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同母兄弟

(ツィーア姉さま、思ったよりも元気そうで良かった)


シスツィーアと楽しい時間を過ごしたリオリース


「また一緒にお茶しようね」と次に会う日を約束して、今度はシグルドの執務室へと向かう。


春までは毎日のようにシグルドの執務室へ行き手伝っていけれど、いまは週三日ほど


それでも、シグルドに教えられながらとはいえ、リオリースもレオリードと同じように案件を任せてもらっていた


(えっと、今日はこのあいだの結果を聞いて・・・・・)


リオリースが任されているのは、アランが行っていたマーディア侯爵家の爵位や領地返還に伴うもの。本来ならまだ幼いリオリースが任されていいものでも、関わって良いものでもないのだが、アランが殆んどの処理を終えていたこともあり、「貴族家の取り潰しなど、そうそうあるものではないのだから」と、アランが神殿へ行くときに引き継いだのだ。


爵位と領地返還の手続きはマーディア侯爵の処刑前に行われており、侯爵の刑も執行されている。元夫人や令息たちなど、関与がないことは明らかになっていた者は無罪放免とし、本来であればマーディア家と同じように処罰されるべきフォーン伯爵家は、他国との政治的な理由から表立って処罰を与えることができない代わりに、この先50年の増税と、それとは別に王家に慰謝料をとして領地四分の一を譲渡することになった。


ここまではアランが行っていて、リオリースはそのあと


マーディア侯爵家の領民たちへの影響を最小限にすることと、新たな領主を選ぶこと、だ


新しい領主に関しては、国王の一存で決めるわけにもいかない。マーディア侯爵家の縁者から選ぶわけにもいかないし、新たに領地を与えるほどの功績をあげたものもいないから、いったん王領へ取り込むか、それとも分割して近隣の領主へ一時的に引き取ってもらうかを、宰相たちと時間をかけて議論することになっている。


さすがにこれは国政に関わることだから、リオリースにできることはほとんどない。


だから、領主が犯罪者となり動揺する領民たちの対応がリオリースの主な役割


商人たちも関わり合いになりたくないと領を避けているため、「物資や食糧が足りなくなってきている」と報告が上がっていて、リオリースは「領民に罪はないと知らしめる必要だな」と、近いうちにシグルドとともにマーディア領へ向かうことになっていた。


今日、アランのところへ行ったのもその話をするため


リオリースがシグルドとともにマーディア領へ向かったあと、アランは学園に通うことが決まったと伝えに行ったのだ。


(アラン兄上も問題ないみたいだし、あとは)


リオリースが今日行う内容を頭のなかで整理しながら廊下を歩いていると、その先に見知った後姿を見つけ


「レオン兄上!」


名前を呼びながら小走りに進むと、レオリードが立ち止まる


「おかえりなさい!」

「ただいま、リオン」

「マーシャル邸はどうだった?」


レオリードが任されているのは、マーシャル家に関わること


当主であるエリック・マーシャルが死んだことと、マーシャル家を取り潰すことはできないことから、マーシャル家への処罰は『次期当主は王族から選ぶ』ことに決まっている。


けれど、こちらもすぐに当主を決めることはできない。


王太子の座が空白である以上、先に決めるのは王太子であるべきだと、宰相をはじめとする家臣たちからの反対にあったからだ。


だが、マーディア家とは違ってマーシャル(公爵)家当主の座をいつまでも空席にしておくわけにもいかず、『マーシャル家のもので身辺整理を行った後、新たな当主を迎える』との名目で、暫定的にエリック・マーシャルの異母弟であるルクルス(ルーク)が当主代理となっていた。


「ルークが頑張ってはいるが、やはりシルジの街とは勝手が違うからな」

「すぐには難しいよね」

「ああ。まだ時間がかかるだろうな」


ルークに領主の知識が全くないかと言えばそうではなく、マーシャル家が領主代行を勤めるシルジの街で領主の仕事を任されている。


だから、マーシャル家に詳しいものが一緒に行えば、当主の仕事も問題ないと判断されていたのだが、もともと執務はエリックがほぼ一人で行っており、その次に詳しいのはマーディア侯爵と繋がりがあったことで現在服役中の執事。


そして、その次は次期領主となるはずだったレオリードだ。


リオリースは「マーシャル家の監視を兼ねて、ルークに執務を教えるように」と、シグルドが命じたと聞いていた。


「毎日大変マーシャル家に行くの大変だよね。いまから父上のとこ?」

「ああ。リオンもか?」


リオリースが頷くと、ふたりで並んでシグルドの元へと歩きはじめる


レオリードは城に戻ると、マーシャル家のことをシグルドに報告するのが日課になっていた。


リオリースがレオリードを歩きながら見あげ、気になってるであろうシスツィーアのことを口にする


「いまね、ツィーア姉さまとお茶してきたよ」

「そうか。彼女は?」

「ん。元気そうだったよ」


毎日お茶の時間を過ぎたころに戻ってくるレオリードを「今日くらい早く帰ってきて、一緒にお茶しよう」と誘っていたのだが、残念ながらレオリードは間に合うことはなく


せめて気にしているはずのことを教えてあげたいと思い、感じたことを話す。


「メイドたちとも仲良くしてるみたい。話してるとこ見たけど、無理してるとか思わなかったし自然な感じだったよ。メイドたちもオレたちと変わらないように接してたし。キーサのおかげだね」


リオリースの言葉に、少し緊張を孕んでいたレオリードが目に見えてほっとする。


「良かった。誘ってくれたのに、すまないな」

「仕方ないよ。レオン兄上、忙しすぎてたまにしかツィーア姉さまに会ってないんでしょ?残念だったね」

「・・・・・・・・・・ああ」


答えるレオリードは寂しそうでもあるけれど


(あれ?)


長兄の様子に微かな違和感を感じて、リオリースは首を傾げる。


「どうかしたか?」

「ん?ううん」


(なんだろう?)


寂しそうなのは間違いないけれど


(残念そうではないよね?)


リオリースとお茶を一緒にすることと公務なら、優先されるべきは公務


それはリオリースにも理解できる


だけど、好きな女性とのひとときなら?


(ちょっとくらい息抜きしたいって、思わないのかな?)


毎日毎日朝早くから夜遅くまで、レオリードは働きづめ


しかも、シグルド(国王)の命令とは言え元婚約者の家に行き、執務を行っているのだ。いくら領民のためにしても、精神的な負担は大きいはず


(早く帰りたいって思わないのかな?あ、でも、ツィーア姉さまも知ったら困るよね)


シスツィーアの性格上、レオリードが公務を切り上げてきたと知れば、気にする可能性は高い


(うーん。だけど、基本的に王族って働きづめだから、休憩とか取れるときに取れって感じだし)


時間きっちりに仕事が終わるわけでもないし、シグルドは夕食後に仕事するなんて日常茶飯事だし、緊急事態が起これば休みなんてない。数か月前から約束していても、急な公務で反故にされるなんてしょっちゅうだったし、逆に急に時間が空くことだってよくある。


だから、休めるときには休むのも仕事のうち


上に立つ者が休まなければ、仕えるものたちも休めない


な、はずだが


(まさか、避けてるとかないよね?)


あり得ないと思いながらも、先ほど感じた違和感の正体も掴めなくて


なんだかもやっとするリオリース


「ね、明後日の休息日にまたツィーア姉さまとお茶するんだ。レオン兄上も一緒にしよう?」


そう言って、レオリードを誘うことしかできなかった。


最後までお読み下さり、ありがとうございます。

次話もお楽しみいただければ幸いです。

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