40話 爆弾
俺は音野先輩と会って話をするため、岩田先輩と共に市内のカフェに来ていた。
そして音野先輩と合流してある程度話が進んだところで、俺はとある爆弾を投下したのであった……。
「あれっ、もしかして違いました? 俺はてっきり、岩田先輩は玉島先輩の事が好きなんだと思っていたんですけど」
「い、い、いやっその……。ち、ち、違うというか」
「分かりました! じゃあ、玉島先輩にこの事を言っても問題はないですね!」
「う、うーむ。す、す、涼香の事は嫌いじゃないというか……す、好きではあるんだが…‥‥」
岩田先輩、めっちゃ照れてる。俺のカウンター攻撃が効いてやんの。
あとは肝心の音野先輩の反応だが、音野先輩は先ほどまでの様子と同じように、俺と岩田先輩の絡みを微笑みながらただただ眺めていた。
——しかし俺は見逃さなかった。
俺が『玉島先輩』と口にしたとき、音野先輩の表情が一瞬だけ固まったことを。
さぁ……音野先輩は何と言う?
玉島先輩との関係をぶっちゃける? それとも何も言わない?
「ふーん。岩田は涼香の事が好きだったのか」
「そうなんですよ。岩田先輩の様子を見ると、それはもうバレバレで。音野先輩は知らなかったんですか?」
「それは知らなかった。これは良い事を聞いてしまったな」
音野先輩の様子を見ると、岩田先輩が玉島先輩の事を好きだという事は本当に知らなかったようだ。
音野先輩は玉島先輩に好かれていた、って事を考えると、岩田先輩の気持ちは知らなくてもおかしくはないか。
ただ単に、音野先輩が岩田先輩に対して興味がなかった、ってのもあるだろうけどね。
さて。これからどうしていくべきか。
音野先輩の本当の姿を引きずり出せるなら引きずり出したいし、音野先輩自身の事ももう少し聞いておきたい。
玉島先輩との関係を話し出すチャンスは何回があったが、ここまで言わないとなると……音野先輩は玉島先輩との関係や出来事を隠したいのだろう。
玉島先輩の事を音野先輩にもう少し聞いておきたい気持ちはあるが、変に聞きすぎると音野先輩に怪しまれてしまうリスクがある。
ここでバレてしまうような事があれば、全てが台無しになってしまう可能性もあるので、それは避けておきたい。
「うん、まぁ、その何というか。岩田先輩、ドンマイです」
「そんなにバレバレだったのか……。ショックだ……」
「音野先輩が気づいていないのが、逆に不思議なぐらいですよ」
「そう? 鈍感だから普通に分からなかったよ」
俺はダメージを普通に受けている岩田先輩を利用しながら、自然な会話の流れで音野先輩の口から何か聞けないだろうかと模索する。
よし。ここは仲が良い人と普通に話すような感じで……。
「意外です。音野先輩はモテそうなので、恋人とかもいるでしょうに」
「どうかな? もしかしたらいないかもよ?」
「別にいなければ俺と同じなので、そこは全然オーケーです。音野先輩と同類になれますから」
「水城君、面白いね。こんな感じだと水城君もモテそうだと思っちゃうけどなぁ」
「それが全然なんですよ。ほんと、音野先輩とかに誰か紹介してほしいぐらいです。岩田先輩を裏切るじゃないですけど、玉島先輩とかも普通に可愛いですし、普通に俺も良いなぁと思いますよ。モテてるし、恋人もたぶんいるんだろうなぁ」
玉島先輩の話を盛り込みつつ、俺は音野先輩と話していく。
恋バナというか、ザ・男子の会話みたいな自然な形で、音野先輩の気持ちを探っていく。しかし、音野先輩もそう簡単にボロは出さない。
この戦法は望み薄か、と俺は半ば諦めかけていたが……ここで状況が一変する。
「紹介する事もできなくはないんだけどね。そういう特別な場合は、色々と条件があるからおすすめはしないかな」
「条件?」
「隠しておこうとは思っていたけど、もういいか。水城君のことも大体分かったからね。でもこの方が楽で、水城君も助かるんじゃないかな?」
音野先輩の雰囲気が変わり、表情も明るい笑顔から不敵な笑みに変わる。
——来たか。
「あと申し訳ないんだけど、岩田は席を外してくれるか? 話が終わったらまた連絡するから」
「え、えぇ。わかりました」
音野先輩は岩田先輩をこの場から一旦退出させ、二人きりになったところで俺の顔をジッと見つめて話し始める。
「水城君はどこまで知ってるんだい?」
「どこまで、とは?」
「二人きりになったことだし、とぼける必要もないだろう。俺が浮気をしていた事も、涼香に酷い思いをさせたのも、君は知っているんだろう?」
「……流石ですね。なぜ俺が色々と知っている事を、当の本人である音野先輩が知っているんですか?」
「それぐらいわかるさ。君は涼香の話題も出していたし、涼香ともある程度仲が良いのだろう。まぁ、そこだけなら気付かなかったかもしれないが……一番の決め手は君の様子だ。俺を調べるような振る舞いや仕草……君の注意力がそもそも少し足りてなかったんじゃないかな?」
音野先輩は……そこまで気づいていたのか。
俺は音野先輩の何も気にしていないような明るい様子に、最初から騙されていたということになる。
想像しているより何倍も、音野先輩は強力な相手だった。
騙せているなんていうのは俺の思い込みで、相手が一枚上手だったという事だけ。俺が音野先輩を観察していたように、音野先輩も俺たちを観察していたのだ。
「一人で上手くやってたので、音野先輩にもバレないと思ったんですけどね」
「一人……か。まぁ、君はそうやって言うしかないよね? じゃあさ、俺と友達のトーク画面をちょっと見てよ」
音野先輩はそう言いながら、自分のスマホを俺の顔の前に持ってくる。
そのスマホに映し出される画面を見てみると、音野先輩の友達? とのトーク画面だったのだが、俺はそのトーク内容を見て驚愕した。
『おい音野。何かお前の事を気になっていた涼香? って子から連絡が来たわ。お前の情報を何か知りたがっているみたいだぞ』
『あ~そいつね。この前さ、帰省した事もあって涼香と会ったんだけど、浮気とか色々バレちゃって。どうしようかな、って思ってた所だったんだよ。せっかくだし、お前たちのグループにあげようか? 大学の友達も何人かこっちに来ているから、一緒に遊ぼうぜ』
『おっ、いいね。それと他にも何人か音野先輩の事を調べている奴がいるらしいから、一応は気を付けておけよ』
『涼香も交友関係は広いからな。一応は気を付けておくわ。でもほんと、お前も相変わらずだな』
『主犯格の音野には言われたくねぇよ』
トーク内容は……とても気分よく見れるものではなかった。
状況を整理すると、高校時代に音野先輩と仲が良かった人は昔からずっと繋がっていて、卑劣な事をする共犯者だったという事だ。
音野先輩を調べる段階でその共犯者に引っ掛かってしまい、俺たちの計画や作戦が色々とバレてしまったという事になる。
「ただ俺はね、水城君には利用価値があると思うんだ。おめでとう。君を仲間に入れてあげるよ」
「条件を達成……したらですか?」
「よく分かってるじゃん。うーんどうしようかなー? じゃあ、親睦会には俺たちもちゃんと出てあげるよ。その代わり、君と仲が良くて可愛い雰囲気だった子がいたでしょ? あの子、俺に紹介してよ」
「いや、でもそれは……」
「ここで俺たちに協力すれば、君は助かる事ができる。でも協力しなかったら……どうなるかは分からないよ? 反抗できなくなるぐらい壊さないと、逮捕とかになって嫌だからねぇ」
「わ、わかりました。音野先輩に協力します。そして岩田先輩や玉島先輩……その他の人にも絶対言いません」
俺が音野先輩の誘いにこう回答すると、音野先輩は満足したような様子で笑っていた。
言い訳もできないし、ここから起死回生できる策もない。ここでもう、全てが終わったのだ。
あぁ……バカだ……。
って……な~んてな。
こんな腹立つ奴に負けてたまるかよ。ここまで来たら、既に勝敗は決着しているのも同然なんですわ。
——音野先輩。もう……あなたの負けだ。




