少しだけ身の上話を
あれから少しして、キヒはまた寝ずの番をしている。彼がいつ寝ているかなどは定かでないが、人でないのだから睡眠は要らないのかもしれない。
雑魚寝は相変わらずで、なかなか眠りに付けずにいた。
「……キヒさんは、地図を作った人はどんな人だと思う?」
「さあ。方角に詳しかった、のと、とんだ命知らずだな、とは思うな」
「みんな、地図を作ってどうしたいのかな」
「ンー、なんだろーな。それぞれだろ? んなん」
ただの冒険心か、それとも知的な探求活動か。はたまた──脱出したいがための足掻きか。
「呪殺代行人はある程度地理を把握している。最初に生業を始めた軽という人物のものを拝借しているが、素人があそこまで記すには苦労しんじゃねえの」
「そっか」
「お前はまだ、日本に帰るのを諦めないのかよ。あの小娘と一緒に楽しくお気楽に外を探す気か?」
「そのつもり」
タオルケットを正しながらも、虫の音を聴く。秋の虫。寂しくもあり、懐かしく、希望を抱かせる。
自分の生まれた世界に戻ってみせる。
「私はあっちで良くうろちょろするのが好きでさ。自転車に乗って色んなところを走ってたんだ。山とか、街とか」
「じゃあ、今やろうとしてるのと同じだってか。なあ、約束通り身の上話を聞かせてくれねえか。おめーが、血蠱蝸じゃないッて証明を」
そういえばそんな約束をしていた。
「秋はよくススキを見に行ったよ。後は夏の終わりに独り公園で花火をしてたっけ」
「こーえん。それは?」
「子供が遊ぶ場所で、本当は花火は禁止なんだけどヒッソリやってたんだ。昔、友達と決まりみたいな感じで遊んだから」
しかしシハの脳裏にはその友人の容姿はモヤがかかり、うまく思い出せなかった。だが二人で楽しく話しながら手持ち花火をしたのは鮮明に記憶に残っている。
不思議だ。
その友人が忘れられずに、ひとりぼっちで花火をしていたというのに。
「……独りで」
「花火はこっちでもある。まあ、魔除けに近い意味合いで使われるが。目くらましとかよ。そういうのに近いか」
「うーん。観賞用かな」
「独りで? 誰に見せるでもなく?」
「そうだよ。なぜだか、私にも分からないんだけど。二十歳になる前までずっとやってた、みたい」
でこか他人事な、変な隔たりがある。己の記憶なのだが、現実感がない。
「変なやつだな、やっぱり。お前」
「ははは……否定はしないわ。──そうだ。鞄、乾いたから中身を漁ってこうと思うんだけど手伝ってくれる? 慎重に探ってかないと、紙類とかは壊れちゃうから」
天日干ししていた鞄がやっと乾いた、とあの後甲が伝えてくれた。汚れもなるべく落としてくれたらしい。
案外、いや、お人好しだ。
「はあ、はいはい。分かりましたよ……」





