お医者さんです
「ボクは花生。僻地に住まうやぶ医者さ」
どう見ても中学生目前の子供に見える…ブロンドヘアーの美少女は爽やかな笑顔で自己紹介をしてくれる。
自分が良く知っている──人、ではないようだ。頭には立派な牡鹿の角が生えていた。
「えっと、助けていただきありがとうございました…銃で撃たれるなんて、もう、現実味がなくて…」
「いいの、いいの。立派な研究材料だからね!」
それにピストルで撃たれるのは普通だから安心してね、と変なセリフで安心させられた。
ここは悪人がはびこる魔窟なのだろうか。
シハはあれから手術台から降りて、ごく普通の診察室へ通された。医療が普及しているのに安心するが、彼女はやぶ医者だと名乗っていた。
(これが世に言う凄腕の無免許医ってヤツ?)
「あ、これはね、君が錯乱した時に打つ薬ね。記憶と現実が会わないと発狂する人が多いから」
「ひいっ」
包装された注射を何個も渡され、おっかなびっくり受け取る。
「君たち、体がない人たちは精神に引っ張られやすいの。ボクはまだ三回くらい死んだだけで」
「いやいや、三回も死んだらヤバいですよ!」
彼女いわくこの世界──『冥廊』は六回死をくりかえせるらしい。五回から肉体はなくなり、六回目は…。
(血蠱蝸は…五回目を経験してる?)
毒蛇は無敵ではなかったらしい。隣で暇そうにあくびをしているキヒは地図を取り出した。
「これ、お駄賃だ」
「ありがとう」
「え、コレが?!」
雑にビョーイン、と書かれた地図が?あまりにも不公平だ。
「冥廊では文字や知的文化遺産は貴重なんだ。言語を書ける人は呪殺師や上位存在に限られている」
医者は鼻歌混じりに代わりに本物の地図を見せてきた。
「生前の忌避くんが書いてくれた分布域になる。団地、病院、そうして雑居ビル、深度にある座敷牢。それがボクたちが暮らしている世界」
「…複雑な、迷路みたいですね。ミノタウロスが住んでそう」
二人は少し物珍しそうに顔を見合わせた。
「あ、あのそのミノタウロスについて教えてくれないか!?精神疾患患者の中でも珍しい話なんだよお!!」
「う、うるさっ、い、いいですけど…」
シハの中ではギリシャの歴史や文化を専攻をしていた訳でもないが、ネットで広く知られている内容を話した。ミノタウロスとは暴れん坊でついには迷路に軟禁され、生贄を捧げられる度に喰らう化け物だと認識していた。
だからミノタウロスの居る迷宮は複雑で一度入ったら帰れない。迷宮が実際どのような構造をしているとかは曖昧であった。
「興味深いねえ。確かにミノタウロスとやらがいる迷宮にここは似ている。だが、ミノタウロスはどこにいると思う?」
「え?座敷牢かな?だって、牛の頭を持った人食い化け物だから閉じ込めておかないと」
やぶ医者はハッハッハと笑い、こちらを指さした。
「目の前にいる。暴君ミノタウロス、君は座敷牢からいつも現れていた」
「え」
首に入った線が怖い。まさか、首をすげ替えられたのだろうか?
牛頭の化け物に。





