過去の自分
山の神は山の神。海の神は海の神──
日本で神の中で誰が一番というのはない。神はいるが、皆、その土地にしか興味が無い。
まとめているのは──いや、勝手にそう思い込んでいるのは人間で、神はそれに一応付き合っているだけ。
(神、て…)
「俺も"こんなの"にならなきゃ、知らなかったがな」
キヒは狛犬にもたれながら、そう言う。狛犬も存じている形をしていない。目が四つあり、しかも角まで生えている。
狛犬というよりは正反対の魔物だ。
「キヒさんは人間だった?」
「ああ、お前に殺されたんだ。その恨みやその他の感情が俺をこんな風にした」
叱責する口調だったが、彼はすぐに勢いをなくした。
「まー、記憶喪失になったヤツにそんなの関係ねえか」
「…私は人を殺めるのが好きな…殺人鬼だったの?信じられない」
「いいや、アイツは快楽殺人者じゃあねえよ。頼まれたら何でもする。相手が金持ちも貧乏人も関係ない。金をもらえるならば悪事を担う悪名高い呪殺人だった」
良くも悪くも平等。そこはある意味評価できるけどな、とキヒは付け足した。
(…ていうか、呪殺人ってなんだろう…)
呪殺。シハの持ち得ている常識は呪い殺す、そのままである。呪いを願い、間接的なファンタジーな行為だ。
言葉に言い淀むシハに、彼はああ、と口を開いた。
「呪殺人は呪いを用いて殺人をする。物理的に」
「呪いなんて存在する訳ないじゃん。オカルトでしょ?」
「はあ?!?お前、ホント…」
やってらんねえ、と悪態をつかれむつれていると、自分自身の腕に不可思議な痣があるのを見つける。打撲痕とはまた違う、禍々しい色をしていた。
「何これ?」
「俺と契約したんだ。違法だし、警察に見つかったら豚箱行きだけどよォ。仕方ねえよ。助けるためにジジイに迫られたら、やるしかなかったんだ」
「契約?」
「延命措置!」
「あ、ありがとう」
感謝され、真っ黒な化け物は豆鉄砲を食らったようだった。
「気色悪ぃ。その顔で感謝すんな…マジ、きしょ…吐きそう…」
必殺仕事〇的な…