マーディア領での違和感
「それで、「違和感」の正体は分かった?」
「いえ。正確なところは」
「そっか。でも「気のせい」じゃないんだよね」
「アランはこう言って譲らぬが、総長も同じなのだな?」
「ええ。『違和感』を感じることに間違いありません。我々だけでなく、レザも感じておりますゆえ」
「そうか」
視察から戻って数日後
旅の疲れを癒したアランは、シグルドと魔道術士団長と『教会の違和感』について話し合いをしていた
アランがマーディア領に行った一番の目的である『教会の違和感』
領地中心部に位置する教会を訪れ、神官に案内されて隅々まで見て回ったアランたち
最初は「違和感」を感じられなかったけれど・・・・・・・・
「・・・・・・・・妙だな」
マーディア領に着いたあと、すぐにレザ司祭が『違和感』を感じた教会へと向かったアランたち。
アランは感じなかったけれど、同行した魔道術師団長は、教会に足を踏み入れたときから眉をひそめ、原因を探すように左右や天井へと視線を巡らせ
「なにが?」
「いえ・・・・・・・・気のせいか・・・・・・」
鋭い視線で辺りを見まわしながら廊下を歩く総長は、はっきりとしたことが分っているわけではないようで、アランへは首を横に振るものの視線は険しく眉間のシワを深くするばかり
そんな総長の様子に、案内役の神官はおどおどと不安そうにしながら廊下を進み
「・・・・・・・・こちらが『女神像』を祀ってある場所となります」
「ありがと」
さほど大きくない教会では、すぐに『女神像』までたどり着く。
王都の神殿にある聖堂を模して造られた部屋は、信徒が50人ほど入れば手狭に感じるほどこじんまりとはしているものの、隅々まで清潔に保たれていて床には塵ひとつ落ちていない。
「王都にある『像』より小さいね」
「聖堂に祀られている『女神像』と同じ大きさのものはございません」
「なんで?なにか理由があるの?」
「詳しくは存じませんが、領地の規模に応じた『女神像』が安置されているそうです」
そんな話をしながら『女神像』や部屋のなかを見て回るけれど、アランには『違和感』なんてさっぱり感じられず
すすーっと魔道術士団長へと近づき、こそこそと尋ねるものの
「どう?なにかわかった?」
「・・・・・・・申し訳ありません。はっきりとは・・・・・・・」
なにかしらおかしいことを感じているけれど、魔道術士団長もふわふわした感覚だけで、はっきりしたことは掴めないでいる。
そんなふたりの様子に神官たちは不安そうにしているし、教会の外にはアランを一目見ようと領民たちが集まっていて、あまり長居をして余計な詮索をされるわけにもいかず・・・・・・
結局その日、アランたちはそのまま去ることにした。
帰り際に「明日から僕も朝の『祈り』に参加するから」と、神官たちに言いおいて
そして、翌朝
総長とともに再度教会を訪れたアランは、神官たちと『女神像』へ『祈り』を捧げ
「『空気』が変わったって、はっきり感じたんだよね」
深く椅子に腰掛けて腕を組み、アランは先日のことを思い出す。
あのとき、たしかにそれまでとは空気が変わった
神官たちは気付いていないようだったけれど、アランと総長ははっきりとした違いを肌で感じたのだ
「アラン、『祈り』の前、初めて教会へ足を踏み入れたときには何も感じなかったのだな?」
アランたちとは別行動だったシグルドが改めて尋ねると、アランは「はい」とうなずく
「残念ながら、僕は感じませんでした」
「そうか。総長はどのように感じた?」
「・・・・・・・王都の神殿に比べて、『空虚』な感じがいたしました」
「どういう意味だ?」
「・・・・・・・王都の神殿が基準とすれば、なんと申しますか・・・・・・・どこか『空洞』を包んでいるかよような・・・・・・」
総長の歯切れは悪く、上手い表現が見当たらずにいる。
「・・・・・『空洞』・・・・・・か」
シグルドは総長の言葉からなんとか連想しようとするけれど、それはうまくいかず
「んー。ちなみに、僕が魔力を捧げたあとは?」
「『空洞』が内側から満たされ、全体的に均一化された感じ・・・・・・でしょうか。王都の神殿と変わらぬ感じになりましたな」
きっぱりと言い切る総長だが、その感覚を表現するにふさわしい言葉を見つけることができずにいる。
だが、アランも「たしかに、『祈り』のあとは神殿にいるときと変わらない感じになったね」と呟く
それなら、総長の『均一化された感じ』が当たっているなら
「マーディア領の教会の『魔力』が、減ってたってこと?」
アランが零した言葉にシグルドはぎょっとする。
この国の肥沃な大地、温暖な気候、穏やかな海
それらはすべて『女神の祝福』と称される『魔力』であることは、ここにいる三人は知っている。
「アラン!それではまるで」
それはまるで、この国の建国『前』
この国が荒れ果てた大地であったときを思わせるではないか
言葉を失い顔色を変えるシグルドだが、総長は首を横に振る。
「この国が『魔力』が足りない状態に陥れば、まず異変が現れるのは『魔物の森』。ですが、そのような報告は受けておりませぬ」
「そう・・・・・・か。そうだな・・・・・・・」
ほっと肩の力を抜くシグルド
アランも「そうなんだ」と安心するが、『違和感』の正体がわからないことには変わりなく
沈黙が降り、誰しもが眉間にしわを寄せて考え込む
「レザの感じた『違和感』が、殿下とシスツィーア嬢の『切り離し』が終わったあとであれば、その影響かと考えられますが」
時計の音だけが部屋に響くなか、総長がぽつりと溢す
「うん。だけど、時期が合わない」
レザ司祭が『違和感』を感じた日は、奇しくもシスツィーアが貴族籍から『除籍』された日
「ええ。いくらなんでも『違和感』を感じるにしては早すぎる。それに、まだシスツィーア嬢がと殿下の『繋がり』が切れていなかった可能性もありますし、今回に関しては別と考えてよろしいかと」
「うん。そうだよね」
シスツィーアがアランと魔力を『切り離す』前
シスツィーアはエリック・マーシャルによって『魔道具』を付けられ、アランとの『繋がり』は一度絶たれた。
あのときの、まるで、それまで繋がっていたのに急に遮断されたような、そんな感覚が浮かんだときのことを思い出しながらアランは苦笑する。
遥か彼方、遠い昔のような気がするけれど、まだ一年も経っていない。やっと半年を過ぎたあたりだ。
「だが、ほかに何か原因となり得るものはあるだろうか」
シスツィーアとアランのことが関係なければ良いと思いながらシグルドが口にする。
「・・・・・・・・考えられるとしたら、『女神の祝福を受ける者』が各領地を巡ったことと関係あるかと」
「やはり、そうなるな」
シスツィーアを巻き込みたくないが、王家やセフィリア教に残された資料に『女神の祝福を受ける者』が各領地を巡った理由が書かれていない以上、初代王妃が残した『エツィールド』家の資料をあたるしかない。
シグルドが深く息を吐き、シスツィーアへ協力を要請すると口にしようとしたとき
「・・・・・・とりあえず、僕が各領地をまわってくるよ」
「アラン?」
「ほかにもマーディア領と同じようになってるところがあるかもしれないし」
「考えられますな」
組んでいた腕を解いてアランがシグルドへ身体を向ける。
「ほかの教会を見てまわったら、今回の『違和感』の正体だってわかるかもしれない。いいですよね、父上」
じっとシグルドを見つめるアランからは、シスツィーアを巻き込むまいとしていることがすぐに伝わり
小さく息を吐き、シグルドもアランを見つめ返す。
「学園はどうする?彼女の思いを無碍にはできぬぞ」
アランに学園に通って欲しいと願ったのは、ほかでもないシスツィーアだ。アランが卒業できないとなれば、シスツィーアの思いは無駄になり、それはシグルドも許容できない。
「もう夏季休暇になるし、休暇明けから通います」
「よかろう。夏季休暇が明ける1週間前には戻るように」
アランの様子から意思を変えることはできないと感じ、シグルドはうなずいた。
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