お姫さま
「それ以上、その顔でありがとうだのなんだの言うなよ。気持ち悪いから」
キヒは本気で嫌がっている。以前の自分自身はどんな顔面をしていたか不明ではあるが、シハは首を横に振った。
「人にありがとう、って言うのは普通でしょ!」
「いやいや。性格違いすぎだろ。…俺は用があるから境内から出てくが、絶対に外に出るなよ」
「あー…えっと、うん」
日用品は社務所にあるから、と彼は説明すると"鳥居"をくぐっていった。
「…外に出るな、って。困った…社務所にいればいいのかな」
社殿と板の間があった社、そうして奇妙な狛犬。蝉と湿度の控えめな涼しい風が吹き抜け──漠然とした疑問をもつ。
「夏ってこんなに涼しかったっけ…」
自らが存じている季節とかなり認知差がある気がした。まるで理想の、人々が描くノスタルジックのような幻想の景色。
「よう。起きたか?血蠱蝸」
少女の声がどこからかして、辺りを見回すも誰もいない。
「童はここじゃ。屋根の上」
「わらわ…?」
社殿の上に白いワンピースを来た、美しい黒髪の少女がいた。幽霊かと見紛うほどに浮世離れした、そんな雰囲気をもっている。
「うわああっ!お化けっ!」
「挨拶もできんのか?躾がなってないのう」
「こ、こんにちはぁ〜〜」
「幼稚園児レベルじゃ。ま、良い。童はこの地域を治めるお姫さま。八髏非女という」
お姫さまにしては、世に言う便所座りをして雑にこちらを見下している。八髏非女。不思議な響きの名前である。
(まさか、ここの神さま?)
「血蠱蝸。お前はこの懐の深いお姫さまに感謝しろ?地域の反対を押しきって、ここに匿っているのだからな」
「ありがとうございます…?あの、私、血蠱蝸じゃない気がするんですが…」
「何を言っておるか?お前はお前。八髏非女さまに馬鹿な質問をするな。で、お前に賭けをしてみたい」
少女は見事な身軽さで目の前に着地した。
「忌避がお前の二の舞になるかならぬか、賭けをしよう」
「二の舞?記憶喪失になるんですか」
「馬鹿者。血蠱蝸のように力を使い世の悪とやらを懲罰する悪魔になりうるか、または己の過去や増悪と決別し、第二の人生を歩むかだ」
虹色の虹彩を持つ、不気味な子どもは意地悪い笑みを浮かべる。
「賭け、という事は私に何か」
「ああ、もしお前が選んだ方に忌避がたどり着くのならば褒美をやろう」
人の可能性をもて遊ぶ様はまさに人智を超えた存在めいている。シハは淀みなく口を開いた。
「キヒさんに第二の人生を歩んで欲しい」
「承知した。もしもたどり着けなければ、童はお前の魂を食う!楽しみじゃ!」
「ひっ…」
八髏非女の舌なめずりに怯え、嘘では無いのだろうと焦る。
「あの…っ!」
のじゃロリ系が好きです…。