41話 先回り
確かに音野先輩は、俺の想像よりも何倍も凄かった。俺一人の力で挑んでいれば、間違いなく負けていただろう。
じゃあなぜ、俺がこんなにも余裕なのか。
その答えは……昨日の夜にある。
◇◇◇
作戦会議が終わった日の夜。
俺は家の自室で休みながら、音野先輩を懲らしめる方法と玉島先輩が救われる方法について改めて考えていた。
今日の玉島先輩の出来事は衝撃だったし、明日は音野先輩と会う約束もある。体育祭が終わったばかりだというのに、我ながら本当によく働いているぜ。
自室にあるデスクトップパソコンでは、適当につけた頭脳戦もののアニメが流れている。
別に深い理由なんてない。強いて言えば、アニメを見る事で自分も主人公気分になり、何か良いアイディアが思いつくかなぁ、といったぐらいだ。
そしてしばらく作戦などを考えていた俺だったが、考えが上手くまとまらず、いつの間にか気持ちはアニメの方に移る。
今見ている頭脳戦もののアニメの主人公は、天才キャラで柔軟な頭を持っていた。
主人公が最強系のものは、主人公が色々と無双するシーンが見れて面白い。頭脳戦もののアニメだと考察も進むし、ここでこんな展開が……!? とワクワクできる。俺もこんな主人公になれたらなぁ。
だいたいの頭脳戦ものやミステリーでは、対立構造がよく描かれていると思う。
天才の主人公に対抗する秀才とか、名探偵と怪盗とか……ここからどうやって形勢逆転するんだ? という絶望的なシーンから、主人公が逆転した時の興奮は本当にたまらない。
こんな天才ならなぁ……という気持ちだけでボーっとアニメを見ていた俺だったが、ここでとある事に気付いた。
中学から高校に上がる時、漫画やラノベ、アニメを少し参考にした事を思い出したのだ。
中学時代、俺は周りの人の『普通』から外れていた事でいじめられた。
そこから自分を強く見せようとして、色々なキャラの喋り方や物語の展開なども参考にして……少し自分を変えた事で今の生活がある。
いや本当に色々と参考になるんだよ!
リアリティがある作品もあるし、漫画やラノベなどには作者の思いがいっぱい詰まっているからね。
俺は辛い時にこういったものに出会って救われたし、参考にもさせてもらった。だったら今回も、何かしらヒントや発想の種となるものが潜んでいるのではないのかと思い、俺は集中してアニメを見る事にする。
そうしてアニメをしばらく見ていると、俺はとあるシーンが多い事に気付いた。そのとあるシーンとは、主人公が強力な敵に追い詰めながらも、最終的に逆転して勝つシーンだ。
当たり前と言えば当たり前だ。ずっと負けっぱなしでは、作品も面白くならない。相対的に勝つシーンは多くなるだろう。
ただいつも主人公が勝つときは、どこか納得している自分がいた。それは……主人公がただ単に強いから。
——じゃあなぜ、主人公は強くて輝いている存在に見えるのか?
ここで今の状況と合わせて考えてみる。
俺一人の力は弱い。ミジンコやミドリムシみたいな微生物レベルだ。
しかし、俺の周りにいる奴らの力と合わせると、その弱かった力は膨れ上がって強力なものになる。
それに主人公が勝つ時……主人公はどんな時も油断をしていなかった。非常事態になった時の事まで想定していて。勝ちが確定している状況でも最後まで油断をせずに計画を完遂させていた。
パターンに合わせて駒を動かしていくだけ。そしてどのパターンでも対策はしているので、よっぽどのことがない限り……負けない。
こういった特別なところが、主人公が輝いて見える理由の一つでもあるのだろう。
あれ? でもこれって今の状況でかなり参考になるのでは?
俺たちの状況での最悪なパターンは、音野先輩に全てがバレてしまう事だ。そんな最悪なパターンが、完全にはないと言いきれないのもキツイ。
俺はそんな事を思いながらも、まずは進藤さんに電話をかけた。今回は、進藤さんの力がかなり重要になってくる。
『もしもし? 水城君どうかした? 私の声が聴きたくなった?』
「そんな言葉には乗らんぞ」
『むぅ。それで本題は何? どうせ玉島先輩関連の事でしょ?』
「話が早くて助かる。ちょっと最悪なパターンの事も考えておこうと思って、進藤さんに連絡したんだ。進藤さんは嫌な役回りになってしまうかもしれないから」
『私は全然大丈夫だよ? タカの事もあったし』
「不幸になられたら、俺が困るんだよ。進藤さんは大切な人だから、ずっと幸せでいて欲しい」
俺がそう言うと、スマホから『ゴホンゴホン』と進藤さんの咳のような音が聞こえてくる。
「進藤さん? 大丈夫?」
『だ、だ、大丈夫。え、えーと……最悪なパターンを考えるって話だったよね』
「そうそう。ここでの最悪なパターンって、音野先輩に俺たちの作戦がバレる事じゃん? 逃げてくれるならまだいいけど、勝ちを確信したら俺たちに攻撃してくる可能性もあるわけだし」
『確かにねぇ。音野先輩が相当の悪人なら、私たちも無事では済まないかも』
「だよな。だから最悪なパターンにも対応できるように、作戦を付け加えようと思って」
音野先輩が勝ちを確信して俺たちに攻撃してくるような事があれば、誰かに危害が及んでしまう可能性がある。それに音野先輩は進藤さんの事を気になっているようだし、特に危険だ。
ただ、音野先輩が進藤さんの事を気になってくれているのは好都合でもある。進藤さんのお父さんである孝蔵さんの力を借りれば、音野先輩への対応は可能なわけだしね。
「進藤さんさ、お父さんの力を借りられるとしたらどれぐらい?」
『うーん。私もよくは分からないけど……娘の危機って言ったら、色々と手配して協力してくれると思うよ』
「手配?」
『屈強な人とか、怖い人とか、権力を持っている人とか……』
「……何かグレーっぽいが、頼もしすぎるな。音野先輩から何かと嫌がらせはされるかもしれないけど、その場合はなるべく早くリアクションしてくれ。琉生たちも協力してくれるわけだしさ」
『分かった。でも多少の嫌がらせなら我慢できるし、いざとなったら大声を出すから大丈夫。私が辛そうだったら、水城君が助け舟を出して』
ここは素直に、進藤さんとお父さんの孝蔵さんの力を貸してもらう事にする。親睦会は進藤さん家の一階で行うわけだし、二階とかで孝蔵さんに待機してもらってもいいかもしれないな。
それに音野先輩が俺たちの行動に気付いたとなると、 少しばかりは油断の気持ちが芽生えてきてもおかしくはない。色々と有利に働く部分も多そうだ。
ただ、音野先輩の情報を調べている時に気付かれる可能性もあるか。その場合は……。
「進藤さん。俺たちの作戦、先に音野先輩が知ってしまう可能性ってどれぐらいだと思う?」
『音野先輩と裏で繋がっている共犯者がいなければ、バレる事はほぼないと思うよ。でも私たちの情報を流されたら……音野先輩はめちゃくちゃ有利になるね。強気なら、私たちに何かふっかけてくると思うけど』
「おっけ。なら大丈夫だ」
『大丈夫なの?』
「あぁ。逃げるにしろ、俺たちにふっかけてくるにしろ……俺が音野先輩の近くまで入り込んで、最後に裏切る。音野先輩は自分が優位だと思っているはずだから、俺の事を過剰に疑う事もないはずだし、俺を利用しようとしてくるかもしれない」
と……これが真実だ。
音野先輩は俺を上回ったと思っているが、その音野先輩を俺たちが上回っている。
音野先輩は俺たちの作戦を知って優位に立ったが……俺を取り込もうとしたことと、既に勝った気でいる事の二点が、失敗のポイントだった。
——最後まで油断はせずに、計画は完遂させないとな。




