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俺なんかとは違って皆はラブコメしてるなぁ……と思っていました  作者: 向井 夢士
第2章

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50話 結末って意外とあっさりしてるよね

「ギリギリセーフって感じか、拓海」

「おう。もう少し遅かったら、ボコボコにされてたぜ」

「ま、本当は証拠のために動画を撮ってたから、もう少し早く着いてたんだけどな」

「早く助けてよ~と言いたいところだが、それはナイスプレー」

「だろ? それにヒーローは遅れてきた方がカッコイイし」


 俺は殴られなかった事に安心し、少し笑いながら琉生と話す。

 ヒーローが遅れてやってくるの、何であんなにカッコイイんだろうね。来るまでは早く来いとか思ってるくせに、ヒーローが来たら脳が溶けちゃうんだから。


 そして俺を助けに来たのは琉生だけではなく、涼香先輩や岩田先輩、それに玲奈や誠一、更には進藤さん親子と倉島に後輩の晴菜や彩夏ちゃんも来ていた。


「俺のために来てもらって本当に申し訳ねぇ。人数が多い方が、何かと安心できて良いと思ってたからな。彩夏ちゃんとかは、特に苦しいものを見せちゃったかもだけど」


「い、いえ……! み、水城さんが無事でよかったです」


「そう言ってくれると、痛んだ身体も癒されますぜ。ありがとうね」


 ゲームで実装するなら、彩夏ちゃんはヒーラーでお願いします。あっ、格好は絶対に天使な!



「拓海君は危なっかしいですからね。多くの人が必要なんですよ」

「玲奈の言う通りだぜ。まぁ部活で忙しい茜はともかく、他の皆は全員集まったからよかったよな。ここで終わりにしようぜ!」


 玲奈と琉生が俺を見ながら苦笑して、俺を少しイジってくるんだが。俺は赤ちゃんか何かか。うるせえやい!


 まぁ、こうして皆が集まったのには理由がある。その理由はもちろん、音野先輩との決着をつけるためだ。思ってたより少し早くなっちまったけどな。



「ど、どういう事だ!?」


 音野先輩は少し混乱して何が起きているのかわからず、とても動揺しているように見えた。

 

 そりゃそうだ。音野先輩は勝った気でいただろうし、実際に俺も危なかった。

 じゃあ、なぜこうして俺が優位に立てているのか。その疑問にお答えしましょう!



「まず音野先輩から連絡が来た時、俺は何かあった時に備えて琉生たちにも軽く共有した。明日の親睦会を控えている中で、タイミング的にも少し怪しいと思ったからだ」


 音野先輩は頭が切れて手強い人物。常に俺の打つ手を超えてきてもおかしくないと思っていた。

 しかし、人間は勝ったと思う時に油断する。どこかに隙が生まれるはずだ……と俺は考えていた。



「俺はまず、琉生たちに二つの事を伝えた。一つ目は、俺が音野先輩と会っている中で定期的にメッセージを琉生たちに送るという事だ。安全、という事を琉生たちに知らせるために時間をあらかじめ決めていて、その決められた時間に何らかのメッセージを送ると伝えていたんだ」


「そうそう。その時間にメッセージが送られてこなきゃ、何か非常事態が起きてるってわけ。拓海が一人だからマジで不安だったぜ」


「悪かったって。これぐらいしか思いつかなかったんだよ。でも琉生は主人公属性だし、来てくれると信じてたぞ」


「何だよそれ」


 『無事です』とか、『今はこういう事を話している』とか、俺と音野先輩の事情を琉生たちに定期的に伝える事で、何か異変が起きた時もわかりやすいだろうと俺は考えた。



 そしてもう一つは……



「もう一つは位置情報共有アプリだ。位置情報を事前に共有してたってわけ。これで分からないような場所に連れていかれても、琉生たちが見つけてくれる」


「まぁ、分かりづらいところで少し遅くなっちまったけどな。拓海の身体が無事でよかったぜ」


「全然大丈夫だ。間に合えばオールオッケーだし、琉生が何だか神に見えたわ」


「よし。そこまでボケれるなら安心だな」



 簡単にまとめると、連絡が途絶えたという事で何かイレギュラーな事が起きたと分かる。あとは位置情報を見れば……ここにたどりつけるってわけ。



「俺がスマホを出したのは、音野先輩たちを油断させるためです。俺のスマホを取り上げれば、何もできないと考えて安心するだろうと思いました」


 俺の考え通り、音野先輩は俺のスマートフォンを奪って勝ちを確信してしまった。

 音野先輩からの急な呼び出しだったし、俺が色々と対応できるとは思っていなかったんだろうな。



 まぁ俺一人じゃどうにもできないし、出来る限りの事をして後は琉生たちを信じるだけ。それが俺のお仕事であり、役割です。



「お、おい! お前らどうにかしろよ!」


「い、いやぁ。俺も脅されてやったことだし」

「もともと乗り気じゃなかったしな!」


「おい! ここで俺を見捨てるのか!」



 音野先輩は状況を全て把握し、友達に助けを求めるも見捨てられる。こうして音野先輩はどんどんと追い詰められていき、徐々に冷静さを失っていく。


 好き勝手に楽しくやっていたゲームも、今日でゲームオーバーだ。


「俺からも言いたい事はたくさんありますが、まずは涼香先輩に譲ります。そもそもの話、涼香先輩と音野先輩の話ですしね」



 そしてその俺の言葉を受け、涼香先輩が音野先輩に近づく。そして自分を落ち着かせるためか、話しだす前に一度大きな深呼吸をした。



「音野先輩、まずはありがとうございました。音野先輩……いや音野会長がいたからこそ、去年は楽しかったです。それに今の自分がいるのも、音野会長のおかげだと思います」



 涼香先輩は自分の言葉を確かめながら、音野先輩の顔を見てゆっくりと話す。

 音野先輩は喋る気力もないのか、涼香先輩の顔も見ずにずっと無言でうつむいていた。


「でも、今は音野会長よりも良い人達と巡り合う事ができました。それに音野会長を完全に許す事はできないですけど、音野会長の事を悪く言うつもりはないです。脅したりするつもりもないですし、私は自分の気持ちを改めてぶつけたかっただけなんです。私たちにはもう関わって欲しくないですけど、音野先輩が気持ちを入れ替えてくれる事を願っています」



 涼香先輩はそう言って、また一度大きく息を吸う。



 涼香先輩も……本当に強い。



「もう嫌いだもん! バーカ!」



 涼香先輩が音野先輩に力強くそう言うと、音野先輩は気持ちの整理ができて観念したのか、「フッ」と力なく笑った。



「俺の負けだな……。何もかもが、浅はかだったんだな」


「これからの音野先輩次第ですよ。もちろん、俺は音野先輩に心を入れ替えて欲しいと思ってますけどね。大変な人生をズルせずに頑張っていきましょう」


「水城君は強いんだな」


「俺も激弱ですよ。でも仲間もいて楽しい事もある人生を、頑張る事が結局は答えで一番美しいんじゃないか、って最近は思ってます。上手く行くかはわかりませんけどね」


 人生は難しい事ばかりで、上手く行かないことも多い。理不尽な事だらけで、何回も人生が嫌になったこともある。

 ただその人生に抗って努力する事が、この世界にとっては大切な事なんだろうと俺は改めて思った。難しいけどね。


 この世の全てが敵ではない。自分が楽しいと感じる事もあれば、ちゃんと大切に思ってくれる人もいる。


 そんな仲間の力を借りながら頑張って……みんなの気持ちを裏切らない事が大切なんだ。


「わかったよ。ここから俺がどうにかできるわけもないし、潔く自分たちの罪を受け入れる事にするよ。明確に否定されたわけだし、水城君たちには敵わないしね」


「人生の辛さは俺も分かりますから、応援ぐらいはしますからね」


「……その気持ちはありがたく受け取っておくよ。もう水城君たちとは関わらないし、悪い事もしない。失ったものを少しでも回復できるよう、色々と頑張る事にするよ」


「ほんとですか?」


「君たちに証拠となる動画を撮られているわけだし、都合の良いように使えばいい。約束を破る気はないが、何かあった時に武器にでもすればいいさ。それに俺もどこかで、普通の人に戻して欲しい気持ちがあったんだと思う」


 音野先輩も、自分の中で『普通』というレールを外れた事は自覚していたのかもしれない。そして自分の欲望や悪い気持ちに負けてしまい、徐々に悪に染まってしまった。


 そんな中で俺たちに負けてしまった事が転機となり、悪の気持ちが浄化されたって感じかな。



「たっくん、ちょっといい?」


「涼香先輩、どうしました?」


「私としては気持ちをぶつけて満足したし、反省する気持ちも見えたからさ。私の件はナシにしてもいい?」


「俺はいいですけど……涼香先輩こそいいんですか? 音野先輩の様子を見ると確かに凄く反省しているようには見えますけど」


「反省している姿も見えた事だし、追い詰めたいわけでもないからね。たっくんが前に言っていた事とかも分かるし、この一件で生まれ変わってほしいから」


「わかりました。涼香先輩が言うなら、今回の件はチャラにしましょう。他の件は自首するなりして、ちゃんと反省してくださいね」


「ああ……わかった」



 涼香先輩が音野先輩を尊敬していたように、この言葉を聞いて俺は改めて涼香先輩を尊敬した。


 事が大きくなりすぎたとはいえ、恋愛関係のもつれでも人によってはとても気にする問題だ。病んでしまう人もいるぐらいだからね。


 俺は涼香先輩に協力していただけで当事者ではないから、色々な事も考えられたし言う事ができた。俺が当事者なら冷静さを欠いてこんなに上手くは進まなかったと思うし、涼香先輩が言うような事も言えなかったと思う。 



 やっぱり……涼香先輩は頼りになるカッコイイ先輩だ。






 こうして、音野先輩と涼香先輩の件は思わぬ形で幕を閉じた。色々あったが、とりあえずは何とか上手くいって本当によかったという気持ちでいっぱいだ。



 終わってみれば意外と早くてあっさり終わったなぁって思うけど、そう思うのはここまで頑張ったからなのかもしれない。



 俺はそんな自分を、久しぶりに心の中で褒めた――





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