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新しい日常 ~アラン~

「ようこそ、おいでくださいました」


シスツィーアとの『儀式』を終えたあと、アランは馬車に乗って神殿へと向かった


とは言え、王宮から神殿までは離れておらず、馬車をゆっくり走らせても20分程度


王城を挟んで王宮の反対側に神殿はあり、はっきり言えば、同じ敷地内にあるようなものだ


「今日からよろしく頼むよ」

「はい。お部屋へとご案内いたします」


レザ司祭と数人の神官たちに出迎えられ軽く挨拶を交わすと、レザ司祭に案内されて神殿のなかを進んでいく。


これまで神殿に王族が泊ったことはないし、必要のない場所へは足を踏み入れたこともない


(馬車で20分もかからないんだから、泊まることはないよね)


だけど、アランはこれから当分の間ここで「暮らす」のだ。


用があるたびに神官たちを呼びつけるわけにも、案内させるわけにもいかない


(迷わないように、覚えておかないと)


迷子になっては笑えない


きょろきょろと見まわしたいのを堪えて、それでいてチラッと辺りを見まわしながら歩いて


(・・・・・・・・・)


アランたちが通ると、居合わせた神官たちが端によって首を垂れる


不自然なほど、アランと視線を合わせることはなくて


(警戒されてる?)


アランたちが通り過ぎた後も、端に寄った神官たちから動く気配は感じられない


これまで毎日のように着ていたけれど、そのときはこんなことは感じなかった。


「こちらです」

「ん、ありがと」


そんなことを考えているうちに、アランたちは建物から細長い廊下へと入り目的の部屋へと着く


案内されたのは『女神の地』に一番近い部屋


神殿のなかでは隅の方になるし、部屋も手狭でこれまでアランが使っていた部屋の半分の広さもない


ベッドとテーブルと椅子、それに衣装ダンスがひとつ


それだけで、窮屈な印象だ


「やはり、少々狭くはありませんか?」


眉を顰めているのは、アランの護衛騎士であるロイ・デスルーラ


事前にどの部屋を使うか神殿側と打ち合わせていたのだが、そのときから難色を示していたのだ。


「少々狭くはありますが、『女神の祝福を受ける者』が休息のために使う部屋ですので」


レザ司祭は涼しい顔をしてアランへと向き直る


「外に出ればわかりますが、ここは神殿の内部ではなく庭のなかに作られております」

「僕にとっては都合のいい部屋だったよね?」

「はい。この部屋の庭は『女神の地』へと繋がっておりますので、アランディール殿下が『女神の部屋』へ行きやすいかと」


庭へと出てみると、芝生が敷き詰められた先に湖がある


「この湖が『女神の部屋』のある湖?」

「はい」


湖の方へ歩くと、すぐに『女神の部屋』が見えて

「たしかに、すぐそばだね」

「ええ。『女神の地』は神域ですから、不埒な者も近寄りません」


神殿騎士たちが『女神の地』を護っているし、そもそも神聖な場所だからか不審者が立ち入ることもこれまでなかった。


「そして、神殿からは先ほど通った廊下からしか入ることはできません」


レザ司祭に示されて、アランが反対側へと身体を向ける。


(あれが、いま通って来た廊下ってことだね)


神殿からこの部屋までは細長い廊下が伸びていて、例えアランを狙った者がいたとしても途中に点在する騎士たちの目をかいくぐるのは難しそうだ。


「警護上の理由からも、この部屋は最適ってことだね」

「ええ。騎士団長のお墨付きです」


アランが「僕は問題ないよ」と頷くと、レザ司祭は満足そうに微笑んだ。









「さて、まずは予定を確認しておきましょう」

「そうだね」


リドファルド神官が飲み物を持って来たタイミングで、アランも部屋に戻るとこれからの打ち合わせを始める。


アランとレザ司祭が椅子に座り、テーブルの上に紙を広げて


「どれくらいで僕が『魔力過多』になるか分からないから」

「ええ。まずは殿下の『器』の大きさを把握するところからですね」


シスツィーアに流れていた膨大な『女神の祝福』


アランへと『還して』もらう儀式を行ったけれど、上手くいったのかは今の時点では分からない。


それに、エリック・マーシャルによって『強制的に遮断』されたときと状況も違うし、アランがどれだけ受け止めることができるのかに至っては未知数だ


「そうなると『女神の部屋』に行くのも当分はやめておいた方が良いね。とりあえずは、神殿の日課に参加するよ」

「学園はよろしいのですか?」


アランは新学期から学園に通うことになっていたはず


神殿の日課をこなしながら学園に通うのは負担が大きいだろうと、レザ司祭が首を傾げる


「たしか、もう間もなく新学期ですよね?」

「そう。だけど、まだ許可が下りてないんだ」


アランは出されたお茶に手を伸ばし、肩を竦める


「許可?通学のですか?」

「うん。マーディア侯爵家の縁者のなかには、まだ学生の者もいたからね」

「退学ではないのですか?フォーン家の者も」

「フォーン家の者は公には処罰されてないから、そのまま学園に通うことになるだろうね。そいつらは良いんだよ。父上が監視をつけるって言ってるし、本人たちも何かあれば退学って理解してるから大人しくしてる。今回問題視されてるのは、夫人の実家の者や使用人の子どもたち」

「夫人やご子息方は罪に問われてないのでしょう?」

「関与してないからね」


捜査や取り調べによって夫人や息子たちが無関係と分かっても、醜聞には変わりない


しかも、たんなる醜聞ではなく・・・・・・・・


「エリック・マーシャル殺害の罪に、禁止された魔術式を開発した罪。それに、僕への『禁呪』・・・・・・・まぁ、マーディア侯の首だけでおさめられたのが奇跡だよね」


無罪放免とはいえ爵位は剥奪されて平民となったが、マーディア夫人も元々は貴族出身


いまさら平民として暮らせるはずもなく、現在は子どもたちを連れて実家へと身を寄せているが、マーディア侯の犯した罪が重すぎて夫人の実家も厳しい状況に陥っている。


王家としても余計ないざこざを避けるために「関係ない者への非道な行いは禁ずる」と通知しているとは言え、実際に巻き込まれた者たちからしてみれば、「はい。そうですね」と受け入れられるはずもなく・・・・・・


無実と分かっていて放り出すのは外聞が悪いと、一時的に身を寄せることには同意しているものの腹の虫はおさまらないだろうし、まだ未成年の者たちが逆恨みして抑えが効かずにアランを害してもおかしくない


「僕がのこのこと学園に通っていたら面白くないだろ?だから、少なくとも魔力制御の目途が立つまでは、許可できないって」


アランが無表情にお茶に口を付けると、後ろに控えていたロイが痛ましそうな顔をする


アランが学園に通うために、どれほど努力したのかを知っているからだ


「あ、教師を神殿に招いて受ける授業もあるから、全部じゃないね。神殿への立ち入り許可もいるだろうし、あとから担当教師とかの資料渡すよ」

「お願いします。まあ、殿下の体力で他の者と同じように授業を受けられるとも思えませんし、その方がよろしいでしょうね」


レザ司祭は微笑むと、アランと同じようにお茶に口を付けた。




最後までお読み下さり、ありがとうございます。

次話もお楽しみいただければ幸いです。

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