれよ」
「よっしゃー、任せとけ」
バトル好きのマルコシアスは指をバキボキと鳴らし、やる気満々で前に出る。
「うへへっ、美味そうじゃねぇか、俺様はキノコ好きだからな、丸焼きにして食ってやんぜ」
マルコシアスはよだれを垂らして言う。
「マジやめとけ。どう見ても毒キノコやん。というより、原料になるから食えへんやろ」
呆れながらツッコんだ時、マッシュブルが「フシャー‼」と唸り声を発して猛然と俺に突進してくる。
移動スピードは速くないが、六本の足が力強く地面を踏みしめ、地響きを立てて迫力だけはあった。
「おっと、いきなり突撃かよ、けっこう凶暴だな」
素早く横に回避する。
「ヘイヘイヘイ、キノコヤロー、お前の相手は俺様だぜ」
マルコシアスは特撮ヒーロー張りの決めポーズで指差し言う。するとマッシュブルはターゲットをマルコシアスに変更した。
「うおおおおおっ‼ 格の違いを見せてやるぜ」
マルコシアスは一気に魔力を高め全身より放出する。その魔力は凄まじく、まるでオーラのようで紫色をしていた。
因みに、体より放出される魔力の色は人それぞれで、サマエルの場合は赤色、俺は金色とも見える黄色。そして戦いで魔力を高める事には意味があった。魔力の大きさの分だけ、飛躍的にパワーやスピード、防御力に治癒能力、五感など、あらゆる身体能力がアップする。
「行くぜ‼ 軽トラキノコヤロー‼」
牙を剥き出し唸るマッシュブルに、マルコシアスはまた決めポーズをとって言う。普通にうぜぇ。キノコさんさっさと攻撃して食ってしまえ、そんなクソ悪魔。
「スーパーウルトラマルコシアスパーーーンチ‼」
マルコシアスはショボい技の名前を発し、放たれた弾丸の如く拳を突き出し一直線に飛んで突撃する。
「バカってすぐにスーパーウルトラとか言うよな。聞いてるこっちが恥ずかしいぜ」
サマエルは心底呆れた表情と口調で言った。ってお前もよく昭和のロボットアニメの必殺技口にしてるけどな。
体ごといったマルコシアスのパンチはマッシュブルの額の中央に直撃して鈍く大きな音を出す。その瞬間マッシュブルは「ぷぎゃあぁぁぁぁぁっ‼」と断末魔の叫びを発し、仰け反るように巨躯が宙に浮く。
って反射神経クソ重いなこいつ。あれぐらい回避か防御しろよ。登場してからまだ技すら出してないぞ。
「うひゃひゃひゃひゃ、モロに入ったぜ。俺様超絶つえーー」
マルコシアスは相手を小馬鹿にするニヤケ顔で言った後、まさに悪魔の如き恐ろしい目付きに変わる。
「そんじゃ止め刺してやるぜ」
また決めポーズをとると大きく口を開け、凄まじい業火を吐き出す。
マルコシアスは50センチぐらいなので巨躯のマッシュブルと比べると一層小さく見える。だが炎は巨躯を包み込むほど大きく広がる。
マッシュブルは為す術なく、こんがりと焼き上がり大ダメージを負って沈黙する。すると程なくしてマッシュブルは、ボンっ‼ と大きな音と煙を出し消滅した。せっかくのファーストバトルだが楽勝すぎて見応えがなかったな。
「なるほどね。作られたモンスターはライフがゼロになったら煙り出して消えるのか。マジでゲームみたいで面白いな」
モンスターが消滅する時、煙の中から何かの塊が地面へと落ちた。
「おっ、あれはゲットできる原料だな」
サマエルはマルコシアスが拾い上げた謎の塊を見て言った。
「これって銅だな。そこそこ大きいぞ」
河原に落ちてる石のように歪な形だが、大きさは野球ボールぐらいはある。その銅をマルコシアスは俺の方へ向かって掲げる。
「雑魚モンスターで銅の塊が手に入るなら、この先かなり期待できるな」
もしかして強かったのかな、あのキノコ……ってこっちがチート過ぎてよく分からないんだよなぁ。
「俺たちの場合、レベル上げしなくていいから、上級モンスターといきなり戦えるのが大きい」
サマエルが言う。
「だよな。でも上級モンスターがトンでもなく強かったらどうしようかな。原料がデカいダイヤとかヤバそう」
まあ強い敵が出てきたら出てきたで、結局は楽しむんだよなぁ。悪魔たちと同じで楽観的、というか何も考えてないからな。流されるがまま生きてるだけだし。
「そんなの決まってんだろ。強い奴が出てきたら、少年マンガの王道パターン、修行だ‼ 超絶燃えるぜ。てかエンドレス・フリータイムのクズなんだから、レベルMAXまで体鍛えろ、ポンコツ魔導師」
マルコシアスはわざわざ傍まで近付き面と向かって言う。
「いやいや、俺もう修行とかいらないんですけど」
「バカヤロー、お前の強さなんてまだまだ鼻クソのビチクソだ。優希レベルまで突き抜けて人間やめてから偉そうなこと言えクソ無職」
マルコシアスがまくしたてる。
「いや無理だろ。優希さんは別次元の話だから」
「うっせぇんだよ、諦めたら試合終了だろが」
「小学生がセルティックスとかレイカーズとやっても試合にならんやろ」
「試合終了以前の問題だな。もう黙ってろクソ犬」
「んだとクソパンダ‼ やってやん、ぶへぇっ‼」
マルコシアスが切れた瞬間、サマエルのパンチが顔面にヒットしてぶっ飛ぶ。何回も見ているいつものパターンだ。サマエルはとにかく手が早く先制攻撃を食らわせる。でもここでおバカなやりとりが終わるから助かっている。
「銅でも集めればけっこうな金になるし、ちゃんと保管しとかないとな」
足元に魔法書の異空間と繋がった魔法陣を作り出し、マルコシアスから受け取った銅の塊を収納する。
念じるだけで瞬時に特殊な魔法陣を作り出したが、強い魔力と才能無くしてできるものではない。なんてな。才能というより熟練度とか経験値が半端ないだけですけどね。
「あぁ〜、もっと強い奴と戦いてぇなぁ。力を封印されてても、俺様はつえーからな、ザコじゃ相手にならんぜ。上級のドラゴンとかボスキャラ待ちだな」
マルコシアスは両手を頭の後ろで組み白け顔で愚痴りまくる。さっきサマエルに殴られたのはもう忘れている。
「そのうち嫌でも戦うことになる、何回もな。なにせ二十億だからな。だが、魔王と幹部は俺が倒す」
「ふっざけんな‼ 誰がわたすか、魔王は俺様の獲物だ、クソパンダモドキ‼」
マルコシアスは激怒してまた喧嘩が始まる。
「まあ面倒だけど、面白い異世界冒険には、なりそうだな」
喧嘩する悪魔二人を放置して歩き出し、異世界の晴天の空を見上げ独り言を呟いた。




