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アランからの手紙

『元気してる?体調はどう?なんか、手紙だなんて変な感じだね。すぐ近くにいるのに』



そんな書き出しではじまった、アランからの手紙


リオリースと別れて部屋に戻ったシスツィーアは、すぐに手紙を読み始めていた


(ふふ。アランらしいわ)


くすっと笑ってしまいながら、続きへと目を通す


そこには神殿に行ってからの日常や、まだ学園に通えていないこと


そして、いちばんの心配事である『魔力』のことが書かれていて



『最初の数日は変化を感じることはなかったけど、2週間過ぎたあたりかな?少しずつ魔力が溜まっていく感覚があって』



おもわずドキッと心臓が跳ねて、手紙から目を離す


(落ち着いて・・・・・・・大丈夫・・・・・・)


アランと離れてからひと月も経っているし、『二週間すぎたあたり』から日も経っている


震えそうになりながら、そろそろと手紙へ視線を戻して



『自分の『器』を把握したかったからギリギリまで我慢するつもりだったけど、すぐに限界がきて・・・・・・結局、変化を感じた翌日には『女神の部屋』に行ったんだ。それからは、毎日明け方に『女神の部屋』に行って、授かった魔力を還してる・・・・・・・・・神官たちとの日課を取りやめにしてね。それくらいかな』



「良かった」


ほーっと深く息を吐く。


最後まで書かれてはいなかったけれど、アランは『女神の部屋』に魔力を流すことで『魔力過多』に陥らずに済み、そして、大地へと『還された』魔力はこの国の人々に還元される


シスツィーアが願った通りちゃんとアランに『女神の祝福』が流れていて、アランにも問題ないなんて最高の結果だ。


「大丈夫」と自分に言い聞かせていたけれど、実際はすごく不安で仕方なかったシスツィーア


安心のあまり視界が滲んで、張り詰めていたものも溶け出して、ソファーに深く身体を沈める



『君の方はどう?兄上からときどき連絡もらうけど、本当に大丈夫?無理してない?』



(アランったら)


心配してくれていることが伝わってきて、さっきまでとは違って、くすぐったい想いで手紙を読み進める



『兄上にも公務あるし、ツィーアが言いにくいのも分かるけど、まさか避けてないよね?』



「えっ!?」


アランからの思いがけない言葉に、驚きの声がでる


(避けるだなんてしてないわ!)


レオリードを避けるだなんて、そんな不敬なことしてない!


それとも、シスツィーアの行動が悪くて、「避けてる」と思われているのだろうか?


さっきとは別の不安が広がってくるけれど



『遠慮もしてないよね?なんかおかしいって感じたら、すぐに兄上に相談するんだよ。じゃあ、また手紙書くから』



(良かった。誤解されてるわけではなさそう)


ほっとして読み終えた手紙を仕舞おうと、テーブルに置いておいた封筒へと手を伸ばす。


「あら?」


気がつかなかったけれど、封筒にはカードも入っていて


『夜明けがくるとね、湖に朝陽が反射して光のなかにいるみたいで、すごく綺麗なんだ。いつか一緒に見よう』



(アラン)


湖の絵が描かれているカードは、神殿に寄付するともらえるもの


走り書きされているのは、シスツィーアのことを思って躊躇ったのか、それとも恥ずかしいからか


くすっと笑みを溢しながら手紙とカードを仕舞うと、シスツィーアはまたソファーに身体を沈める。


そっと天井を見上げ、片手を伸ばして


(アランには変化が現れたけれど、わたしにはまだない)


シスツィーアの身体の変化はなく、さすがに魔道具を使うことは控えているけれど、それ以外は普通に生活している。


いつ変化が起きるのか不安だけれど、こればっかりは気にしていても仕方ないこともあって、「王宮の生活になれること」を最優先にして考えないようにしていた。


(レオリード殿下も、アランの変化はご存じよね?どうして教えてくれなかったのかしら?)


シスツィーアが困らないようにと、最初の一週間はほとんど付きっきりで面倒を見てくれていたレオリードだが、シスツィーアの生活が整い、体調の変化も見られないからか、だんだんと会う日が減ってきて、最後に会ったのは数日前。


それもシスツィーアが朝食を済ませたタイミングで部屋にきて、すぐに去っていったのだ。


知り合いのいないなかでの生活ということもあってか、シスツィーアはなんだかレオリードに会えなくて心細いと言うか、心がぽっかりするような感じもして


(避けられてはいない・・・・・・・と思うけれど)


つい先日、レオリードから「最近はゆっくり会えなくて済まない。よければ、次の休息日にお茶の時間を一緒にしないか」と誘われたけれど、せっかくの休息日だからシスツィーアのために使って欲しくないと、ゆっくり休んで欲しいと断ったのはシスツィーアだ


(避けてるなら、そもそも声を掛けてくださらないわよね)


レオリードには公務があるし、学生のころだって忙しかったのだ。いまはもっと、比べ物にならないくらい忙しいに決まってる。


それに、本当ならマーシャル家に婿入りするための準備をはじめていたはずなのに、マリナ・マーシャルとの婚約はなかったことにされ、レオリードがこれから先どうなるのか分からない。


その原因をつくったシスツィーア


レオリードがシスツィーアへの罪悪感から面倒を見てくれているとは言え、先行き不透明な不安はあるだろうし、シスツィーアへ複雑な思いはあって当然だ。


もちろん、レオリードはシスツィーアに親切にしてくれているし、仮に迷惑だと思っていてもおくびにも出さないだろう。


(ううん。レオリード殿下はそんな方じゃないわ)


うっかり悪い考えが紛れ込んできて、シスツィーアは頭から追い払う


シスツィーアがアランの側近となったとき、忙しいにもかかわらず仕事を教えてくれた。


たくさん迷惑を掛けたのに、いつも迷惑がることなく助けてくれた


魔道具の事故のときも、身を挺して護ってくれた


シルジの街に迎えに来てくれたし、魔力だって分けてくれたシスツィーアの命の恩人


(殿下は誰にでも分け隔てない、裏表のない方だわ)


そう


シスツィーアの知るレオリードは、誰かのことを陰で悪く言うような、負担になったからと途中で放り出すような人じゃない


だけど、だからといってシスツィーアが甘えていいわけでも、何から何まで頼っていいわけではない


(たぶん、ご迷惑はそこまでかけてないと思うのよね)


メイドたちとは打ち解けて話せるようになったし、お茶の時間は一緒に楽しんでくれているし、関係は良好だと思う。


礼儀作法の講師からも「所作が美しくなった」と褒められたし、座学の講師からの評価も悪くない


図書館やお庭を散歩することはあるけれど、知り合いに会ったことはないし、知らない人に絡まれたこともないから護衛の手を煩わせたことも、「お料理が美味しくない」と料理人を困らせたことだってない


このままレオリードに迷惑を掛けることなく、ひっそりと穏便に生活を送る


そして、自分一人で生きていけるようになろう


(そうよ。この生活に慣れてしまってはいけないけれど、お世話になるあいだは迷惑にならないように慣れないといけないのよ)


それが、いまのシスツィーアにできる精一杯のことだった。



最後までお読み下さり、ありがとうございます。

次話もお楽しみいただければ幸いです。

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