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第三章 メイドのエリーと魔寄せの石 その4




 夕暮れ時に村に到着したが、その日はエリーと同じ宿に泊まることにして、出発は明日の朝にした。


 村の名はドガといい、小さな村で人口も少ないため、俺たちが期待する歓楽街はない。だが冒険者が集まる酒場などはあった。村人はぱっと見で白人と黒人、中東にアジア系もいて、異世界ではよくある多国籍な感じだ。村の建物は昔のヨーロッパ風で、日本人にはファンタジーの雰囲気満点である。とはいえもう見慣れてるけど。


 この世界の村や町には女神の加護を受けた賢者によって結界が張られているため、モンスターは近寄ることができなくなっている。でもハイランクのモンスターになると結界を突破するやつがいるらしい。


 宿の一階が食堂であり既にテーブルに着き注文を終えた。悪魔たちがバカみたいに注文したけど半分はキャンセルした。好き勝手やらしたらアーサーから貰った支度金があっという間に無くなってしまう。


 みんな悪魔たちを不思議そうに何度もチラ見しているが、話しかけてくる奴はいなかった。


 程なくして作り立ての料理がテーブルに並ぶ。


「全然期待してなかったけど、スゲー美味そうなんですけど」


「普通にうめぇぞ」


 マルコシアスは餌にありついた獣のようにがっつく。


 サマエルは行儀がいいわけではないが普通に食べる。今はビールに似た酒をグビグビと美味そうに飲んでいる。


 ボリュームのある肉料理が多く、味も申し分ない。異世界によっては食文化が発展してなくて酷い時もあるから、食に関しては当たりだ。


 で、結局はバカみたいに飲みまくりの食べまくりで破産直行である。その様子を見たエリーは呆気にとられたが、すぐに面白くなったのかクスクスと笑った。だが、また死んだ仲間の事を思い出して涙が溢れ出る。


「ごめんねみんな、私だけが生き残って……」


「飯がまずくなるから泣くんじゃねぇよ」


 マルコシアスが容赦なく発する。悪魔だけに同情などするはずがなかった。


「誰も悪くないやろ。エリーが死んでたかもしれないし、死んだ奴らも覚悟を決めて旅立ったんやろ。だから今は、生き残って使命を果たせることを喜んだら」


「はい、ありがとうございます、テツト様」


「ぶへへへへっ、様だってよ。お前幾ら払って言わせてんだよ」


 マルコシアスが馬鹿にするようにマヌケ顔で言った。


「そんなもんに金払うか」


 ツッコむがマルコシアスは自分から振っておいて早くも話を変える。


「てかこの肉、何肉だろな。まあ美味けりゃなんでもいいけどな」


 豪快に食べながら言ってマルコシアスは更に料理と酒を追加注文する。


 さっきからずっと店員も他の客たちも悪魔が気になって仕方がないようだ。まだチラ見している。話しかけて酒でも奢ってくれたらいいのに。でも魔獣や妖精にモンスター、人型になれる上位精霊とも違う感じだから、こっちの人間にとっては珍獣なんやろな。まあそれは地球でも同じだけども。売れるんなら売って帰りたいわ。


「なあエリー、魔獣でルソーまでは、どのくらいかかるん?」


「魔獣を休ませながらになるので、二日ほどです」


「飛んでもすぐには着かないか」


 魔獣の飛行速度は思ってたより遅い。ヘリコプターぐらいかと勝手に思ってたからガッカリだ。もしかしたら原付バイクより遅いかも。


「じゃあ途中、どこかで一泊することになるな。できれば大きな街がいいけど、あるかな?」

「少し大きめの村ならあります。来る時もそこで一泊しました」


 村か……まあ、どんな店があるかは行ってみてからのお楽しみだな。


「おい哲斗、なにキモい顔して笑っている。魂胆見え見えだぞ」


 サマエルにツッコまれる。色々と想像してたら鼻の下を伸ばしニヤニヤしていたようだ。


「おほん。え〜っと、明日は魔獣の操作、頼むなエリー」


 照れ隠しに咳払いをして話を締める。


「はい。お任せください」


 エリーは頑張って満面の笑みで返す。


 この後はエリーだけが部屋に戻って休み、俺たちは結局ラストオーダーまで酒を飲み続けた。




 早朝、俺と悪魔はだらしなく寝ているところをエリーに起こされる。


 二度寝しようとダラダラとしていたが、そこはメイドなだけありエリーは手際よく三人を洗面所に連れて行き、たらいの水で顏を洗わせる。


 悪魔たちは文句を垂れ流していたが、三人ともされるがままであっという間に支度が終わる。ただ、なんどもブラシで髪をとかしてくれたけど、俺の頑固なクセ毛が整うことはなかった。


 一階の食堂で肉中心の朝飯を食べた後、すぐにチェックアウトして魔獣がいる納屋へと向かう。


「さあ出発だよ、リンク、ルル、マイロ」


 エリーは軽自動車と同じぐらいの犬型魔獣三匹をそれぞれ名前で呼んだ。魔獣は頭を下げ、エリーは白い一本角があるおでこの辺りを優しく撫でる。


 三匹とも白い長毛種の日本スピッツって感じでモフモフしている。でもやはり魔獣であり、角もあれば背中には大きな翼が生えていた。ただ犬系なので凄く可愛くて、エリーに懐いているのがよく分かる。


「おいチビ、向こうにいっぱい居る恐竜みたいなトカゲ、あれも移動用の魔獣か?」


 何か思いついたのか、マルコシアスが訊いた。


「はい、そうです。私たちが護衛に雇っていた方たちの魔獣です」


あるじいねぇんだろ、食っていいか?」

「ダ、ダメです‼ 所属しているギルドや仲間の方たちが回収に来ますから」


「なんだよ腹へってんのに」

「朝飯いま食ったとこやろ」

「別腹だクソ無職」


 デザートみたいに言いやがって、ゴリゴリの肉やろが。てかバカの相手はしてられん。時間の無駄だ。


「さっ、出発出発。エリーよろしく」


「じゃあ私の後ろに乗ってください」


 リンクという名の魔獣は伏せをしており、エリーは慣れた感じで背に乗る。続いて乗ったらモフモフで最高の乗り心地だった。マルコシアスは遠慮なく頭の辺りに乗り、サマエルは俺の後ろで既に寝転がっている。


 リンクは全員を乗せると翼を広げ空高くへと、ヘリコプターのように垂直上昇し、他の二匹も続いた。その後、晴れた空を東南に向かって飛ぶ。


 てか翼関係ないし。バタバタ羽ばたかせて飛ばないし。デザインだけの意味なし雰囲気パターン。異世界のモンスターとか魔獣ってこういうの多いんだよな。あと召喚された悪魔も似た感じだけどな。


「うひょー、この犬そこそこ速いじゃん」


 マルコシアスは頭の上ではしゃいでいるが、魔獣は寛大で全然気にしていないようだ。


 この魔獣は下級ランクで移動速度は速くても80キロ程度が限界みたいだ。更に、長く飛び続けることができないため、二時間に一度は休憩をいれることになる。


 そして何度か休憩しながら順調に次の目的地であるモロの村まで、日が暮れる前に辿り着く。


 因みに休憩の間には抜け目なく、モンスター狩りを行い原料をゲットしていた。ちょっとでも稼いでおかないと終わらないからな。


 モロの村はドガよりも倍以上の大きさと人口で、冒険者と思しき者達の姿も多くあった。俺的には町と言ってもいい感じだ。


 ここには地球から召喚された冒険者が何人もいて、訊かなくともこいつがそうだとすぐに分かった。これ見よがしに派手な大剣とか鎧や盾を装備してるからな。だいたいどこの異世界に行っても地球人はそんな感じ。アニメの影響なんやろな。

 後は服や靴でも判断できる奴らがいた。俺と同じようにジーパンとかスニーカーなので一発で分かる。たぶんこっちに来たばかりなんかな。


 まずは宿を選びチェックインする。この時エリーの提案で、節約のために同じ部屋に泊まることにした。子供に奢ってもらうのは気が引けるけども、ここは部屋代ゴチになりますよ。まあボディーガード代ですわ。


 俺と悪魔二人は部屋でくつろぐことなく、エリーを宿に残し村を探索する。そしてすぐに冒険者が集まる酒場を発見し、その店で情報収集という名の酒盛りが始まる。


 その場に居る何人かは、人種の違いはあれ同じ世界、つまり地球から来ているので話も合うしすぐに仲良くなれた。ただやはり十代の子供はいない。みんな二十代ぐらいだ。


 俺は魔法書の力でどんな言葉も理解できるけど、女神に召喚され地球から来ている者たちは、ギフトによって言葉が理解できている。だから日本人の俺とも普通に話せる。


 今は戦士風の服装でマッチョな白人の男冒険者と飲んでいる。アメリカ人で名前はマイケル、大学生らしい。もうこの異世界に二年以上いると自慢げに話していた。


 さっさとやる事やって帰れよ、とツッコミたくなるが、女神による召喚ルールを聞いたら納得した。


 召喚されたときに女神からは強力なギフトを貰える。それは定番だけど、死ぬか自ら望んで地球に戻る時には、魔法が発動して召喚された時間軸に元の年齢と姿で帰還できる。


 つまりこっちの世界では、歳は取って老化はするけど死なない限り何十年でも存在でき、地球の時間と合わせて二度の人生を送れる。


 ただ冒険者ランクごとに討伐ノルマがある。でもそれを達成していれば地球への強制送還はされない。


 しかし話によると、みんな戦い疲れて十年ほどで帰るらしい。ノルマをクリアしていれば自然と冒険者ランクが上がり、討伐モンスターも強くなっていく。長くいれば結局は勇者じゃなくても魔王と戦うことになる。だから無理ゲー状態になる前に帰還する。その目安が十年とのこと。


「お前らつまんねぇ話いつまでしてんだ」


 テーブルの上に座って酒を飲んでいたマルコシアスがしかめ面で言う。そうだった、こんな情報はどうでもいい。


「不思議な生物だな、こいつら。てか悪魔って本当に居たんだな。しかも天使までいるなんてな。まあ異世界があって女神様が居るんだから、なにが存在しててもおかしくはないか」


 マイケルは楽しそうに悪魔たちを見ながら言った。


「なあなあなあ、そんな事よりも、この村に風俗店とかあるの?」


 少し顔を近づけ小声で訊いた。


「残念。村にはないんだよ。町レベルの大きさならあるんだけどな。最高だぜ異世界の店は」


 マイケルは笑みを浮かべ俺の肩に手を回し言った。


「くっそー、ないんかい。パラダイスへの道のり遠いなぁ」


 悔しくてジョッキの酒を一気で飲み干す。


「女性専用の店もあるからな。こっちは種族も多いし奥が深いぞ」

「その奥の深さを堪能したいっす」


「うへへへっ、ワクワクが止まらねぇな、クソ哲」

「俺が監視していることを忘れるなよ」


 裏切り者のサマエルが釘を刺してくる。


「このスパイ野郎、悪魔の風上にも置けねぇぜ、クソが」

「ふんっ、悪魔のくせに補欠のほうがクソだろ、カスが」

「んだゴラっ‼ やってやんよ‼」


「まあ待て待て、俺が酒を奢るから喧嘩するな。楽しく飲もうぜ」


 マイケルが酒をオーダーして上手く収めた。なんか慣れてるけど兄弟多い人なのかも。たぶん長男だな。


「しっかしBGMがダメだなこの店は。吟遊詩人のクソみたいな音楽聴いてられっかよ。クラウザー連れてこいクラウザーを」


 マルコシアスが無茶なことを言う。


「異世界にDMCは無理やろ。みんなひっくり返るぞ」

「うひゃひゃひゃひゃっ、それが見てぇんだよ俺様は」


 それから何人かの冒険者に話を聞いて酒を飲みまくっていたら、既に陽が落ち外は真っ暗だった。


 あっという間に三時間が経ち、その間に元の世界で見たことのない召喚悪魔のマルコシアスとサマエルは人気者になっており、次から次に酒を奢られていた。


 意外と外国の人とサマエルは気が合うみたいで、昭和のロボットアニメの話で盛り上がっていた。てかグレンダイザーの話をされても入っていけんわ。





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