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月と約束

「あ、信じてないでしょ」

 ムスッとした幼げな顔つきで月は言う。そこら辺は年相応で、少なからずホッとしてしまった。

 八髏非女のように外見と中身が食い違っていたらどうしようかと、シハは不思議な世界に滅入りそうだったからだ。


「まだこの世界がどんな所か把握してないんだ、あはは……」

「なんかなあ、そういうところ怪しいなぁ……。でも海がどんなのかは知っているんだ。そこだけは信ぴょう性があるんだけど」


「海は夏になると行くよ。あ、山も好きだよ! 泳ぎは上手くないから波を見てばっかりなんだよね」

「夏? やま?」

「私のいた世界には季節があって、春夏秋冬って言われてるの。夏は暑くて過ごしにくいんだけど海に行くと気持ちが──」

「わ、わかったから。できたら後で詳しく教えて、矢継ぎ早に言われたら忘れちゃいそう」


 そこまで貴重な情報なのか、彼女は慌てふためいた。冥廊に四季はなく、海も山もなく、空もない。あるのは何だ?


「地図を作ってくれた人は教えてくれなかったの?」

「うん。あまりあっちの世界を良くは思ってなかったみたいで、悲しい顔をしてた。でも春は好きって言ってた。桜って花が綺麗だって」


 わずかに顔をかげらせ、遠い記憶をなぞるように話す。

 その人はもういないのだろうか。


「わ、私も桜、綺麗だと思う! 薄ピンク色で花吹雪とか見てるとさっ」

「貴方、早死しそうだね。大丈夫かな」

「え、ええっ?!」


(死なねーよ。バーカ。世にはばかる極悪人の血蠱蝸だぞ? )


 キヒが毒づく。内心イラついたが、早死はしたくなかったので返事はしないでおいた。


「まあ、ちょっと信用ならないけど明日、そこに連れて行ってあげる。確かめて欲しいし」

「ホント? ありがとう」


「でもここから随分とおいから気をつけて。ほら、地図には街があるでしょ。ここが終棟なら他に二つ街があるの。そこを横断して、404号室の団地みたいな場所に行かなきゃいけない」


 円盤の地図には干支と、終棟・路院(ろいん)棟・(かぜ)棟と記されていた。月が指さした場所、空欄には鬼門と書かれている。


「鬼門、神虫・白蠕(はくじゅ)さまの位置にあるの。かなり危険な地帯だから、重装備で行かなきゃ」

「白蠕さまって何?」

「建物群を支配している化け物または守護獣だよ」



 彼女曰く、神虫・白蠕は正式名称は『白夜の神虫・白蠕』というらしい。

 訪れぬ朝を守護する神獣であり、 白蠕、というが白毛の羽が生えた麒麟──に似ていると地図を作った人が言っていた──で描かれる場合がある。辟邪ではないが、隔たり、境界を結界を守護するのだ、と。



「へえ、四神みたいでかっこいい!」

「しじん?よく分からないけどそういう認識でいいよ」


 鬼門は万鬼が出入りすると考えられているためか、穢鬼が発生しやすいのだそうだ。だから空白地帯として人々は避けて暮らしている。


「明日、風棟で待ち合わせね。約束」

「うん。わかった! 絶対くるから」

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