42話 繋がり
「今日は有意義な話が出来て嬉しかったよ。じゃあ、明後日ね。特に水城君、君には期待しているからね」
「は、はい。音野先輩もありがとうございました」
カフェでの話も終わり、俺たちは解散することになった。
色々と進展した事もあったし、こちら側としても有意義で濃い時間を過ごせたと思う。
音野先輩は俺たちの作戦には気付いたが、完全には理解していない。
その点こそが最大の隙であり、攻撃ポイントである。
「まさか……音野先輩がプランCのパターンで来るとはな。水城がこの事を考えていなければ、危なかったかもしれない」
「昨日考えたんですよ。どうすれば常に相手の先に行けるかって深く考えて……一つ思いついたんです。色々なパターンを考えておくことが大切だって」
俺は音野先輩と会う前に、三つのプランを考えていた。
プランAは、音野先輩が玉島先輩との関係を言わない場合の計画だ。
このプランは、音野先輩が玉島先輩の話題を避けた場合、音野先輩の人柄や性格を掴んだ後、玉島先輩が気持ちをぶつける機会を作る……というものだった。
この場合だと話は早い。
音野先輩を逃げさせないようにして、あとは玉島先輩が気持ちをぶつけるだけだからね。
そしてプランBは、音野先輩が謝罪する場合の計画だ。
純粋に自分の悪事を認めればそれで終わりだし……音野先輩が嘘を言えないような空間を作る事さえできれば、仮に音野先輩が嘘の謝罪をして逃げようとしていた場合でも、音野先輩を追い詰める事ができる。
隠すか素直に打ち明けるか。俺はこの二択だろうと思っていた。
しかし……色々と考える上で、第三の案が浮上した。
その案こそが、プランCだ。
このプランは、俺たちの想像以上に音野先輩が悪人だった場合の計画で、万が一の時の保険用みたいなプランだ。
音野先輩が隠すなら、後から直接気持ちをぶつけてやればいい。
音野先輩が逃げようとするなら、徹底的に追い詰めて誠心誠意謝罪させてやればいい。
だがこういった考えは全て……自分たちが勝つと確信していた時の考えだ。
音野先輩が俺らを上回っていたら?
そんな気持ちから生まれたのが、このプランCである。どんな事が起きても対応できるようにする事を目標にし、様々なリスクを改めて考えた。
音野先輩が想像以上の強敵で奇想天外な手を打ってくるかもしれない……と事前に頭に入れておくだけでも、心の持ち方がかなり違う。更に、自分が使える手札についてもしっかりと整理しておく。
そうする事で、音野先輩が何が動いた時も先ほどまでのプランより比較的冷静に対応できる。それに自分たちが何を出来るのかを明確にして考えておく事で、音野先輩に対抗する手も打ちやすくなってくる。
実際の話、音野先輩は俺たちの想像以上の強敵だった。
生徒会で地盤を固め、信頼できる仲間をつくり……俺たちの動きにも気づいていた。
ほんと、俺が一人で動いていたら間違いなく詰んでいたよね。
音野先輩の提案を受けるしかなくなり、音野先輩の手下として生きていく事でしか助かる方法がなくなるから、地獄行きが確定していた。
音野先輩も俺が中心に色々と動いている事は気づいたが……答えには辿り着けていない。
そう……音野先輩は惜しかった。
音野先輩の間違いは、俺と玉島先輩の二人が中心で動いていると思ってしまった事だ。俺や玉島先輩が、岩田先輩や友達を利用している、と音野先輩は考えてしまった。
そして勝ちを確信して思考を少し放棄してしまった事で……いつの間にか、音野先輩が圧倒的不利な状況に変わってしまった。
当の本人である音野先輩は全然気づいてないけどな。
「音野先輩も勝ちが見えて焦りましたね。岩田先輩と繋がっている事も気づいてなかったようですし」
「水城が俺を利用している、と音野先輩は思ったんだろうな。ただ実際は……皆が繋がっている」
「えぇ。それで音野先輩を囲み、逃げられないようにしていきます」
それに音野先輩は俺を取り込もうとした。
まるで……既に勝ちが決定しているような様子でな?
勝敗はまだ決まっていない。敵である俺を取り込もうとするのは……時期尚早だ。
まぁ、音野先輩も少し欲が出たのだろう。
人間は次から次へと欲が出てくる。欲しいものを手にした時でも、次はこれが欲しいだとか、あれがやりたいとか思ってしまう……傲慢な生き物だ。
「それで水城。この後はどうしていくつもりなんだ?」
「敵を知るという事はメリットばかりだと思うので、予定通りに音野先輩の事を尾行しようと思います。その後に進藤さんたちと合流して最後の打ち合わせ、そして作戦決行……という流れですね」
「なるほど。ただ尾行の方は大丈夫なのか? 音野先輩とはカフェで解散したわけだし、今度こそバレてしまったら……」
「だから俺たちは尾行しません。実は尾行については、ある人に頼みましたからね。それと音野先輩に何らかの動きが見えた段階で尾行はやめるように、と頼んだ時に言っていますし、音野先輩は尾行している人の事も知らないので、危険性はほぼほぼ無いかと」
「それなら問題はないか……。それで、水城が尾行を頼んだのはいったい誰なんだ?」
「今から俺たちと合流する事になっているので、その時に紹介しますよ。どうやら、早くも何かしらの情報を手に入れたみたいです」
尾行ではバレない事が絶対条件。すなわち、音野先輩にバレないようにするためにどうすればいいかを考えなければいけなかった。
俺たちが変装なり距離を取るなりして尾行するという案もあったが、音野先輩に存在は知られているわけだし、多少のリスクはある。
俺は既に一回脅迫されているようなものだし、これで尾行していてバレた時には何をされるか分かったものじゃないからな。
という事から考えると……音野先輩が知らない人かつ、万が一の時に備えてある程度の運動能力と頭脳も少しあるような人物が、尾行に適している人物と言える事になる。
おぉ! ピッタリな奴が一人いるじゃねぇか!
「ん? こちら側に走ってきている奴が、水城が頼んだ相手なのか? ただ……」
俺と岩田先輩がカフェの前で話している所に、誰かが走りながら向かってくる。
岩田先輩が驚くのも無理はない。俺にとっては、元々敵だった奴だからな。
「はぁ、はぁ、はぁ……。水城、ちょっと人使いが荒くねぇか? 尾行だけすればいいとは言ってたけどよ」
「お前が適任、って長々と理由も説明しただろうが。それに進藤さんに挽回するチャンスでもあるだろ?」
「まぁ、俺も納得して引き受けたからそこについては文句は言わねぇ。ただ、何か大事になってやしねぇか?」
「あぁ。この後に進藤さんの家で最後の打ち合わせをするつもりだから、そこでお前にも詳しく話すよ」
「えぇ……。この前に真紀の父さんや俺の父さんたちと話し合いをした記憶があるから、ちょっとトラウマなんだけど」
「それについてはもう許されてるから大丈夫だろ。文句言ってないでさっさと行くぞ、倉島」
俺が尾行を頼んだのは、進藤さんの件で対立し、最終的には問題が解決したことで関係も良くなった……倉島だ。
倉島なら頭も運動能力もあるし、色々と都合も良かった。
孝蔵さんといい倉島といい……進藤さんの件を解決した事が、良い面に作用しているのが本当に大きい。
「人の繋がりってほんと分かんねぇな。まさか、水城たちとこうやって繋がる事になるなんてよ。真紀がいて満足していた少し前の自分なら、こんな事になっているとは思わなかっただろうぜ」
「倉島が言うなよ。最近になって、やっと俺の名前を覚えた癖に」
「それは悪かったって。そもそも、俺は人の名前を覚えるのが苦手だったんだよ」
作戦決行日までもう少し——




