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僕と×××。と香織の物語  作者: なお。
第一章 僕と…

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白いワンピースのオンナ 1

 あれは私がまだ高校生だった頃の話だ。私は毎日真面目に学校に通い、休日は友や幼馴染と遊ぶ、どこにでもいる普通の高校生だった。

 ある一点を除いてだが…


 ◇


 思い返してみると、その始まりはとある夜のことだったと思う。

 その日、僕は高校からの帰り道を母の車に揺られて帰っていた。僕は少し離れた地域にある高校に電車通学をしていたのだが、この日は朝から雨が降っていたので駅まで送迎してもらったのだ。

 街灯の少ない夜の田舎道。車のヘッドライトの明かりがなければ前もほとんど見えないだろう。

 僕はそんな夜の世界を車の中からぼーっと眺めていた。車内に会話はなく、カーステレオから聞こえるラジオの音だけが響いていた。

 車が田圃道にさしかかりさらに視界は真っ暗闇に染まる。もちろん外の景色は闇以外に何もない。建物や動物などが見えようはずもない。


 しかし、それは「そこにいた」。


 闇の中に、それは立っていた。

 白いワンピースを着た髪の長いオンナ。

 その姿は、闇の中に異様な程にくっきりと浮かび上がっていた。

 長い髪で顔が隠れていたので表情はわからなかった。

 雨の中にも関わらず傘はさしておらず、両手はだらりと下に垂れていた。


 なんや、今のは…。女性が立ってたんか?

 あんな真っ暗やのに、何で見えたんや?


 僕は怖くなって急いで母の顔を確認する。母の表情に変わった様子はない。


「なぁ。さっき外に白いワンピース着た女の人がおったんやけど、見えた?」


「何を言うてるん。こんな雨の中にいるわけないやん。あんたも知ってると思うけど、この辺りって田圃と林しかないんやで。雨の夜中の田圃とか林に、白いワンピースの女性てありえへんやろ」


「それはわかってる…。でも、いたんよ…。はっきりと見えたんや」


「見間違いちゃうの? 私には見えんかったし、違和感も感じんかったで?」


「そうなんか。勘違いやったんかなぁ…」


 そのまま車は田圃道を走り抜け、その後は何事もなく無事家に着いた。

 僕と母は帰宅した時も嫌な感じはなく、やっぱりただの勘違いだったのだと結論づけた。


「疲れてたんやな。何もないし、大丈夫そうや。良かった!」



 しかし、それはその晩の深夜にやってきた。


 僕は夢を見ていた。

 そこは帰りに通ったあの田圃道だ。

 僕は何かに誘われるようにふらふらと田圃の畦を歩き、例の林の方へと向かう。夢の中では今日の夜とは違い、天候は曇りで時間帯も昼間になっていた。

 田圃に目をやると、稲は刈り取られその茎だけが残っている。

 僕はどんどん林へと近づく。林の中は薄暗く、どこか気味悪く感じる。田圃と林の間には境界線のように水路がある。水路に水は流れておらず底が露わになっていた。

 僕は水路の前で立ち止まった。そこから先へは行ってはいけない。そう直感で感じたのだ。

 空を覆っていた雲がさらに増したのか、突然辺りはその暗さを増す。

 僕はそれに釣られて太陽を覆う雲を見上げた。


 さっきよりも、雲が大きく、分厚く、真っ黒になっとる。これはひと雨きそうな雲やな。


 そう思い視線を下げたその刹那…。

 僕は心臓をキュッと締めつけられた。

 水路を挟んだ僕の目の前に「ソレ」は立っていた。

 長い髪を顔の前に垂らし、両腕もだらりと下がっている。暗く視界の悪い中で「ソレ」だけがくっきりと浮かびあがっている。

「ソレ」はだらりと下がっていた右腕をゆっくりと持ち上げると胸の前でとめ、手招きをはじめた。


 僕にそちらへ来いと言ってるんか?

 いやいや、怖すぎるて!

 行くわけあらへんがな!

 絶対、行ったらあかんやつやん。


 僕は心の中でそう念じる。すると、「ソレ」は急に自身の頭をもたげる。髪で顔は良く見えないが、髪の間から覗く左目は怒りに染まっているように見えた。


「ヤバい! 逃げな!」


 そう思った時にはすでに手遅れだった。僕の両腕両脚は動かなくなっていた。その場に固定されたようにピクリとも動かない。


「なんや? 何で動かんのや?」


 顔を動かし自身の身体を確認した僕はギョッとする。なんと、両手首両足首を白い手に握られていたのだ。

 ざわざわと一気に全身に鳥肌がたつ。前方に視界を移すと「ソレ」のワンピースの袖から僕の身体へと白い腕が伸びてきていた。しかも、左右二本ずつ計四本の腕がだ。

「ソレ」の髪が少しずれて唇が露わになる。紫色の細い唇がパクパクパクパクパクと五たび動く。

 僕にはそれが何と言っているかはっきりとわかり、背中から大量の汗が吹き出す。


「逃、が、さ、な、い」


 あかん。お前の思い通りにはさせん。

 失せろ! 早く消えろ! 帰れ!


 白い手の力がさらに増す。手足が千切れんばかり

 の圧迫感だ。白い腕は僕を掴んだまま引き摺り始める。

 僕の口から「くっ」と息が漏れる。


「やめろって言うてるやろが! さっさと消えろやー!」


 夢の中で叫んだ瞬間に僕は目が醒めた。

 額には大量の汗が浮かぶ。パジャマはもちろん下着までどぼどぼだ。


「最悪や。仕方ない、取り敢えず着替えよか」


 僕はそう言うとベッドから立ち上がり蛍光灯の紐をひっぱり照明をつける。部屋はたちまち白い光でいっぱいになった。

 クローゼットを開け、衣装ケースから新しいパジャマと下着を取り出す。

 枕元に置いてあったタオルで全身の汗を拭い着替えると、テーブルの上にあったボトルに入っていた水を飲む。

 僕は気分が落ち着いたところでベッドに腰掛けた。

 手首足首には何の痕跡も残っていない。ただの悪夢であったのだろうか。それにしては生生し過ぎる夢だった。それに出てきた場所も悪い。

 帰りにワンピースの女性をみたところにほんとうにその女性が出てきた。

 あれは夢にしては出来過ぎだ。しかし、今のところ何もない。きっと大丈夫だろう。夢枕に立たれただけと思いもう一度眠りについた。


 ◇


 翌朝、僕はいつも通りの朝を迎えた。いつもと同じように顔を洗い、制服に着替え、身支度を終える。

 そして、いつもと同じように朝食を摂るべくリビングへ向かった。


 僕は欠伸をしながら「おはよー」と部屋に入り椅子に座る。


「おはよ。なぁなぁ、あの話聞いた?」


「あの話てなんや? どの話やねん? てか、なんでお前がここにおるねん!」


 何故か僕の家のリビングに制服を着た美少女が座って朝ごはんを食べている。

 彼女は幼馴染の香織だ。物心ついた頃からずっと一緒に育ってきた。ラブコメなどの漫画で良く見かけるやつだ。

 彼女は今も同じ高校に通っている。いつまでこの腐れ縁は続くのだろうかと思う。


「別にえぇやんか。朝からこんな美少女に会えるんやでうれしいやろ?」


 満面の笑みでそう言う香織に「はいはい」と相槌をうちながら話を流す。


「で、何の話や?」


「知らんの? 駅に行く途中に田圃道が続くところあるやん? 田圃の向こうに林とかあるところ」


「あぁ、あそこな。あそこがどうしたんよ?」


「今朝、あそこで女性の死体が見つかったんやって。林の中に遺棄されてたらしいで」


 僕はドキッとした。昨日、あの女性を視た場所、夢でみたあの場所だ。一雫の汗が額から顎に向かって垂れる。


「香織…。その女性って長い髪で白いワンピース着てるんか?」


「なんや、知ってるんやんか。そうその話よ!」


「マジか…」


 僕は机に突っ伏した。


 ホンマ嫌や…、なんでやねん。

 もう何もしたくないわ…。


 そんな僕を見る香織は不思議そうな顔をしている。


「おばちゃん。何でこのリアクションなん? 何かあったん?」


「あぁ。この子な、昨日そこで髪の長い白いワンピース着た女性が立ってるの視たらしいんやわ。だからちゃうか?」


「えっ…。マジ? あんた、ホントに視たん?」


 僕は突っ伏したまま頷き、そのままの体勢で話し出す。


「さらにな、夢にその場所と女性が出てきたんや。ほんで、襲われた…」


 香織は絶句した。

 野次馬で話持ってきたのに、まさかここにそんな状況に陥っているヤツがいるなんて。

 香織は顔を顰め不安そうな声で尋ねてくる。


「なぁ…、そのヒトはあんたを道連れにしようとしてやったん?」


「夢の感じやとそうかもしれへんなぁ…。林の方へ引き摺り込もうとしてたしなぁ。もしくは、ここに遺体があることを知らせたかったのかもしれん。まぁ、どうやったのかはもうわからんけどな」


「そうやね…。もう終わった話やもんな。遺体も見つかったし、もう大丈夫やんな!」  


「たぶんな…」


 僕と香織は朝ご飯を食べ終わると食器を台所へと運び母に渡す。そして、鞄を持つと二人一緒に玄関へと向かう。

 そんな二人に背後から母の声がかかる。


「二人ともちょっと待ち!」


 僕と香織は不思議そうに母の方へと振り返る。車で駅まで送ってくれるようだ。少し準備するから待って欲しいと言っている。

 暫くすると母が玄関へと出てきた。その手には何かが握られている。


「二人ともこれを胸ポケットでもズボンのポケットでも良いから入れとき。今日は必ず身につけとくんやで。わかったな?」


 母の凄みに気圧された僕たちは「うん」とただ頷く。そして、母から渡された御守りをポケットへと入れる二人。

 その後、母に車で駅まで送ってもらった。途中にある田圃道から見える林の方にはブルーシートがかけられ、付近には数台のパトカーが並ぶ。大勢の警察官が集まっているのが遠目でもわかる。

 駅に着き僕たちをおろした母は「帰りも迎えに来るで、必ず二人一緒に帰ってくるんやで」と言い車を発車させた。


「どうしやったんやろな? 何かピリッとしてやったで」


「せやな。たぶん、あの林の遺体の関係ちゃうかな。僕が襲われたからかもしれんな…」


「終わりじゃないってこと…?」


「わからん。でも、おかんは終わってないと思ってるんやろな。まぁ、僕らには言われた通りにする以外に何もできんのやけどな」


「たしかに! じゃあ、あんまり考えてもしゃーないな! 放課後は一緒に帰らなあかんことやし、今日どこ寄って帰るか考えよ?」


「いやいや、寄り道するんかい! こういう日くらい真っ直ぐ帰ろうや…」


「だって、部活があると一緒に帰れんかったりするやん。こういう時に楽しまんとね」


「いやいや、今日も朝から一緒にご飯食べたやんか…」


「それはそれ、これはこれやで」


 香織はもう放課後のことで頭がいっぱいのようだ。こうなってしまってはもう彼女の考えを覆すのは難しそうだ。僕は早々に諦めた。


「しゃーないなぁ。寄り道はちょっとだけやで? 早めに帰らなあかんで!」


「はーい」と言うと香織はニコニコしながら改札を通っていった。僕は呆れながらも微笑を浮かべその後を追った。


 ◇


 放課後になると僕たちは駅の近くにある喫茶店に入った。ここは昔ながらの純喫茶で、夫婦で切り盛りされている近所の住人たちの憩いの場だ。

 僕はホットのブレンドコーヒーを、香織はアイスティーを注文し他愛もない話をしていた。

 香織は突然すっとメニューに手を伸ばす。


「なぁ、これ一緒に食べよー? この時間から一人で食べるのはちょっときついけど二人やったらいけそうやん? な、お願い!」


「今から食べるん? ほんまに大丈夫なん?」


「大丈夫やって、手伝ってもらったら…。あかんの? なぁー、お願いやからー」


 香織は上目遣いで僕の瞳を見つめてくる。


 ほんまに自分の武器の使い所を心得とるな。

 こいつ中身は兎も角、顔はほんまにはかわいいからな…。

 ズルいわ…、さすがに断れん。

 僕は香織に甘すぎやろか…。


「わかった。えぇよ、一緒に食べよ」


「やったー! すみません、このパンケーキ一つお願いします!」


「はーい! パンケーキね! ちょっと待っててや」


 香織はニコニコでパンケーキの到着を待つ。僕はそんな香織を微笑ましく見つめた。

 そんな中、隣の机にいる高齢男性二人の声がふと耳に入ってきた。


「そうや、隣の町の話聞いたか?」


「聞いたで、林に女性の遺体があった話やろ」


「そうそう。その話よ、身元わかってへんのやろ? そんで、犯人も捕まってへんて」


「怖いなぁ…」


「この辺は子供とか学生も多いでなぁ。ほんまに早う捕まって欲しいで」


 そこで二人の視線は僕たちへと向く。


「あんたらも暗うなる前に早う帰りや。気ぃつけなあかんで」


「はい、ありがとうございます。次の電車で帰るつもりやし、駅まで母が迎えに来てくれるんで大丈夫です」


「そうか。それなら安心やで」


 そう言うとおじさんたちはまた二人の会話に戻っていった。

 

「パンケーキお待ちどうさん! サービスでクリーム大盛りにしといたで」


「わぁー! おばちゃん、ありがとー!」


 恰幅の良いおばちゃんは笑顔でパンケーキを机に置く。僕はキッチンのマスターにも頭を下げる。マスターははにかみながら右手を挙げて応えてくれた。


「そういや、あんたら二人は隣の町の子ちゃうの?」


「そうです。例の林は家の近所やから、朝からびっくりしたんですよ」


「そうなんか、それやったらほんまに怖いやないの! こんな可愛い子狙われてしまうで。彼氏のあんたがしっかり守ったらなあかんで!」


 そう言うとおばちゃんは僕の背中をバンと叩く。そんなおばちゃんの様子に香織はあたふたしだす。


「おばちゃん! わたしらまだカップルちゃうで! 変なこと言わんといてぇな」


「あら、そうなん? いつも一緒にいるでてっきりそうなんかと思ってたわ」


 おばちゃんは笑いながらキッチンの方へと戻っていった。微妙な空気がながれり。


「……。なぁ、とりあえずパンケーキ食べへん?」


「せやな。電車の時間もあるしな」


 二人は気まづい雰囲氣を誤魔化すようにパンケーキを貪った。

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