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第三章 メイドのエリーと魔寄せの石 その3




「おいおい、その程度稼いだだけで喜びすぎだろ。目標は二十億なんだぞ。宝石ぐらい出てこなければ話にならないぞ」


 サマエルは冷静に意見して俺のテンションを下げる。


「楽勝すぎて準備運動にもならねぇぜ。ボスキャラはよ出てこいっての」


 白け顔でマルコシアスが言う。


「なにが楽勝だ、手こずってたくせに。貴様は所詮、補欠だ」


 サマエルが毒づく。


「んだとゴラ‼ そんじゃ試してみろやクソパンダ」


 マルコシアスが吠えるように返し口喧嘩が始まり、それを完全無視で放置する。


「あんな小さな魔獣が、上級モンスターのギガミケットを倒すなんて……あなたたちはいったい何者なのですか?」


 少女は前半の言葉を発した後やっと足から離れ立ち上がり、後半の言葉は俺の顔を見ながら言った。


「何者? 俺様は超絶スーパーウルトラエリートの悪魔だ。そんでこの寝ぐせ全開のチビは、スーパークソ無職だ」

「やかましわっ。初対面に無職言うな」


「悪魔……」


 少女は困惑しているが、この世界に天使や悪魔の存在や概念がないなら意味が分からないだろうな。


「で、お前は何者なんだよ。まあ、どうでもいいけど」


 マルコシアスは相手がちびっ子なので興味なさげに言う。さっきは諦めたらどうとか言ってたやろ。もう向こう側に居るかもしれないムチプリの姉やママンのことは忘れてやがんな。


「助けていただきありがとうございます。私はルソーの領主、レオナルド・ダーヴィン様のもとでメイドをしております、エリーと申します」


「ルソーの領主……」


 こりゃまたタイムリーなキャラが出てきたな。


「おいチビ、なんでメイドがこんなとこに一人で居るんだよ。俺様に分かるように説明しろ」


 マルコシアスは空中で腕と足を組み偉そうに命令する。


「あの……いま領主のレオナルド様はご病気で床に伏しておられて、私たちは万能薬を作るために、様々な薬草を求めてここまで来たんです。でも一緒に旅だった者たちは皆、モンスターに殺されてしまいました」


 エリーは涙を浮かべながら話す。


「そりゃ災難だったな。俺たちはルソーに行くつもりだから、送ってやるよ」


「本当ですか、ありがとうございます。とっても嬉しいです……あれ……涙が、でるなんて……」


 エリーは大粒の涙をボロボロと零した。既に生きて帰ることを諦めていたからなのか、心底から安心して自然と涙が溢れ出たって感じだ。


「大丈夫、俺たちと一緒ならな」


 とりあえず出発は泣き止むまで待つとするかな。


「それで、お目当ての薬草は手に入ったの?」


 程なくして落ち着きを取り戻したエリーに訊いた。


「はい。なんとか私たちが任された種類は、集めることができました」


「じゃあ後は帰るだけだな。といっても、簡単に帰れる距離じゃないけど」


 移動距離を思い出し、後半の言葉は少し呆れ口調となる。


「てかチビ、お前たちはどうやって城から来た。まさか歩いてってことはねぇよな」


 マルコシアスが言う。確かにそこは気になるし、重要な事かもしれない。


「私たちは、レオナルド様が所有している、空を飛べる魔獣に乗って移動しています」


「ヒャッハー、おい哲斗、いい拾い物したな」


 マルコシアスは露骨な事を平気で口にする。


「そういう言い方やめろっての」


 ちと気まずいが、まあその通りなんですけどね。


 この後はエリーにルソーの現状を聞きながら、薬草集めの拠点として使っている村に歩いて向かう。


 話では、領主のレオナルドは絶対安静で会う事すらままならず、息子のピエールが領主代行を務めており、そのピエールが急に兵士を集め大きな軍隊を作っている。既にルソーの街は不穏な空気が漂い緊張状態になっているらしい。


 気になったのはピエールの側にいるという、教育係のガイザックという男だ。そいつは現在ピエールの鶴の一声で宰相と軍師を兼任し、裏の支配者のように君臨しており、城にいる者達から恐れられている。


 村までは徒歩で二時間はかかり、その間にモンスターとのエンカウントは十回以上あった。だが下級か中級のモンスターばかりで悪魔たちは退屈していた。


「けっこうモンスター出てくるけど、村から離れてるのによくここまで来れたな」


 歩いて移動しながらエリーに話しかけた。


「ルソー直属の兵士たちは、宰相様の許可が下りず使えなかったのですが、ちゃんと護衛の傭兵や冒険者を雇っていたんです。でも少しずつモンスターに倒されて……逃げた人もいましたけど」


「で結局、エリーだけが生き残ったわけか。領主のためとはいえ無茶しすぎだっての」


 思わず呆れ口調で発していた。


「領主のレオナルド様は、本当に素晴らしい御方なのです。だから皆、命を懸けてでもなんとかしたいと思っています」


「領主がどうのこうのじゃなく、息子の方がボンクラで任せておけないから、お前らが必死になってんだろ、ホントのとこは。どうだ、図星か?」


 口元に笑みを浮かべサマエルは核心をつく。


「そ、そんなことは……」


 エリーは俯き最後まで言葉を返せなかった。


「こらこら、サマエルさんや、俺も薄々は勘付いてたけど、はっきりと言いなさんな。てか空気読もうぜ。エリーさん涙目ですよ」


「た、確かに、今のピエール様とガイザック様は信用できません。だから、早くレオナルド様に戻って欲しくて……」


「てかよぉ、もうレオナルドってやつ、殺されてんじゃねぇの。だから姿を見せないんだろ」


 マルコシアスは思ったことをそのまま口にする。ってそれ絶対言ったらダメなやつ。まあ俺もそう思ったけども。


「そんなことありません‼ レオナルド様はきっと生きておられます‼」


 エリーは必死の形相で叫ぶように発した。


「いや、死んでると思うぞ」


 サマエルが真顔で言って止めを刺す。出たよ空気読まない極悪コンビ。


「お前ら無責任なこと言うなよ。死んでるわけないやろ」


 一応フォローは入れておく。けど殺されてる可能性は大なんだよなぁ。


 エリーは泣きだしてしまい、俺はなんか面倒臭いと思ってしまった。やっぱ変な依頼を受けるんじゃなかった。男の夢という言葉に騙されてしまった気がする。


 アーサーは領主がって言ってたけど、どうやら本命は息子と教育係みたいだ。この二人をボコるだけで終わってくれたらいいんだけど、な〜んか嫌な予感がする。俺って苦労性なのかも。


 遠くの空を見上げながらそんなことを思う……あぁ〜嫌な予感がどんどん大きくなるぅぅぅぅっ。








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