魚と死体、それから憧憬
死んだ魚は決まって腹を見せる。小学生の時飼っていた、デメキンもそうだったように。
だが逆さまだと、ゆったりと泳いでいるように見えた。あれはイワシの群れか。
照明に当てられキラキラと反射しながら浮遊して、美しさを放っていた。シハは残酷ではあるが、羨ましいとさえ感じた。
やはり水族館は好きだ。フワフワしてあるから。
地方都市だろうか。水槽の数や規模がそれなりに大きい事から、人口も多い市に建っていたに違いない。
(もしもこれが外からきた建物だったら、だけど)
久方ぶりの冥廊での明るい視界。安堵感につつまれながらも、魚を観賞する。
「あっ、サメだ。へー、水槽もでかいし、豪華な水族館だね〜〜」
「サメって言うんだ。あ、でもその場所は」
「え? あ、ヒァッ?!」
人が浮いていた。40代くらいの女性である。腐敗はしていないせいで泳いでいるのかと最初、目を凝らして眺めていた──目を見開いて、死した歳の表情のまま、時が止まっていた。
(人妖じゃないみたいだな。どいつもこいつも)
(多分、この水族館が営業していた頃の人たちかも)
(はあ? 変な事いうなよ)
──あれは、飾りだろ?
キヒの言葉に絶句する。あの女性を飾り物と受け流せなかった。
服装はシハがいた時代より少し古めで、バブルか、高度成長期前であろうか?
(ここで、何があったの)
水族館だったようだが『天井』には残留物ばかりで、何かがあったのを匂わせる。
「人らしきものが浮いてるから気をつけて。理由は分からないけど」
理由。
水族館の結末がもし分かってしまったら、彼女はどんな気持ちを抱くだろう。
(知らぬが仏、だよね! よし、私も気にせずがんばるぞ! )
(がんばる? 殺戮マシーンとして? )
(だから、私は血蠱蝸じゃないって! )
キヒの皮肉に呆れながら、月の後をついていく。明るいとはいえ水族館。魚が目立つように薄暗く設定されている。
「シハさんは生きている魚、見た事あるの」
「あるよ。イワシはああじゃなくて、もっとビューンって早く動くんだ」
「へ〜、イワシ、美味しい?」
「うーん。人それぞれかな? イワシよりサンマが好きかな!」
冥廊には魚介類がないのだろうか。少し残念だ。
「サンマ?」
「そう、焼くとすんごく美味しいよ。月ちゃんに食べさせてあげたいな〜」
ふーん、と薄い反応ではあるが、サンマを想像したのか水槽に漂う魚たちをみた。「みんな、食べれるのかな」
「だいたいはね」
「そっか、豊かな土地なんだ。外は」
水族館、めっきり行かなくなっているので、エセ水族館だったらすいません。





