48話 玉島先輩と松家さん
最後の作戦会議も終わり、玉島先輩と音野先輩の件も明後日の作戦決行日を残すのみとなった。
俺は皆が解散になってから進藤さんやお父さんの孝蔵さんと少し話した後、『よろしくお願いします』と言って進藤さんの家を出た。
そして進藤さんの家を出ると、玉島先輩と松家さんの姿が目に入る。俺の事を待っていてくれたのだろうか?
「あっ、出てきた! たっくん、お疲れ」
「拓海君、お疲れ様です」
玉島先輩と松家さんは俺の姿を確認すると、少し笑いながら労いの言葉をかけてくれる。
「な、何かまだ俺に言っていない事がありました?」
「んーん。いやさ、私ってほとんど他の人頼みというか、たっくん任せになってたじゃん? だからもう一度謝らないといけないな……って思って待ってたの。松家さんもそんな感じだよね?」
「はい。私は拓海君に強く当たってしまった部分があるので……」
「二人とも律儀すぎない? そんなに気にしなくてもいいのに」
「拓海君には言われたくないですよ。周りの事をいつも一番に考えているじゃないですか」
松家さんにそう言われてしまい、俺は何も言い返せなくなってしまった。相変わらずというか何というか……本当によく見ている。
俺が周りの事を気にする……周りの人の目を気にするようになったのも過去の経験が原因だ。
笑われて、バカにされて、俺の事を見下すような視線……そんな視線を無数に浴びた俺は、色々と歪んでしまった。
それに自分だけじゃない。
俺は、昔から険悪な雰囲気やいじめみたいな悪い空気が大嫌いだった。
こう話したらこの場が収まる、とか、ここで俺が行動したら矛先がこっちに向くだろう、とか……空気を読むみたいな事を俺は昔からしてきた。
メンタルが弱い俺に悪い空気は耐えられないし、自分が少し犠牲になってでも空気が良くなるならその方がいい、と思っていたからだ。
わがままな人は嫌いだったし、それが大人の対応であると俺は考えていた。
それに周りの目を気にしすぎたことによって、俺はネガティブで心配性な人間になっちゃったからね。
俺をバカにして笑ってないか、とかいつも気にしちゃう。本当にこれで大丈夫なのか、とかもね。
そんな色々な点があったからこそ、考えうるだけのリスクはなくす! っていうのが今の俺のモットーになっているのかもな。
「俺が心配性なだけだって。別に謝らなくてもいいよ」
「また拓海君は適当に言って逃げようとする……。琉生君とかならともかく、私はそう甘くはないですよ? まぁ、拓海君もうすうすは気づいていると思いますが」
「……気づいているよ。やっぱり、松家さんには敵わないな」
「拓海君が皆の事を考えているように、私もまた拓海君の事も大切に考えていますから。拓海君が本当にどう思っているかは分かりませんけどね」
「ほんとかなぁ。松家さんはもう全部知ってたりするんじゃないの? 世の中の理まで分かってそうで怖いよもう」
「ふふふっ。さぁ、どうでしょう?」
松家さんは俺と話しながら軽く微笑む。その松家さんの表情はとても魅力的なもので、俺は少しドキッとしてしまう。
今の仲が良い関係や琉生からの繋がりで忘れていたけど、松家さんも超絶美人なんだよな……。
こんな俺が松家さんと繋がれているの、改めて奇跡すぎない?
そして玉島先輩も、俺と松家さんのやり取りを見て楽しそうに笑っていた。
いや~玉島先輩もこれまた超絶美人なんだよなぁ。岩田先輩や問題の根幹となっている音野先輩もそうだけど、俺の周りの奴らの顔面偏差値が高すぎる件。
「玉島先輩、どうしました?」
「たっくんたちの距離感が面白くて笑っちゃった。こんな関係、私も少し憧れちゃうなぁ」
「玉島先輩も交友関係は広いじゃないですか」
「私の場合は浅くて広い…‥みたいな感じなんだよね。だから気兼ねなく話せる関係とか憧れちゃうな」
そういや、茜も前に同じような事を言っていたような気がするな。誰とでも仲が良いからこその悩みもあるんだろうか。
まぁ、茜はなぜか俺たちの事を凄く気に入ったみたいだが……。
「私でよければ何でも話してください。拓海君には言えない事もあるでしょうから」
「うわ~松家さんありがとう!! これからは下の名前で呼んでいい?」
「ぜひぜひ。私も涼香先輩って呼びますね」
うーむ。この二人の関係もめちゃくちゃ推せるなぁ。尊いぜ。
俺はそんな尊い関係になった玉島先輩と松家さんを見ていると、いつの間にか逆に二人に見られている事に気付く。
玉島先輩と松家さんはジーっと俺の顔を見つめ、俺に何か言いたげそうな様子だ。
「ふ、二人とも……? な、何か御用でしょうか……?」
「いい加減にと言いますか、拓海君は私の事をいつ名前呼びしてくれるのかと思いまして。涼香先輩も同じですよね?」
「だね。たっくん、いつになったら距離を縮めてくれるのかなぁと思って」
グイグイっと物理的な距離も縮められ、俺は逃げ道がなくなってしまう。
それに何だかいい匂いもするし……。あっ、これも不可抗力だからな!
確かに松家さんとはもう長い付き合いになるし、玉島先輩とも体育祭や今回の音野先輩の件を通じて距離が大きく縮まった。
あれ? そう考えると俺ってコミュニケーション力なさすぎるな……。
ほんと、皆どこからコミュニケーション力鍛えたの? どうやって人と接しているの? 俺が知らないだけで、どこかにそういう学校とか教習所とかあるんすか?
「れ、玲奈……?」
「はい、拓海君よくできました。次は涼香先輩の番ですね」
「す、涼香……先輩……」
「別にたっくんならタメ口でもいいよ? 玲奈ちゃんもだけど」
「いや、まぁ、その一応は先輩なので。ね、ねぇ?」
「私もそこは拓海君と同じ意見ですね。先輩とかになると、どうしても年齢の差とかを気にしちゃいますから。もっと仲を深めていって、徐々に慣れていく事を目指していきますね」
これも前に言ったけど、先輩にいきなりタメ口を使うとか無理よ? そんなに急に距離感を縮めると、俺の心臓がもたないからね?
あとさ、この名前呼びの儀式は何なのよ? モンスターとか召喚できるの?
「たっくんも玲奈ちゃんもありがとね。今回の件もそうだし、これからもずっと仲良くしてくれると嬉しいな。先輩キャラはちょっと珍しいでしょ?」
「もちろんです。俺は部活も入っていないので縦の繋がりも全然ないですし、本当に助かります。岩田先輩とかもそうですけど」
「岩田君ねぇ。岩田君とは何だかんだで長い付き合いになったなぁ」
「涼香先輩は岩田先輩に対して思う所とかないんですか?」
「岩田君に? うーん……あんまりないなぁ」
岩田先輩……ドンマイです。
ま、まぁ音野先輩は必ず倒しますから! 涼香先輩も音野先輩の方を向いていて気づいていなかっただけですから!
「それにしても、こんなにほのぼのとしてていいのかな。私のせいでもあるんだけど、音野先輩と対峙する前なのにこんな感じで大丈夫?」
「涼香先輩が心配する気持ちも分かりますし、俺もまだ少し怖いです。ただやれる事は全部やったつもりです。リスクも最大限に減らしたつもりですし、これでダメならもうしょうがないかなと。負けるつもりはないですし、勝つつもりではいますけどね」
「そっか。たっくんがそう言うなら、間違いはないね」
「はい。拓海君が言うなら間違いないです」
「何でれ、玲奈が言うんだよ!」
「あっ、拓海君はまだ私の名前呼びに慣れてませんね。でも大丈夫です。拓海君はいざとなったらやる人ですから」
そんな風に、俺たち三人は楽しく話しながら駅へと向かった——




