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異界のミイラ

 家具は最低限の物のみ。生活ができるには質素、という言葉が似合う。その他、個人を印象づけるインテリアがない。

 まるで博物館の展示物か、ドラマ撮影のセットみたいであった。


 カレンダーには平成元年と書いてあるが、どうにもかすれて読めない。


「外は…無いんだ」

「繋がってるからな。延々と。シャッターを閉めてんのは、そのせいだろ」


 ベランダがあり、景色がある場所には何があるのか。気になるが、それより異臭が気になった。

 腐敗臭とはまた異なる皮膚が乾燥したような…。


「部屋のヌシがいたぞ」

 キヒが和室があるであろう方向を指さした。3面鏡に寄りかかり、大口を開けたサラリーマンらしき服装のミイラが座っている。


「うわっ?!」

「あーあ。餓死しやがって」

「餓死??分かるの??」


「カマトトぶりやがりましてよ。ここでは()い物を口にしない死体はミイラ化するんだ。反対に普通に往生した奴は腐る」

 丁寧に説明すると、そそくさと部屋から出て言ってしまった。しかしシハは放っておけず、サラリーマンの懐から名刺を取り出し息を飲む。


(──東京都の会社に勤めてたんだ。この人)


 彼は自分自身と同じくこの異界に迷い込み、さまよい、ここで死んだ。


「あ、待って!黄泉竈食かも!よも」

「よもつへぐい??ンだそれ??」

 廊下に出て、半獣に詰め寄る。「な、なんかのアニメとかで見たの!あの世の食べ物を食べたら元の世界に戻れなくなるの!」



「じゃあ、ほいよ」

 無理やり口に飴玉を放り込まれ、飲み込んでしまった。



「んぐ?!?」

「貴重な甘味を丸呑みする馬鹿がいるかよ〜」

「あ、あゎ、!ばかー!!なんて事するの?!元の世界に戻れなくなっちゃうじゃない!!!」


 胸ぐらを掴もうとしたが、スカッと手が虚しくヤツの胸元を掴みそこねる。ワイシャツも服らしきものも着ていないのだから当然だ。


「その、よもつへぐいってヤツ、後で詳しく教えてくれよ。興味がある」

「え、キヒさんも日本から?」

「ちげーよ。俺はさ、呪殺師なんだ。そういう話を収集するのも好きなの」


「そ、そっか…」

 青ざめているのを隠しながらも、ヘラヘラ笑うしかない。もはや元の世界には戻れないのかもしれない。

このサラリーマンはきさらぎ駅とか知ってたんだろうな、という。

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