リオリースとの再会
「お待たせ!ツィーア姉さま!」
パタパタと足音が聞こえてきたかと思うと、シスツィーアが振り返る前に目の前にリオリースが現れる
「ごめんね!遅くなって!」
急いできたからかリオリースの額には薄っすらと汗が滲んでいて、シスツィーアは慌ててハンカチを差し出す
「使ってください」
「ありがと!ごめんね!」
リオリースはハンカチを受け取って椅子に座ると、給仕に「ごめん、水もらえる?」と頼みシスツィーアに笑いかけた
シスツィーアとアランの『儀式』のために中断された、リオリースとのお茶の時間
このまま再開されることはないだろうとシスツィーアは思っていたけれど、数日前にリオリースから招待状が届いたのだ。
「今日はオレから招待しておきながら、遅くなってごめんね。来てくれて、ありがとう」
お茶とお菓子がシスツィーアたちの前に並べられ、リオリースが改めて謝罪すると、シスツィーアは困ったように笑みを浮かべて
「本当に気になさらないでください。その、わたしには予定がありませんし」
「そんなことないでしょ!毎日、講師を呼んで勉強してるの知ってるんだからね!それに、魔道術師団長がツィーア姉さまは理解が早いって褒めてたよ!」
シスツィーアの新しい日常がはじまって、ひと月あまり
最初はいつ身体に変調が現れるかと心配だったけれど、いまのところ変わりはなく、魔力生成のためにと設けられていた時間は総長から魔道具や魔術式の講義を受けていた。
「えっと、それは、総長の教え方が上手」
「そんなことないよ!オレも総長から魔道具の使い方教えてもらったけど、あの人説明が下手って言うか、「知ってて当然」って感覚で話すから」
リオリースが呆れた顔をするのも当然で、魔道術師団長は魔道具に詳しいものを相手にすることが多いからか、リオリースが質問を重ねていかないと、かみ砕いた説明にならないのだ。
もともとシスツィーアは祖父の魔道具工房に出入りしていたこともあって、魔道具のことにも自然と詳しくなったし、総長の講義もすんなり理解できているけれど・・・・・・・・・
「たしかに、分かっていると思ってお話しされるところはありますね」
「でしょう!」
シスツィーアがくすくすと笑うと、リオリースも我が意を得たりとばかりに満足そうに笑って
「それでね。実は今日、神殿に行ってアラン兄上に会ってきたんだ」
「え?」
リオリースは着ていた上着の内ポケットから一通の手紙を取り出す
「はい。アラン兄上から預かってきたんだ」
「ありがとうございます」
シスツィーアが受け取ると、そこには見慣れたアランの筆跡で「ツィーアへ」と書かれている。
(アラン、どうしているかしら?)
ときどきレオリードとお茶の時間を一緒にするけれど、そのときに「アランも変わりないよ」としかシスツィーアは聞いていない。
これまでと変わらない筆跡からは、元気で過ごしていると思えるけれど
その場で読みたい気持ちをぐっと堪えて、シスツィーアは手紙をテーブルに置く。
「もともと今日は神殿に行くことになってて、ツィーア姉さまに兄上のこと話そうと思って誘ったんだ」
「そうだったんですね。お気遣いありがとうございます」
「ううん!それに、オレもツィーア姉さまと会いたかったし!元気だった?」
「はい。みなさま、とても良くしてくださいます」
心配そうなリオリースを安心させるようににこりと笑う
実際、シスツィーアのことを邪険にしたり蔑む人はいないし、むしろシスツィーアが恐縮するくらい丁寧に扱われている。
シスツィーアの様子を見て安心したのか、リオリースも「良かった!」と笑顔を見せて
「アラン兄上もね、元気にしてたよ。もう少ししたら学園にも通えそうって」
「え?まだ通ってなかったんですか?」
アランは学園に通っているとばかり思っていたシスツィーアは、リオリースの言葉に何かあったのかと顔を青くする
「あ!身体の状態がどうなるか分からないから、少し様子見してから通うことになってたんだよ。その、学園で急に倒れたりしたら困るからって」
シスツィーアが知らないとは思っていなかったのか、リオリースは慌てて
「アラン兄上は本当に大丈夫だったよ!魔力過多だって毎日『女神の部屋』でお祈りしてるからか、いまのところ全然問題ないって言ってたし!」
必死になって言い募るリオリースのおかげで、シスツィーアも落ち着いて
(そうよね、学園で醜態晒すわけにはいかないわ。アランの判断は当然よ)
学園で倒れてしまっては「やっぱり『死にぞこないの王子』のままだ」と言われてしまう
そんな不名誉なこと、誰だって避けたいに決まっている
「そう、なんですね。アランが元気なら、それだけで十分です」
「うん!むしろ、兄上はツィーア姉さまのこと心配してたよ!だけど、レオン兄上も大丈夫そうって言ってたし、ホントに大丈夫なんだよね?」
「はい。レオリード殿下の仰った通り、わたしは大丈夫です」
シスツィーアがにこりと笑うとリオリースもほっとした顔を見せて、ふたりともお茶のカップに手を伸ばす。
ふわっとしたなかに甘い香りの残るお茶は、口のなかで甘いフルーツのような柔らかい蜂蜜のような不思議な味が広がって、シスツィーアは癒される感じがしながらゆっくりと飲む。
「リオン殿下はお変わりありませんか?」
「うん!授業が増えて忙しくなったけどね」
春になって、それまではダンスと礼儀作法や基礎的な学問くらいしかなかったリオリースも、それまでとは比べ物にならないほど授業が増えて内容も難しくなった。
「剣術もこれまでのは体力作りだったんだなって、それくらい厳しくなったんだよ」
ぼやきながらもリオリースは楽しそうに話し続ける。
「殿下は、剣術がお好きですか?」
「うん!座学よりもね、身体を動かす方が好き!今度は馬にひとりで乗って、少し遠くまで行くんだ!」
城内ではあるけれど一人で馬に乗って訓練場の外に出るのははじめてだと、リオリースは嬉しそう
「ツィーア姉さまは馬に乗れる?」
「えっと、一人で乗ったことはありません」
シルジの街から帰るときにレオリードやルークの馬に乗せてもらったが、ひとりで乗ったことはない。
「そっか。じゃあ、オレが上手くなったら乗せてあげるね!」
「約束!」と笑うリオリースに、「そうですね」とシスツィーアも笑い返した。
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