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僕と×××。と香織の物語  作者: なお。
第一章 僕と…

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ニホン

 自転車で坂道をスカートの裾をはためかせながら猛スピードでくだる一人の女子高生。艶やかな黒髪のポニーテールが風に舞う。

 容姿端麗、誰もが羨む美少女。彼女は僕の幼馴染の香織だ。

 彼女はどこにでもいる普通の高校生だ。

 この日を除いては…


 ◇


 香織は自転車で坂道を下っていく。なだらかで大きなヘアピンカーブがいくつも続く道。左右には青青と草木が生い茂る。ここは山の中を切り拓いてつくられた住宅街なので勾配の差も激しく、くねくねと曲がった道が多い。


「日差しは暑いけど、風は気持ちえぇなぁ」


 香織が一際大きなカーブを曲がると突然視界が霞む。そして、カーブを抜けると左前方に大きなグラウンドと白い建物が見えてきた。

 何故か視界の色彩が無くなり、全てのものが茶色がかって見える。まるで何かのフィルターがかかっているかのようだ。


「あれ? 目がおかしい? それにこんなとこに学校とかあったっけ?」


 香織が訝しみながらもそのまま坂道を下り続け校門の前へと辿り着く。「△△高等学校、△△中等学校」と二つの校名が門の左右に分けて記されている。


「聞いた事あらへん学校やなぁ…。ほんまにここどこなんやろ…」


 香織はいつの間にか見知らぬ土地に迷い込んだようだ。いつもの見知った道を走っていたはずなのにどうしてこうなったのか彼女にも見当がつかない。

 校門の前で考え込んでいると後ろの方で何やらガヤガヤと多勢の人の声が聞こえた。

 香織が振り返ると道路を挟んだ向こう側に大きな木造の施設があり、その前に人だかりが出来ている。


「人がいっぱいおるやん! あそこで聞いてみよ!」


 香織は自転車を押して道路を渡り、その施設へと近づいていく。人々は皆んな笑顔で会話をしている。子供たちの笑い声もあちらこちらで聞こえる。

 香織は施設の左端の方に駐輪場を見つけるとそこへ自転車を止めて施錠する。そして、その人だかりへと向かう。

 施設前に移動した香織は一番近くにいた女子学生に声をかけた。自分と比べると少し幼く見えるので中学生だろう。


「すみません。ちょっと道に迷ってしもて。ここがどの辺りか教えて貰えんやろか?」


 友達と話していた女子中学生は香織の声に振り向き、笑顔でここは「△△ですよ」と教えてくれた。


 △△…、学校名と同じやな。でも、そんな地名聞いた事ないんやけどな…。

 あかん…。私、完全に迷子やん。これはあいつには絶対言えんし、助けも求められん。

 絶対に馬鹿にしよるに決まってる!

 自分で解決せな。


 そう思い香織はさらに女子中学生たちに質問する。


「えっと…。私、迷てるみたいで地理がよくわからんのやけど、○○の方へはどっちの道を行ったら良いんやろか?」


「あぁ、○○やったらこの道を向こうへ真っ直ぐ行かはったら良いですよ!」


 女子中学生たちは道を指差して優しく教えてくれた。そして、その後こう続けた。


「そうや! 今からお祭りがあるんですよ! ぜひ、参加して行ってください! 誰でも参加出来るし、大人の人たちも皆喜びますさかいに」


 満面の笑みで誘ってくれる彼女たちに香織は断りきれず「少しだけなら」と承諾した。

 女子中学生たちは喜び、祭りの主催者に報告へ行った。主催者たちも大喜びし、「楽しんで行ってください」と言ってくれた。


「それで、今日は何のお祭りがあるん?」


「△△様の生誕祭と御法要ですよ。難しいことは良ぇんです。大人たちが全部やってくれはるんで、私たちは好きに楽しばえぇらしいです」


「そうなんやね!」と笑顔で香織は答えたが、やはり「△△様」という単語を全く聞いた事がなく不安がよぎる。

 そんな香織の前で更に戸惑う光景が繰り広げられ始める。

 ここは施設前の開けた場所だ。屋内ではなく屋外だ。仕切りも隠れる場所もない。

 そんな場所で、「女子も男子も着替え」を始めた。制服を脱ぎ下着姿になる。誰も恥ずかしがることもなく笑顔で会話しながら浴衣に着替えていく。女子も男子も関係なくだ。

 香織は強い不安と違和感に苛まれる。


 ちょっと待って…、これが普通なん?

 さすがにおかしいよな?

 なんで、誰もこれを変やと思ってないん?

 どういうこと?


 香織は怖くなってきたがそれを彼らに伝えるのは危険だと直感が告げる。取り敢えず、そのまま様子を窺うことに決めた。

 彼女たちは着替え終わると「もうすぐお祭りが始まりますよ。さぁ、中へ入りましょう!」と香織に言った。

 香織は誘われるがままにその後をついて行く。施設の玄関に入るとそこには木製の大きなアーチがあった。それには子供たちが作った多種多様な形の折紙が飾りつけられている。

 アーチをくぐると大きなホールに出る。ホールの壁際には様々な屋台がたち並び、その列は通路の方にもずっと伸びている。

 焼きそば、たこ焼き、焼きとうもろこし、金魚すくい、くじ引きや射的など様々な屋台があり子供たちは目移りしてしまうほどだ。


「すごい数の屋台やね!」


「でしょ! しかも、子供たちは全部一回無料なんですよ!」


「無料! ほんまに? それは太っ腹やね!」


「そうなんですよ。やから、いつもどっから回るか考えるのも楽しみの一つなんですよ」


「へぇー、それはそうなるよね」


「今日はどれから回るん? 私、初めてでようわからんし、あなたたちについて行くわ」


「えぇんですか? ありがとうございます! では、あちらから行きましょ」


 そう言うと女子中学生の一人が通路の奥の方を指差す。ピカピカと光るイルミネーションで飾り付けられたよくわからない形のオブジェの周りに並ぶ屋台が見える。

 香織は中学生たちの後を追い、建物の奥の方へと歩いていく。ホールから通路へ出る辺りの壁に一つの時計が掛けられているのが目に入る。

 それは木製の大きな時計で、かなりの年代物に見える。

 作業服の中年男性が脚立にのり時計の蓋を開けて中を覗き込んでいる。時計を修理をしているようだ。

 香織はすれ違いざまに時計に目をやる。


「前回修理年月日。九月三十五日…? ん? 昭和九十九年? どういうこと?」


 香織の頭がフル回転を始める。元号も、日付も自分の知るそれとは異なっている。なにがどうなっているのか?

 香織は底知れない恐怖に襲われる。


「ここ」は、一体どこなん?

 私の知ってる日本やない…。

 少なくとも「ここ」では、まだ昭和が続いてるてことやろ。

 これって、もしかして小説とかで出てくるパラレルとかなんとかいうやつか…。

 どうやったら戻れるんやろ?

 というより、私は「ここ」にいてこのまま無事でいられるんやろか?


「香織さん」


 香織は名前を呼ばれて我に帰る。中学生たちが不安そうに私の顔をみつめている。窓に映る自分の顔は眉間に皺がよっていた。

 どうやら、恐怖と不安で表情が歪んでいたようだ。


「香織さん、顔が真っ青ですよ? 大丈夫ですか?」


「うん、大丈夫。ちょっと嫌な事思い出して考え事してただけやから。さぁ、おすすめの屋台はどこや?」


 香織は笑顔で取り繕いそう言うのが精一杯だった。そんな香織に中学生たちは少し心配そうだったが、香織に屋台を聞かれたので笑顔で「こっちです!」と言い屋台へと向かった。

 香織は彼女たちと一緒にベンチに座る。

 ここは、建物の奥にある礼拝堂のような大ホールだ。今日は屋台の食べ物を食べる人々で溢れかえっている。


「香織さん、ホンマに食べへんのですか? これめちゃくちゃ美味しいんですよ」


「ちょっとダイエット中でね…、ごめんね。美味しそうなんは見た目と匂いでめちゃわかるで! よだれ出てきたもん!」


「そうなんですね。美味しさが伝わるだけでもうれしいです。では、失礼して頂きますね」


 もぐもぐ…、ごっくん。

 もぐもぐもぐもぐもぐもぐ。


 中学生たちは皆んな笑顔で、本当に美味しそうにたこ焼きを食べた。香織はそれを見ているだけでうれしくなった。

 彼女たちがたこ焼きを食べ終わる頃に、前方のステージ上に一人の男性が上がった。お祭りには似つかわしくない軍服を着ている。

 香織はその服に見覚えがあった。この前、たまたまテレビで見ただけだがとてもよく似ている。

 あれは、「大日本帝国陸軍の軍服」だ。

 なぜ、彼はそんな物を着ているのか?

 どこで、それを手に入れたのか?

 香織はどことなくとても嫌な予感がした。

 ステージ上の男性はマイクを握り話し出した。


「お楽しみのところ失礼します。本日は△△様の御法要にお集まり頂き、大変うれしく思っております。ここで、お祈りの時間とさせて頂きますので、皆様もご一緒にお願い致します」


 男性はそう言うと香織の方に背を向け床に跪いた。そして、ステージの奥にある祭壇に手を合わせ祈りを捧げ始めた。

 その場にいた人々も一斉に手を合わせ祈りを捧げる。香織は作法がわからず、取り敢えず中学生たちの動きを真似た。

 数分間ずっと頭を下げていたが、すっと皆んなが一斉に頭を上げる。跪いていた男性は立ち上がりこちらを振り向くと一礼し、ステージから降りて行った。


「お祭りやけど、ちゃんと法要らしいこともやるんやね」


「そらそうですよ。こっちがメインでお祭りはついでですから」


 中学生の言う通りだ。子供っぽいことを言ってしまったと思い香織は少し恥ずかしくなった。

 中学生たちと次の屋台へと向かおうとした時、先ほどステージに上がっていた男性が香織の元を訪れた。


「お楽しみのところ失礼致します。本日は御法要にご参加頂き誠にありがとうございます」


「いえ。こちらこそ、突然の参加にもかかわらず歓迎して頂きありがとうございます」


 二人は笑顔で会釈する。そして、男は続ける。


「長が初参加の方に挨拶と御礼を申し上げたいと言っておりまして、もし時間がおありでしたら少しあちらの執務室までご一緒いただけませんでしょうか?」


 香織は少し身じろぐ。どこかもわからない、違和感と謎だらけのこの場所で軽率に知らない人物について行って良いものか判断に悩む。

 しかし、ここで断って印象を悪くするのも怖い。

 香織は「この子たちも一緒で良いなら」と条件付きで了承した。

 男は満面の笑みで「もちろんでございます。ありがとうございます! では、こちらへどうぞ」と言い先導を始めた。

 香織は中学生たちと共に男の後に続く。


 男は執務室の扉の前に立つと敬礼し、名前と用件を述べる。すると、扉が内側から開き中からまたもや軍服を着用した男が出てきた。

 そして、「どうぞ、中へお入りください」と笑顔で招き入れてくれた。

 香織たちが部屋に入ると、奥の机の横に軍服を着た男の姿が目に入る。

 階級章があきらかに他の男たちとは違うのが一目でわかる。立派な髭を鼻の下と顎に蓄えた老齢の男性だった。

 香織たちに気づくと笑顔でこちらへ歩き出す。


「おぉ、ようこそおいでくださった。わしはこの施設と隣の学校の責任者の〇〇です。本日は御法要に参加頂き、お祈りまで捧げて頂いたようで本当に感謝しております。お祭りの方はお楽しみ頂けてますかな?」


「はい。この子たちに案内してもらえて、とても満族しています。ありがとうございます」


「そうですか、それは良かった。お前たちもご苦労。引き続きこの方の案内を頼むぞ」


 中学生たちは背筋を伸ばし「はい」と元気よく答える。学長の命にしては規律がしっかりし過ぎているようにも感じたが、香織は今は気にしないことにした。

 そこへ、一人の男が緊迫した様子で入室してきた。


「失礼します。長、少しお時間を宜しいでしょうか?」


「客人の前で失礼だぞ!」


 〇〇はその男を叱責したが、香織は「お構いなく。どうぞ」とその男の話を促した。

「ありがとうございます」と〇〇は香織に頭を下げた後、男に近づき用件を聞く。

 話を聞くにつれ〇〇の眉間に皺が寄る。何か問題でも起きたのであろうか?

 話し終えると〇〇が部屋の奥の扉に近づく。その扉は金属製でとても重厚感のある物だった。〇〇はそれをゆっくり開ける。

 部屋の端で待機していた香織の視界に扉の向こう側が少し見える。「それ」を見た瞬間に香織は「それ」は見てはいけない物だと思い、咄嗟に視線を中学生に移す。

 〇〇は奥の部屋から何かを取り出して着て男に渡して命を出す。男は深々と頭を下げて退室していった。


「いやぁ、お恥ずかしい。お時間をとらせてしまい申し訳ありませんでしたな。では、引き続きお祭りを楽しんで行ってください」


 そう言うと〇〇は執務に戻っていった。香織は頭を下げ「失礼します」と言い中学生たちと退室した。


 あの奥の部屋…。

 ちらりと見えたのは金塊と札束やった。

 綺麗に並べられてからしっかり見えてしまった。

 なんで、あんなに大量の金塊と札束を保管してるんやろ?

 でも、私が見てしまったことはバレてないはずや。

 大丈夫…。


 ドキドキしながらもそれを悟られないように平静を装う。

 香織はその後も中学生たちと屋台をまわりお祭りを楽しんだ。

 香織は時間が気になり、スマートフォンをポケットから取り出した。すると、中学生たちの表情が変わる。ポカンとしているのだ。


「大きな時計ですね。そんなに大きな時計を持ち歩いてるんですか?」


「え? スマフォだよ? 持ってないの?」


「スマフォ? なんですかそれ?」


「え?」


 香織はその言葉で凍りつく。自分の常識が通じていない。


 これはヤバい…、ここで不審がられて大勢の人々に報告されたらマズイことになる気がするわ。

 なんとか誤魔化さなあかん!


「えーっとねー、そう言う名前の時計なんよ! 私の学校で流行ってるんよ! ははははは」


「やっぱり時計なんですね。綺麗な画面ですもんね、流行るのもわかります!」


「でしょ? そうなんよ!」


 香織の下手くそな誤魔化し方を中学生たちは全く疑っていないようだ。胸を撫で下ろす香織。


 ここにいるとホンマにヤバいんちゃうの?

 早く帰らなあかん!

 でも、どうやって?

 誰かに助けを求める? 求める方法がわからへんやん。

 でも、道を聞いた時の地名は通じてたな。てことは、そっちに向かって帰れば帰れる?

 ここにいるより、そこへ向かってから次のこと考えた方がマシな気がするで。

 よし! なんとか、こっから出るで!


 香織はそう決心すると、まず怪しまれないように外に出る方法を考えた。

 出来るだけ不自然にならないように理由を作らなければいけない。


 電話をする為に外に出るのは「スマフォ」が「ない」この世界では通じない。

 中の電話を勧められるだろう。それでは、意味がない。

 トイレも施設内にあるから無理。

 誰かとの待ち合わせも「道に迷ったあげく、お祭りに参加している」時点でおかしいので使えない。

 普通に「外の空気吸ってくる」しかないか…。


 香織は意を決して口を開く。


「ねぇ、初めてのお祭りでちょっと疲れたから、一回外の空気吸ってくるわ」


「そうですか。じゃあ、私たちはこのまま屋台回ってますんで後で合流してくださいね。あっちの方にいますんで」


 そう言うと彼女たちは施設の奥の方へと歩いていった。すれ違う大人たちに挨拶やどこへ行くのかと声をかけられたが、先ほどと同じ理由を伝えて出口に向かう。

 入口にいた大人たちに「もう少ししたらお祭りの目玉があるから中に戻ってね」と笑顔で言われたので「はい」と答え駐輪場の方へと伸びをしながら歩く。

 大人たちの視線を背中に感じるが気づかないふりをする。


 あの大人たちの表情…、なんかすごい違和感あった。

 笑顔やけど全然笑ってへんかった。

 あれは絶対何かを隠してる笑みやったで。

 ホンマに早く逃げなあかん。


 ゆっくりとした足取りだが着実に自分の自転車に辿り着くとすぐに自転車のロックを外す。

 遠目に見える施設の入口にいた大人たちが何やらこちらを指差し慌てているのが見える。

 香織は急いで自転車に乗り、ペダルを漕ぎ出した。後方で何やら声が聞こえる。


「おい! 贄が逃げるぞ! 追え! 追え!」


「彼女に食べ物は食べさせていないのか?」


「すみません…。ダイエットだからと何も口にしてもらえませんでした…」


「なんということだ…。なんとしても彼女を捕まえるのだ!」


 大人から子供に至るまで殺伐とした空気が漂い始める。

 香織が後方を確認すると数人の大人たちが走っているのが見えたが香織はそれを無視して全力でペダルを漕いだ。

 道路を言われた通り真っ直ぐ走る。ただひたすらにペダルを漕ぎ続けた。

 香織は額に玉の汗を浮かべながら必死に漕いだ。そうする内に彼のモノたちの声はいつしか聞こえなくなり、視界に映る景色に色彩が戻っていることに気づいた。


「あれ? 色が戻ってる…」


 香織が自転車を止めて後方を振り返るとそこにはいつもの山道があった。道路標識に書かれた文字もいつものモノだった。

 香織はスマフォを取り出して画面を確認すると、おびただしい数の着信が表示されたいた。両親からは大量のLINUが届いている。

 時刻は昨日と同じ時刻だが、日付はまる一日過ぎていた。


「一日経ってる? 嘘やろ?」


 香織はすぐに母に電話し事情を説明した。母はただただ香織の無事に安堵し怒らなかった。ただ、幼馴染の家に向かうようにだけ厳命したので香織はそこへと向かった。

 幼馴染の家に着くと母から連絡を受けたおばちゃんとあいつが玄関で待っていた。

 香織は「心配かけてごめん」と謝る。あいつは「無事で良かった」とだけ言ってくれ、おばちゃんは何やら液体の入った瓶を持って私の前に立った。

 いつも優しいおばちゃんらしからぬ険しい顔つきだ。


「香織ちゃん。ちょっと濡れるけど我慢してな。着替えは中に用意したるでな」


 そう言うとおばちゃんは私の頭のてっぺんから瓶に入っていた液体をかけた。


「冷た!」


 おばちゃんは香織の言葉を無視して液体をかけ続ける。そして、用意していた液体を全部かけながら何やら呟く。

 すると、香織はどこか身体がすっきりした気がした。


「さぁ、中入って着替えよ。早よせな風邪ひくで。それで、ごめんやけど裏口から入って欲しいんよ。この子と一緒に回ってくれる?」


「おっけです!」


 香織はあいつからバスタオルを受け取る。何故か彼は顔を横に向けている。訝しむ香織だったが自身の姿を見て全てを悟る。

 全身ずぶ濡れで下着が透けていたのだ。

 香織は急いでバスタオルで身体を隠す。そして、恥ずかしさを誤魔化すように「早よ、中入ろ?」と言い小走りで裏口へと向かった。


 ◇


 私は無事帰還した。

 話を聞くとやはり「あそこ」はこの世ではなかったみたいや。

 しかし、死後の世界でもなさそうや。並行世界やったのか、もしくは何かしらの力を持つこの世界に敵対するモノたちの隠れ里やったのか。

おばちゃんにもよくわからへんみたいやけど、詳しい人がそう言うてたらしい。

 向こうの食べ物を食べへんかったから、簡単に戻れたし、ことなきを得たらしい。

 あの時、「たこ焼き」を食べてたらと思うとゾッとする。

 向こうで私は「贄」と呼ばれてたし、あのまま「あそこ」いたらおそらく今この場に私はおらんかったやろう。

 今でも信じられへんけど、ホンマになんやったんやろな…。

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