第四章 ルソーの渦巻く陰謀 その1
昨日同様に寝起きの悪い俺と悪魔二人をエリーは手際よく準備させ、早々とチェックアウトを済ませる。この時、宿代は当たり前のようにエリーが払ってくれた。その様子をマルコシアスは、「お前ヒモみたいだな。無職でヒモとか超絶カッケ―」とバカにした。
既に大岩の上級モンスターが倒されたことは村中で噂になっており、村人は食料を取りに、冒険者はそのガードに雇われたりと、慌ただしく活気のある朝だった。
そんな喧噪を無視して、犬型魔獣のリンクに乗って出発する。
天候も良くルソーへの旅は順調であり、途中何度か休憩をはさみながらも、その日の夕暮れ時には無事に辿り着いた。
休憩の時にはモンスターを見つけ出し、手当たり次第に狩りまくり原料をゲットしていた。
相手は下級と中級のモンスターだけど、中には当たりモンスターもいて、サイズも小さく値段も安いだろうが宝石も数多くあった。
入手した宝石は、オパール、翡翠、ルビー、エメラルド、サファイア、アメジスト、ガーネット、ターコイズ、パールなどである。
少しだけ宝石の種類は知っていたが、値段を知らないため大金持ちになった気分だ。
自分はまだ戦っていないけど、ゲーム感覚でかなりモンスター狩りが楽しくなってきた。因みにここで手に入れた宝石で百万円を超える物はないと、サマエルが言っていた。まだまだ二十億への道は遠い。
「おいおい、なにここ、スゲーデカい街やし。てか遠くに城みたいなの見えるぞ、城下町ですやん」
想像より遥かに大きなルソーの街を見渡しテンションが上がる。
ルソーの街は高い壁に囲まれており、門衛が何人もいる大きな門を通り中に入る。この時、領主に仕えるメイドのエリーが居たためすんなりと通過できた。
他の人たちはなにやら入国審査みたいなのを受けていたが、エリーさんはほぼ顔パスである。でも一応は通行手形となるカードをチラっと見せていた。
そういえば、村や町は結界魔法で守られていてモンスターは入れないらしいけど、悪魔や魔獣たちは普通に出入りしている。いまいち許容範囲が分からんな。まあツッコミ入れる必要はないか、なんでもありの異世界だしね。
「私はこのままレオナルド様のお屋敷に戻ります」
「あぁ分かった。領主の病気、治るといいな。ここまで送ってくれてありがとうな、助かったよ」
「そんな、こちらこそ助けてもらって、皆様、本当にありがとうございました」
エリーは深々とお辞儀した後、魔獣には乗らず一緒に歩いて行った。街の中では緊急の場合以外は魔獣に乗る事は禁止されているらしい。ただ例外として領主やモネ国直属の兵士は許可されている。
エリーは何か言いたげに何度か振り返っていたが、面倒なのでスルーした。既にアーサーの依頼を受けているからな。
とりあえず街を見て回るため歩き出す。ってホンとにデカい街だ。こりゃキャバクラみたいな飲み屋とか風俗店いっぱいあるやろ。ワクワクが止まらねぇ。
ルソーはまさにヨーロッパ風、いや、ナーロッパ風の街並みで、人口も多く活気に満ち溢れている。露店も数多くあり、旅人、商人、民が往来し、平和で華やかに見える。しかし兵士や冒険者の数が多く、ものものしさも感じ取れた。
街の奥には高さは低いが巨大な一枚岩があり、その上に西洋の城のような領主の屋敷があった。
地球人にとって特別目に付くのは人間以外の種族だ。ルソーの人口の三割が人外生物で、アーサーの話し通り普通に街の中に居た。
「見ろよあれ、肌が青くて蝙蝠羽で、サキュバスみたいやん。その向こうには美女のエルフもいるぞ。てかあれあれ、半獣人の猫耳っ子発見」
デカい街はテンション上がるわ。他にも筋肉ムキムキのワーウルフのような獣人や、爬虫類系のリザードマンもいる。
「なにがそんなに珍しいんだ。人間以外の生物など見慣れてるだろ。てかそのエロ妄想してるマヌケ顔やめろ、腹が立つ」
サマエルは呆れ顔で発する。って俺いまそんな顔してたんや。まあ確かにエロい妄想はしてたけども。
「哲斗、これからどうすんだよ、さっそく風俗行くか?」
マルコシアスは後ろから肩に手をかけ耳元で話しかける。
「夕方だけどまだ明るいし、大人の店に行くにはちょっと早いか。宿も決まってないしな。とか言いつつ、やっぱここは、いきなり風俗いっちゃいますか」
「賛成‼」
マルコシアスは笑顔で元気良く返事した。
「黙れクズども。まずは酒だろ酒。酒場なら情報収集もできる」
サマエルがクールに発し水をさす。ホンと酒、酒ってうるせぇなぁ、水と区別つかないくせに、よく言うな。
「サっちん、いつからそんなつまんねぇ奴になっちまったんだよ。俺様は悲しいぞ」
「黙ってろクソワンコ」
「んだとゴラっ‼」
またバカ二人の喧嘩が始まるが勿論放置する。
「う〜ん、どうしようかな……もう少し街を探索しながら情報集めるか」
「結局それかよ、クソが」
マルコシアスは呆れるように発した。
お楽しみは後にしてルソーの街の中心部へと歩き出す。
街を歩いていると、すれ違う多くの人がサマエルとマルコシアスに目をやり物珍しく見ていた。中には「それって妖精族?」、「従魔なのか?」と話しかけてくる者も何人かいた。
「どこいってもお前ら人気あるな」
「あったりまえだろ。俺様だぜ俺様」
マルコシアスがドヤ顔で自慢げに言う。
「じゃあこの世界で、俺様ワンコを売ったら幾らぐらいになるか試してみっか。当然トイプーより高く売れるんやろ、何と言っても俺様ですから」
からかうように笑みを浮かべ言ってやった。
「あったり前だろ、トイプー超え楽勝だっての。ってゴラっ‼ 犬なんかと比べんじゃねぇ、俺様だぞ俺様、億超えの兆単位だコノヤロー‼ てか売り物扱いしてんじゃねぇよクソ無職‼」
「夢見てんじゃねぇ。お前がトイプーより高いとか、どこの世界の常識だ。ハムスターがいいとこだろ」
サマエルが話に割り込み言い放つ。
「誰がとっとこレベルだクソパンダ‼」
また喧嘩が始まりいつも通り放置して進んでいく。
ほどなくすると石畳みの広場があり、その中心部に二メートル程の男性の胸像があった。
何故か胸像の顔が気になったので立ち止まり凝視する。
「誰かに似てるな……アーサーか?」
「うむ、確かに似ている。本人だったりしてな」
サマエルが返す。
「似てるか? てか本人だとしたら、あいつ像になるぐらいの有名人ってことじゃん」
マルコシアスは胸像の顔面に近付きガンを飛ばしながら「調子乗ってんじゃねぇぞコノヤロー」と悪態をつく。
「その像に興味がおありかな」
胸像の前で騒ぐ俺たちに話しかけたのは、ベージュのローブを着た白髪の老人だった。
「えっ、まあ、ちょっと知り合いに似てたもので」
「ほほう、この英雄に似ているとは、なんとも羨ましいですなぁ」
「英雄? この像ってどんな人なんですか?」
「この方は、モネ王国の王子にして英雄の、アーサー様じゃよ」
「アーサー⁉ 名前も同じってことは、やっぱ本人か。王子様とかスゲーな」
驚きそう言ったけど、老人は怪訝な顔をしている。
「王国の王子が何故あんな所に居たのかは知らないが、別れる時にもっと多く金を貰っておくべきだったな」
サマエルが言う。
「本当にこの像あいつか? ちょっと似てる程度だろ」
マルコシアスはまた像の顔に近付き凝視する。
似てるだけの可能性もある。普通に考えて王子様が一人で冒険者やってるわけがない。強いお供が何人かいるはずだ。それにアーサーは王子様とは思えないほどの強さに達している。
「何か勘違いしておられるようだ」
老人は軽く笑った後に言った。
「あなたたちの知り合いと、この像のアーサー王子は別人ですぞ」
老人は自信満々に言い切る。
「顔も似てるし、名前が同じなんですけど……」
確かめるように胸像の顔を見ながら言う。
「アーサーという名は、この国では多い名前なのです。なにしろ英雄の名前ですから。そしてなにより、アーサー王子は王になる事無く、三百年前にお亡くなりになっている人」
「へぇ〜、そうなんや。じゃあ勘違いですね」
胸像は百年ぐらい経っていそうな古い感じだし、今のアーサーの年齢を考えればすぐに分かる事だったな。
「この王子は、何をやって英雄になったんだよ。像になるとか半端ねぇだろ」
そう言ったマルコシアスは像の肩に座っていた。
「この大陸には二つの国しかないが、昔は五つあり、絶えず戦いが繰り広げられていた。当時、小国であったモネは侵略の危機にあったが、兵を率いたアーサー王子が全ての国の軍に勝利して、モネは滅びる事無く最後まで残った。アーサー王子はその後、勇者の仲間になり南の魔王の討伐に行ったが失敗し、亡くなってしまうのです」
「なんだよアーサー負けてんじゃん。英雄だったら魔王倒せよ」
つまらなそうな顔でマルコシアスは、ペチペチと像の頬の辺りを叩いた。




