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ささやかな、お返し

ぐずっ         ぐずっ


ルドルを見送り、馬車に戻ったあと


シスツィーアはまた涙が流れて


(なき、やまないと)


いつまでも泣き止まないなんて、せっかく連れてきてくれたレオリードに居心地の悪い思いをさせてしまう。


申し訳なくて、両手で涙を拭いながら、大きく息を吸って、どうにか気持ちを落ち着かせようとするけれど


ふっ        ぐずっ


次から次へと大粒の涙が流れて、泣き止むことなんてできなくて


シスツィーアの目の前に、そっとハンカチが差し出され


「あ」


レオリードはなにも言わず、ただ視線だけで使うよう促す


「あ・・・・・りがとう・・・・ござい、ます」


ハンカチを受け取り顔にあてると、ふわりと優しい薫りがして


(おじい・・・・さま)


先ほどの、ルドルの懐かしい薫りが思い出されて


シスツィーアはまた涙が溢れて、とまらなかった。






昨日



『明日、俺と出掛けないか?連れて行きたい場所があるんだ』




レオリードが「迎えに来る」といった時間は、いつもならシスツィーアが起きるころ


キーサに「早朝は肌寒いから」と言われ、シスツィーアはリオリースのお土産であるストールを羽織り、「日焼けしてはいけないから」と、こちらもお土産である日傘を用意してもらって、レオリードを迎えた。



そして馬車のなかで、シスツィーアは祖父(ルドル)が王都を出てラドリスト辺境伯領(ふるさと)へ帰ることを教えてもらったのだ。











「今日は、ありがとう、ございました」


ひときしり泣いて、シスツィーアの涙が止まったのはそれからしばらく経ってから


うっすらと瞳を涙で滲ませたまま、シスツィーアはレオリードにお礼を言う


「おかげで、祖父におわかれできました」


泣き笑いのようになりながらも、シスツィーアはレオリードに笑みを向ける


レオリードも優しい笑みを浮かべ


「もう会えないわけじゃない」

「え?」


戸惑うシスツィーアに、レオリードは穏やかに続ける。


「『会いに行く』と、ルドル殿と約束していただろう?」

「えっと・・・・・・・はい。いつの日か、会いに」

「すぐには無理でも、旅に出れるようになったら会いに行こう。だから、少しのあいだの別れだ」


シスツィーアはぱちぱちと目を瞬かせ


「えっと・・・・・・・」

「俺が、ルドル殿と君を会わせたいんだ。一緒に行こう」


レオリードは本心から言っているのだろう


(そんなこと、許されないわ)


裏を感じることのない、シスツィーアのよく知っている笑みに、なぜだかまた切なくなりながらも、反射的にそんな思いが浮かび


チクリ


レオリードの好意を受け入れられないことに、嫌になりながら


シスツィーアは先ほどとは違う笑みを浮かべ


「はい。あの、ハンカチ、ありがとうございました。洗ってお返しします」

「ああ。それなら、キーサに渡してくれれば大丈夫だ」

「あ」


(そう、よね)


シスツィーアの洗濯物だって下働きのものたちがしてくれているし、自分で洗濯して返すなんて、そんなことすればキーサたちの手間を取らせるし、迷惑になる


(みんなの仕事、増やすことになるわ)


ハンカチを洗うくらい自分でできるのに、自分でできない


なんだか、また情けなくなって、落ち込みそうになる


(せめて、なにかお返しできないかしら)


ルドルも『感謝の気持ちを忘れたらいかん』と言っていた。


「あの、わたしに出来ることはありませんか?」

「?」

「その、せめて、なにかしたくて」


シスツィーアにできることなら、どんなことだってやる。


そんな思いが伝わったのか、レオリードは少し考える様子を見せると


「・・・・・・・・・・・レオンと呼んでくれないだろうか?」

「え?」

「いや!その、アランのこともリオンのことも愛称だろう?」

「あ」


(もしかしたら、仲間外れのような気持なのかしら?)


レオリードは期待するような、それでいて少し不安そうな、入り交じった顔でシスツィーアを見つめ


おそれ多いとの思いもあるけれど、レオリードを愛称で呼ぶことくらいなら、シスツィーアにもできる。


「えっと、はい。よろしいのですか?」

「ああ」

「では、レオン殿下と呼ばせていただきますね」

「いや!そうではなく」

「?」


にこりとシスツィーアが笑えば、レオリードはなんだかわたわたした感じになり、シスツィーアは首を傾げる。


「その、殿下は付けないで欲しい」

「え?」

「駄目だろうか?」


レオリードの頬がほんのりと赤くなっているように見えて、なんだかシスツィーアまで顔が赤くなってきて


「えっと・・・・・・はい・・・・・・・・・レオン」


消えそうなほど小さな声だったけれど、レオリードにはしっかり聞こえたのか嬉しそうに笑う


「君のことも、シスツィーアと呼んで良いだろうか?」

「えっと・・・・・・・・はい」


なんだか胸がきゅっとする感じがして、シスツィーアは小さな声でこたえた。



最後までお読み下さり、ありがとうございます。

次話もお楽しみいただければ幸いです。

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