平屋建ての世界
ガチャ。
背後からドアを静かに開ける音がして振り返った。団地の古びた鉄扉から誰かが覗いている。
──そうして乱暴に閉められた。
「……え」
(あからさまに不審がられてるな)
脳内にキヒの声がひびき、軽いめまいが起きる。頭を触ると獣に似た角らしきものが生えていた。「ギャッ!!」
(いい加減慣れろよ)
「は、早く探さなきゃ。どっちら辺にいそう?」
(あの角を右に曲がれ)
「角、あるんだ!」
(そりゃあ、安全地帯にいるんだから構造も変わるだろーよ)
言われた通りに延々と続いていた廊下に不規則な曲がり角が追加されている。チョークで書かれた可愛らしい子供の落書きが床にある事から、やはり人が生活しているらしい。
右に曲がると数人の子供たちが、楽しそうに円を書いて回っていた。
「辟邪さまの通り道、あちらは怖くてこちらは汚い。どっち、どっちにしましょ──」
(なんかうしろの正面だあれ、ってヤツに似てるかも)
(ナンダソレ)
「わあっ! 鬼だ!」
「きゃあ! 不審者だあ!」
一人がこちらに気づき、わあ! と走り去っていく。それを追うように子供たちも道の先、暗がりに消えていった。
「防犯意識が高くてなによりだなあ〜〜……」
苦笑しながらも道を進むと、だんだんと様相が変わってきた。団地の無機質な景色が徐々にひなびた木造建築になり、道幅も広くなった。
あれだけズラリと並んでいた扉はなくなり、眼前はひたすらに平屋建ての建物のみになる。
物干し竿と砂利道がノスタルジックを醸し出すが、当然上には空はない。あるのはアーケードの如く覆うトタン屋根だけだ。
物干し竿には洗濯物がかけられていたり、三輪車が道端に放置されている。ここも人がいるみたいだ。
「不思議な世界」
(普通だ。そろそろアイツに会えると思う。赤みがかった髪をした少女だ。そいつを探してくれ)
「はあい」
砂利を踏みながらも、カーテンの隙間からジロリと住人が覗いているのに居心地の悪さを感ずる。まるで歓迎されていない。
犬が吠える声がして、日本に帰ってきたような気持ちになるが──真っ暗な空間に月すらなかった。
(どこにいるんだろう)
(いたぞ)
平屋の世界の中、リュックサックを背負った小柄な少女が地図らしきものを手に佇んでいた。





