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僕と×××。と香織の物語  作者: なお。
第二章 高校 夏

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ごはんを残すと…。

 僕はどこにでもいる平凡な高校生だ。

 時には夜更かしもするし、普段よりもしっかりと眠る夜もある普通の高校生。

 ある一点を除いてだが…。


 ◇


「ごはん粒残したら目がつぶれるで!」


 学校の昼休憩で友人のお弁当箱にひっつく米粒を見て、僕は唐突にその言葉を思い出した。

 これは僕が小さい頃に祖母から良く言われた言葉だ。戦争で食べ物に苦労した祖母なりの「食べ物を大切にしなさい」という躾だったのだと思う。

 何故今頃になってこの教えを思い出したのか不思議でならなかったが、それはこの日の夜にわかることになった…。


 ◇


「ごちそうさまー」


 僕はお腹がいっぱいになりそう言った。いつもなら食事を残す事はしないが、今日はどうしてもお腹に入らなかった。


「ごはん残ってるやん!」


「そうなんやけど、どうしても食べきれんかったんや…」


「それは、しゃーないけどなぁ…」


 僕は表情が曇る母を見て、茶碗の前で手を合わせると「ごめんなさい。どうしても食べきれませんでした」と言った。

 母はそれを見て「たぶん、大丈夫やろ?」と言って食器をさげていく。


「たぶん、大丈夫?」って、どういうこと?


 僕の頭に母の言葉がこびりつくように残る。ごはんを残すことなんてよくある事だと思う。

 誰でも「世界のどこかではご飯が食べられなくて困っている人がいる」とか聞いたことがあるだろう。もちろん、そうなのだと思う。

 食べ物を粗末にしてはいけない。それが良い事だとはもちろん言わない。

 しかし、どうしても食べきれないという事は誰にだってあると思う。


 しかし、さっきの母の表情にはそれ以上の何かを感じた気がした…。



 食後の僕はゲームをしたり漫画を読んでダラダラと過ごし、23時を過ぎたくらいにお風呂に入り、寝る準備を整えたあと布団に入った。

 電気を消して目を瞑った僕の頭に再びあの言葉が浮かぶ。


「ごはん粒残したら目がつぶれるで!」


 何故、それほどまでにこの言葉を思い出すのだろうか?

 僕は不思議で仕方がなかった。しかし、その疑問を解消する間も無く、僕はすぐに睡魔に襲われ眠りに落ちた。


 ◇


 僕の目がゆっくりと開いていく。

 この感覚…、これは夢だ…。僕の直感がそう告げている。


「眩し…」


 僕が片手で光を遮ると光の向こうに何かが見えた。恰幅の良い体型で頭巾を被り、大きな袋と小槌をその手に持った男性。

 あれは…、あの時の…?


「げっ、今日はめちゃ怒ってはる…」


 頭巾の男はめちゃくちゃ怒っている。眉と目は吊り上がり唇は真一文字に結ばれている。

 僕がその様子に気圧されていると背後に違う気配を感じた。

 振り返る僕の目に飛び込んできたのは一匹の()の姿だった。先の尖った長い金属製の棒を持っている。いわゆる獄卒のような存在だろうか。

 彼?も同様にその目に怒りを露わにしている。


「あの…、お二人とも大層お怒りのご様子ですけど…。何の御用でしょうか…?」


 僕は彼らが怖過ぎておずおずとそう言うのが精一杯だった。しかし、二人は僕の問いには一切答えず、ただ怒りの形相のまま僕を睨め付ける。

 その様子にあたふたしている僕の前に新たな来訪者がやって来る。


 金色に輝く光の中から一人の男が降臨する。


 それはパッと見たところ「人間」だった。服装は華美に着飾っているから普通の人間ではないと思うが、僕の目に彼は人間に見えた。

 彼はニコリと微笑むと口を開く。


「お二人方とも。それではこの子には伝わりませんよ」


 それはとても優しい声だった。優しいがスッと耳に入るとても聞きやすいハッキリとした声。

 そんな印象を受けた。


「お二方は大層お怒りなので私から説明します」


「あ、はい。宜しくお願いします」


 僕はいまいち状況が掴めないまま頭を下げる。おそらく、彼の説明で僕の疑問は全て解けるはずだ。


「まず、あなたから見て左側にいる御方は➖➖様。右側にいるのが獄卒様です。その顔は何となく予想していたようですね」


「はい。こちらの神様は以前お会いしたことがありましたし、獄卒様は見るからにそうなんやろなぁと思ってたとこです」


 正面の男は小さく頷くと話を続ける。

 

「では、本題に入ります。そもそもの発端はあなたがごはんを残したことから始まりました」


「え? ごはんを残したこと?」


 男が「そうです」と言うのに合わせて両サイドの二人は大きく頷く。

 僕は三人の顔を順番に見る。何度見ても、三人とも頷いている。


「それについては申し開きすることは何もありません。本当に申し訳ない事でございました…」


 地面に両膝をついた僕は三人の顔を見た後、額を地面に擦りつけて謝罪した。暫しの静寂の後、➖➖様が口を開く。


「お主には言うまでもないと思うが、米には我々が宿っておる。そして、ワシにとって米はそのまま力となる、絶対に粗末にしてはならぬ。肝に銘じよ…」


「承知しました。二度と粗末にしないと誓います」


 ➖➖様は「うむ。よろしい」と言うと以前と同じ柔和な笑みをみせてくれた。

 僕は許されたことで安堵の息が漏れる。彼が人でないことをわかっているので本当に怖かった。

 しかし、事はそんなに簡単に解決しなかった。


「待て! 俺はまだ赦していない。そんな簡単に赦すわけにはいかん。俺は上から強く言われてここまで来たのだ」


「あなたの上って…、もしかして…?」


「そうだ。お前の想像している通りだ」


「いやいや、一回ごはん残しただけでそんな大層なとこから圧力かかるんですか? 何で僕だけ?」


「それは俺にもわからん。しかし、何もせず帰っては俺が罰を受ける。それは困る。お前の()()()()くらいはして帰らにゃならん」


「えっ! ここでそれが出て来るん!」


 鬼は腕を組んで「そうだ」と頷いている。祖母の話はただの躾じゃなかったのだ。食べ物を粗末にすると本当に地獄から使者が来るぞという意味だったようだ。

 さすがの僕もそこまでの想像力はなかった…。


「さぁ、顔をこちらに出せ。すぐに済ませよう」


「いや、それは勘弁して貰えんでしょうか…。まだこの目は必要なんです。二度と粗末にしないと約束します」


「駄目だ」


「そこをなんとか!」


 頭を下げる僕に「駄目だ」の一点張りを通す獄卒の鬼。苛立つ鬼がついに僕の方へその大きな一歩を踏み出す。

 一歩で僕の前に移動した鬼は片手で軽々と僕の身体を持ち上げると自分の前に固定し、右手であの長い武器を構える。

 僕は恐怖で両手両脚をバタバタさせる。鬼も武器も怖いし、目が潰されるのもめちゃくちゃ怖かった。


「大人しくせい!」


 鬼はそう言うと武器を僕の顔目掛けて突き立てる。空を斬る轟音と共に武器が僕の眼前に迫る。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!」


 僕は人生が終わりを迎えたと両目を瞑る。その僕の顔にとてつもない強風が叩きつけられる。風で顔の皮膚が飛んでいきそうな勢いだ。

 風がおさまり僕が目を開くとあと数センチというところで鬼の武器は止まっていた。

 きょろきょろする僕を鬼は雑に地面へと落とす。突然のことで僕はお尻を地面で強打し、そのまま転がる。

 僕がのたうち回りながら上を見上げると、巨大な鬼の腕を細腕でとめる男の姿があった。

 鬼がそれ以上何もする気がない事がわかると男はやっと鬼の腕を離した。

 鬼は「ふんっ」と言ってそっぽを向いてしまった。

 僕は男の前に立つと深々と頭を下げた。


「助けて頂きありがとうございます」


「いえいえ、彼もやりすぎでしたからね。しかし、食べ物を大事にする心は忘れてはなりませんよ。お米には私たちも宿っていますからね」


 僕はその言葉に全てを理解した。


「承知しました。必ず大事にすると約束します。この場に居合わせる神様と鬼様と、そして仏様に誓って…」


「よろしい」と三つの声が重なり、僕の視界は眩い光に埋め尽くされる。


 翌朝、僕は目が覚めると虚空に手を合わせる。昨晩の誓いと今日の生に感謝を込めて。


「さぁ、しっかりごはん食べようか。もちろん、残さずにね」


 ◇


 僕はこの日の下校時に「大黒天、鬼、観世音菩薩」のフィギュアを買いに行った。昨晩の夢に出てきたのは彼らではない。しかし、出来るだけ見た目の近い物を選んだ。


 あの誓いを忘れないために。

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