アランとの再会と
「え?」
まさかアランが入ってくるとは思わなくて、ぽかんとしたままのシスツィーアに、アランは苦笑する。
「ごめん、先触れもなく押しかけて」
「アラン!?」
(どうして!?)
シスツィーアとアランは物理的にも距離を取った方が良いと、少なくとも数ヶ月は会わないことになっていた。
両目を瞬かせるシスツィーア
アランに理由を尋ねたいけれど、シールスが居るから聞くことなんてできなくて
「お邪魔するよ」
もう一度そう言ってからアランが部屋に入ってくると、シールスは慌てて腰を浮かし
「いい。座ってて。急に押しかけたのはこっちだ」
「は・・・・・・では、お言葉に甘えまして」
アランがひらひらと手を振り、シールスは躊躇いながらもまた椅子に座り直す。
「どう?久しぶりに会ったんだろ?話は弾んでる?」
「え、ええ。それより、どうしたの?」
「ん。せっかくだし、顔見知りになっておこうと思ってね」
アランはいたずらが成功した子どもみたいな笑みを浮かべて、シスツィーアの隣へと腰を下ろす。
シールスはその様子を、なんだか複雑そうな顔で見ているけれど、それどころではないシスツィーアは気付くことはない。
「ツィーア、紹介してくれないの?」
「え、ええ。そうね」
にこりとアランから微笑みながら言われ、シスツィーアは背筋を伸ばして
「アラン、こちらはシールス・ルグラン。わたしの初等科からの友人よ。シールス、こちらは、第二王子のアランディール殿下」
「アランディールだ。座ったままで失礼する。君もそうしてくれ」
「はい。ご尊顔を拝することができ、光栄です。シールス・ルグランと申します」
座ったまま自己紹介をするふたり
(大丈夫かしら?ふたりとも)
アランもシールスも初対面の人とそつなく接するけれど、アランはともかく、シールスからは緊張していることが伝わってくる
シスツィーアまでなんだか緊張してきて、どきどきする心臓を抑えながら見守って
「たしか、父君が僕の母と同じ国の出身とか?」
「はい。光栄なことに、王妃さまお輿入れに際して、この国へ同行させていただきました」
「らしいね。かの国では「ルグラーシュ」と名乗っていたとか」
「そこまでご存じでしたか」
シールスが感嘆のため息を吐く
「はい。両親の婚姻により「ルグラーシュ」より独立しましたので、この国では「ルグラン」と名乗らせて頂いております」
「姉君が「ルグラーシュ」の養女に入るとか?」
「そこまでご存じなのですか!?」
シールスが目を見開き、同じく驚きのあまり目を丸くするシスツィーアと顔を見合わせ
「えっと、アラン?なんでそんなに詳しいの?」
ふたりの会話を邪魔しないようにしていたシスツィーアが、やっと尋ねる。
「まあ、学園で関わりそうな者のことくらいはね。姉君の婚約が決まったとも聞いている。祝福を述べさせてもらうよ」
「ありがとう存じます。姉も喜びます」
「出立はいつ?」
「養父母となる叔父夫妻との顔合わせもありますので、式は来年になりますが、3ヶ月後にはこの国を立つことになります」
「えっと、リジ―はこの国を離れるの?」
シスツィーアがアランとシールスを交互に見ながら尋ねると、アランが目線でシールスを促す
「そうなんだ、海向こうのルッザリナ王国の大使に見初められてね。で、相手が高位貴族なこともあって、叔父夫妻のところから嫁ぐことになった。叔父は伯爵位にいるから」
「そう。おめでとう。だけど、寂しくなるわね」
「ツィーアも親しかったの?」
シスツィーアがそんなことを言うのが意外だったのか、アランが尋ねる。
「え、そうね。初等科や中等科のときは、時々お喋りしていたわ。その、リジーは社交的だったから」
いつも一人でぽつんとしていたシスツィーアを気遣って、リジ―が廊下ですれ違うときに話しかけてくれたり、ルグラン家に遊びに行ったときには女子の流行を教えてくれたりしてくれたことが思いだされて、思わずくすっと笑いが零れる。
そんなシスツィーアに、アランはなんてことなさそうに
「そう。なら、茶会に招待したら?」
「え?」
「彼女が国を立つ前に。会いたくない?」
「えっと、迷惑じゃないかしら?」
「誰に?」
きょとんとした顔のアラン。
王宮に招待されるなんて、普通に考えたら誉れだ
「えっと、キーサとかメイド長とか、その、準備が大変でしょう?」
「そんなの、仕事なんだから気にしなくて良いよ」
アランは呆れた顔をしながらテーブルに手を伸ばし、焼き菓子を摘まむ。
シスツィーアは困りながら助けを求めるようにシールスに顔を向けて
「えっと、リジ―もわたしとお茶会なんて迷惑じゃないかしら?」
「全然。むしろ拍が付くよ」
「え?」
シールスの返事が意外で、シスツィーアはまたしぱしぱと瞳を瞬かせる。
「ツィー・・・・・・シスツィーア嬢は王族からの庇護を受けて、その上、第二王子であるアランディール殿下の友人です。そのような方にお招きいただき、迷惑など」
「そ。むしろ、羨望の的だと思うよ。僕だけじゃなく、父上や兄上からの覚えも良くて、王族の窮地を救った功労者だ。お近づきになりたい者は大勢いる」
シールスもアランの言葉に合わせて大きく頷く。
「えっと・・・・・・・」
シスツィーアとしては会いたい気持ちがないわけではないが、どうしても会いたい相手でもない
だけど、先日の礼儀作法の先生から「あとは実践できれば良いのですが」と言われて、キーサたちが「殿下方をお招きして、お茶会でもいたしましょうか」と本気で検討していることも知っていて
(えっと、リジ―が来てくれるなら、その方が良いかも?)
レオリードたちを練習台に付き合わせるよりも、リジ―のお祝いをする方が良いように思える。
「えっと・・・・・本当にリジ―が迷惑で、ないなら」
ためらいがちにシスツィーアが言うと、アランは破顔して
「決まり!メイド長には話しておくから、他に招待したい者がいたら言いなよ。僕はもう行くね。邪魔して悪かった」
「お会いできて光栄でした。また、学園でお目にかかれることを楽しみにしております」
「僕も会えて良かった。じゃ、また」
颯爽と立ち去るアランを、シスツィーアとシールスは立ち上がって見送ると、なんとなくふたりで顔を見合わせ
「本当に、殿下方と親しいんだな」
ほっと肩の力を抜いたシールスが再びソファーに座り、すっかり冷めてしまったお茶を飲み干すと、シスツィーアはポットから新しいお茶をシールスのカップへと注ぐ。
「疑ってたの?」
「いや。現実味がなかった。けど」
「なあに?」
珍しく言いかけた言葉を切るシールスにシスツィーアが首をかしげると、シールスはアランとシスツィーアのやり取りを見たときと同じく、なんだか複雑そうな顔をして
「ツィーア、じゃなくて、シスツィーア嬢と呼ぶのがなんか」
「ツィーアで良いわよ。アランは気にしないわ」
「さすがに殿下方の前で呼ぶ勇気はないから。いないときね」
にっこりとシールスに微笑まれて、シスツィーアもくすっと笑みを返した。
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