非常口は開かなかった
「ンー、豊かだけど。別の意味でなんか、こう、いろいろ……」
「よく分からないな。外にも外の、悩みがあるってワケ」
「そうそう!」
逆さまの水族館は嫌に静かで、それと──水槽の死体たちに見られている気がして落ち着かない。
「そろそろかな。海の風が吹いてるの」
周囲を警戒しつつも、角を曲がる。
──そこには非常口があった。
「出口あるじゃん!」
「出れないよ。隙間があるけど、覗いたら少し向こうに水族館が見えた」
「えー」
彼女曰くこの世界は連続した建物でてきているのだが、ここだけ亀裂か崩落があり、外界の空気が入り込んでいるのではないか? と。
「無理やり開けらんないのかなー……」
ドアノブを捻ってみても、引いたり押したりしてもビクともしない。ただ少しホコリ臭さでない風がそぞろに吹いてくる。波、の音はシハには分からなかった。
「あ、あんまり叩いたりしないで。アイツがくる」
常に冷静沈着さを取り繕っている月が珍しく慌てた。アイツ?
「あああああああああああああ!!!!!!!!」
遠くから成人男性に似た雄叫びが聞こえ、自分たちの他に人がいるのかと驚く。──が、違う。
目が縦の巨大な警備員がこちらに疾走してきた「わああ、叱られる!」
(叱られる?! )
キヒが驚愕しているが、とりあえず謝るべきだ。非常口にイタズラしたと勘違いされたのだろう。
「す、すいません! これには訳があって」
「ソイツに言葉なんて通じないから! 早く逃げよう、ていうか、もう詰んだかも……」
警備員らしき生物は怒りの叫びを上げながら、こちらを鬼の金棒くらいの大きさである警棒で叩き付けようとする。体が自然とよけ、月を抱え、警棒を足場にジャンプした。
「わ、シハさん?!」
軽々と着地すると全速力で来た道を辿る。後ろには憤怒の形相の化け物が何かを言いながら追いかけてきていた。
「潜るしかないよ、ど、どうするの?!」
「アイツに手伝ってもらうしかない!」
「えっ?!」
バリケードの手間、猪突猛進してきた謎の警備員に道を譲り、少女を抱えたまま背中を蹴り飛ばした。
「アギャあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
全てを台無しにした化け物は穴という穴から黒い液体を撒き散らし、のたうち回る。
(こ、これって)
警備員のズボンポケットにスマートフォンが挟まっているのを見て、シハは拝借した。
「あなたの分まで私は元の世界に戻るから!」
(何言ってんだテメー)





