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第二章 依頼と報酬 その3




「確かテツトといったな。今後の予定が決まっていないのなら、頼みたいことがある」


 真剣な顔でアーサーが話し出す。もう絶対に面倒な事で間違いない。俺もそこそこの巻き込まれ体質だからなぁ。


「まあ今のところ決まってないけど……話し次第かな」


「二つある大国の一つ、南のモネ王国の手前にルソーという大きな街がある。そこの領主が様々な種族の兵士を集め軍を作っているんだが、どうやらモンスターと戦うためではなく、モネを滅ぼし、自らが王になろうとしている、という話だ」


「良かったな。マー坊の好きなテンプレだぞ」


 ニヤつきながらサマエルが言う。


「な〜んか違うんだよなぁ。王様ボコって自分が王になるとか、なかなかアグレッシブな奴だけど、まったく燃えない。やっぱ北の喧嘩祭りに首突っ込もうぜ」


「確かに北の方が面白そうだ。どっちにする、哲斗」


「まだ話の途中やろ。それで、俺たちに何をやれと」


「その陰謀を暴き、可能であれば止めてほしい」


 やっぱそうくるよな。って大仕事にもほどがある。でもアーサーの眼差しは真剣で力強く、未然に反乱を止めたいという本気度が伝わってくる。


 普通の人間なら、その正義に満ちた眼差しに心を動かされるかもしれない。が、巻き込まれ経験豊富な俺は、まったくやる気にならない。悪魔二人も興味ないみたいだし、断ろうかな。


「離れて随分経つが、モネ王国は私が生まれ育った国だ。だから守りたいと思っている」


「はっきり言って、仕事に見合う対価無くして受ける理由はないぞ。話し的に可なりの大仕事だ」


 サマエルは腕を組んで偉そうに言ったが正当な発言だ。


「勿論、報酬は支払う。とある秘薬が手に入る隠しダンジョンの場所を教えよう。更に内部の攻略地図もある。これが報酬でどうだ? 地下十五階の凄まじい迷宮ダンジョンだぞ」


「おいおい、秘薬じゃなくて場所とか地図かよ。普通にショボいな。で、その秘薬って、どんな凄い効果があんだよ。俺様が戦う価値があんのか、アーサーさんよぉ」


 マルコシアスはいまだ興味なさげだ。


「実ははっきりとは分からないんだが、何やら男の夢を叶える、幻の秘薬らしい」


「うほっ⁉ マジかよ。男の夢とかスゲーデカくきたな。ワクワクするじゃねぇか」


 マルコシアスはかなりテンションが上がり話に喰いついた。エロと食には目がないからな。


「なんか嘘くさいんですけど。普通に詐欺っぽい」


「この話と地図は、幾つものダンジョンやタワーを一人で制覇した有名な冒険者から得たものだ。故に信憑性はある。秘薬を売れば一財産になるはずだ」


「……なあなあ男の夢ってさ、やっぱエロい感じの事かな」


 思考を巡らせた後、呟く程度にマルコシアスにだけ言った。


「決まってんだろ、男の夢だぜ、超絶エロい事しかねぇだろ。ハーレム作れる強力な惚れ薬とかじゃねぇの」


 既にマルコシアスはノリノリで完全に釣られていた。俺も釣られていいかと思っている。


「なるほどな。君たちがどういうノリか、少し分かってきたぞ。ならば……」


 アーサーは決め手となる言葉を口にする。


「支度金として、この世界のお金も渡しておこう。因みにルソーには、酒場や風俗店がいっぱいあるぞ」


「マジで⁉」✖3


「異世界風俗キターーー‼」


 マルコシアスはテンションMAXで喜ぶ。


「美味い酒はあるんだろうな」


 サマエルも嬉しそうにしている。


「勿論あるぞ」


「ま、まあ、困ってるみたいだし、その仕事、引き受けようじゃないか」


 ちと恥ずかしいからアーサーと目を合わせずに言った。


「本当に分かりやすい奴らだ」


 アーサーは口元に笑みを浮かべ言った。


「あと、この大陸の地図も君たちにあげよう」

「あざっす。それ助かる」


 変な事に巻き込まれたけど、地図とこの世界のお金を早々とゲットできたのは幸先が良いかも。いつもならもっと酷いスタートになるからな。


「ただ私は他に外せない用事があって、このまま一緒には行けないんだ。無論、すぐに用を済ませてルソーに向かうが……」


「いいよ別に。俺たちは先に行って、街の様子とか色々と探っとくから」


「じゃあ、ルソーで合流しよう。君たちは目立つから、すぐに探し出せると思う。あぁ後、その地図で見ると近くだが、実際にはここからルソーまではかなり遠い。歩いて二十日はかかるはずだ」


「二十日……遠いなぁ。東京大阪間ぐらいあるやん。何か楽に移動できる方法はないの?」


「空を飛べる魔獣を手懐けるのがいいと思うが、簡単にはいかないぞ」


「魔獣か、いいのが居たらゲットだな」


 それでこの後はすぐアーサーとは別行動になる。その際に、この世界の通貨である、金銀銅貨を受け取り、更に様々な基本情報も教えてもらった。


 因みにこの世界の人間は、少なからず魔力があるため悪魔たちは見えていることになる。


「そういえば、アーサーの用事ってなんだろな」


 今はジャングルを南へと歩いている。


「そりゃお前、イケメンの野暮用といったら、女しかねぇだろ」


 いやらしく笑ってマルコシアスが返す。


「あやつはなかなかの訳ありとみた。マー坊の好きなテンプレなら、ミト王子的なやつだな」


「って誰がミト王子わかんねん。一緒に動画見せられた俺やから分かるけども」


「なんだよその王子は、どっから出てきた。サっちん、俺様にちゃんと説明しろ」

「どこぞの国の御忍び王子が世直しの旅をしているんじゃないか、と言っているんだ」


「マジかよ。確かに王子様キャラっぽいなあいつ」


「水戸黄門の設定をロボットアニメに使ってみました、ってやつなんだよな」


 この説明で合っていると思う。たぶん、まあ知らんけど。


「ぶひゃひゃっ、なんだよそのアニメ、超絶面白そうじゃねぇかよ。巨大な印籠が出てきてロボットにでもなんのか」

「そんなゴールドライタン的なやつじゃない。普通に水戸黄門しているし、ロボットは三体合体でカッコいいぞ。特に合体時にシャキーンってデカいブレードアンテナみたいなのが出るのがいい。それに胸から盾が飛び出すのもいいアイデアだ」


 サマエルがロボットを語り出したら長くなる。


 とまあ、こんな感じのバカな話をしながら進んでいるけど、ジャングルの中なのでまったく景色が変わらない。


「既に怠い……二十日も歩いてらんねぇな」


 溜め息まじりに発した。


「てかボス級モンスターカモーン‼ はよ出てこいやーーー‼」


 退屈でマルコシアスが叫ぶ。


「おい哲斗、秘薬というお楽しみは譲ってやるが、その代わり俺には、スーパーメタルアクションのダイケンゴー買ってくれ」


「えぇー、家賃と変わんないスゲー高いやつやん。ってこの間、勝手に買ったとこだろ」

「あのファイバードはちゃんとセールで買ったからもっと安い」

「いやそういう問題じゃねぇし」

「そうだクソパンダ、いい加減にしろ。どんだけ無駄遣いすんだよ」

「無駄じゃねぇ、クオリティ見てから言えクソワンコ‼」


 サマエルは言った後に恒例の顔面パンチを繰り出し、ここから子供のような喧嘩が始まる。勿論そのまま放置して、俺は一人で先に進んだ。





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