帰路に着く
「君、首をすげ替えられた〜〜とか考えているね?そんな技術はここにはない。ま、ミノタウロスの迷宮は君自身の世迷言だし、現実とは関係ない」
花生はブカブカの白衣を引きずりながら、診察室の出口へ歩き出した。
「じゃあ、座敷牢は何なんですか?」
「我々も分からない、謎の地区だ。人を迷わす本当の意味での迷宮なんだよ」
お大事に、と彼女は微笑み、見送りまでしてくれた。
「…ねえ、キヒ。もしもだけどさ、ここは未来だったりする?」
帰り道、二人は相変わらず人気のない団地の空間を歩く。たまに腐敗した液体や血飛沫が飛び散っているが、気にしないフリをして。
「未来か、お前は過去からきたって?」
「何かの拍子で人類がこうなっちゃって、」
「ハハハ!魅力的な過程だな!だったら良かったがねえ。俺たちゃもうそんな証拠を確かめる記録すら残されてねえんだ」
大笑いされ、ムッとするも無事にこうして会話できているのに安堵している。
「助けてくれてありがとうね。あの時、誰も助けにこないって決めつけちゃったから」
「気色悪いこたぁ言うなよ…その顔で」
「ええ…っ、私にはこの顔しかないんだけど…」
困惑しながらも404号室が延々と続くのを眺める。何だか、トリックアートの博物館に来たみたいだ。
「404ってエラーみたい。まさか…ここはコンピュータの中?」
「はあ?あんまおかしいと薬打つぞ」
「やめてよぉ〜っ!注射苦手なんだからっ」
ササッと逃げるも首根っこを掴まれた。ものすごい腕力だ。
「精神疾患を患った者は皆、違う世界から来たと妄想するんだ。日本だの、アメリカだの。様々な国から飛ばされたと錯覚しやがって、最後は自我が耐えられなくなって死ぬ。オメーが死ぬ前に記憶を甦らせて、仇を打つ」
──それが俺の目的だ。
そう面と向かって宣言され、牙を見せつけられる。
「…あ、ドア、開いてる」
「話を聞けよ!」
「ねえ、その仇を打つは約束するからさ。あの部屋に入っていい?」
「おい、危険だぞ。てかあの部屋は行きに入って──」
ストン、とキヒの手から逃れて、鉄扉へ走りよった。あのミイラの名刺には日本があるという証明があったのだ。
まだ他にあるかもしれない。
ドアをあけ、くらい廊下を歩く。するとシャワーが流れている音がした。水がひっきりなしに。
気持ちが悪い。だが好奇心には敵わない。
シハは息を整え、風呂場があると思わしき方に向かう。旧式の洗濯機。旧式の──
風呂場の戸は開いていた。そうして浴槽からドバドバと赤黒い液体が漏れだし──何かが沈んでいる。
鞄だ。サラリーマンがよく抱えているあの鞄。
(あの中に、何か証拠があるかもしれない!)





