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補助の魔道具

シスツィーアがレオリードから「お茶の時間をともにしたい」と連絡を受けたのは、体調が回復して2日ほど経った日のこと


開いた便箋を前に、そっとため息を溢し


(やっぱり、わたしの調子が良くないこと、よね)


最後にレオリードと会ったときのやりとりを思い出す。


あのときは「気候の変化」と思っていたし、レオリードも納得してくれた。


いまとなってはそうではない可能性があるけれど、シスツィーアはレオリードが気付いているとは思い至っておらず


(きっと、ものすごく心配をかけてしまったわ。ずっと気にかけてくださってたわよね)


身体の怠さは隠していたけれど、優しいレオリードのことだから、シグルドが不在で忙しいときでも気にしてくれていたのだろうと、レオリードを煩わせてしまったことに、自己嫌悪に陥る。


(元気になったところをお見せしないと)


ぐっと気合いをいれて、レオリードからの手紙に視線を戻す。


(えっと、レオリード殿下の希望の日は)


シスツィーアには予定らしい予定なんてないから、レオリードの予定に合わせるだけ





ルリに用意してもらった便箋に返事を認め






翌日





「今日は誘いに応じてくれて、ありがとう」

「いえ!お忙しいのはレオリード殿下の方ですから」


恐縮するシスツィーアにレオリードは「そんなことはない」と微笑み


「これを渡したかったんだ」


レオリードは自身の側に置いてあった、小さな木箱をシスツィーアの前へと置く


木箱はシスツィーアの手ほどの大きさで、ラッチでとめてあるもの


(なにかしら?)


きょとんとしながら、シスツィーアは木箱をまじまじと見つめる


「開けてみてくれ」


促されて木箱を開くと、なかにはシスツィーアの掌に収まるくらいの小さな銀細工の『女神像』


「これは?」


持ち上げてみると、女神像には細長いチェーンが付いていてネックレスのようだ。


「君用にと用意した、魔力生成の補助具だ」

「これが・・・・・・・・」


女神像をころんと反対に向けてみると、そこには小さな『護符』が描かれている。


(えっと、この『護符』は)


どことなく見覚えのある『護符』の紋様


アランの『魔力不足』の謎を解くために『護符』を調べていたときの記憶が、シスツィーアの脳裏に蘇る。




(たしか・・・・・・・・リド神官さまに見せていただいたのよね)




アランとはじめて『女神の部屋』へと入ったあと


まだ、シスツィーアの『魔力』がアランの『魔力』だと知らなかったころ


神殿にあった『紋様』の意味を知りたくて、図書館へ、そして神殿へ行ったあの日


シスツィーアはリド神官から『魔力循環阻害病』と『魔力生成不全』の者へと渡す、『魔力循環の護符』と『魔力生成の護符』を教えてもらった



(たしか、信徒席の『紋様』と似ていたのよね)



あのとき知らなかった信徒席の『紋様』は、『女神の加護を受け取りやすくする』ためのもの




心のどこかが、微かに傷んで




けれどそれは、シスツィーアが気付かないうちに消えていき



代わりに、リドファルド(リド神官)たちとのやり取りが思い浮かぶ




(あのときは、レザ司祭と魔道術師団長(そうちょう)も一緒にいたわ・・・・・・・)


リド神官が教えてくれた、幼なじみ同士でもあるレザ司祭と魔道術師団長が医療系の魔道具を苦手としていることや、シスツィーアの前で繰り広げられた2人の仲の良い掛け合い



知らず知らずのうちに、シスツィーアの口もとが綻ぶ



まだ、あれから半年ほどしか経っていない




「懐かしい」というには時間が経っていない




それでも、シスツィーアの心には懐かしさが溢れて



「すみません・・・・・・・この魔道具のこともですけど、殿下にはずいぶんご迷惑をお掛けしてしまって」


懐かしさと同時に一抹の寂しさを感じながらシスツィーアが言う。


レオリードはすぐに首を横に振り


「そんなことはない。その、この魔道具もすぐに手配したんだが、ふたつの『護符』を組み合わせたものだから、思った以上に時間がかかってしまったんだ」

「えっ!?」


(まさか、新しく開発されたの!?)


驚きのあまり目を見開いて固まるシスツィーア


レオリードは申し訳なさそうに続ける


「総長に相談したんだ。その、君の場合は特殊だから、既存の『魔術式』で良いのかと。総長も俺と同じように考えていたらしく、魔道術士団に残された過去の文献を探してくれていてね。「実用化はされなかったが」と、この『護符』を教えてくれた」


シスツィーアに負担をかけないようにだろう


言葉を選びながらレオリードは話し


「幸いにも、依頼した職人の腕も良くてね。持ち運びしやすいようにと、できるだけ小さく作ってくれた。総長にも確認してもらい、「問題ない」と言ってくれたが・・・・・君がはじめての使い手になるから、実際のところは分からないが」

「そんなこと!その、そんなこと」


シスツィーアは申し訳なさで泣きたくなりなり


「総長も「大丈夫」と仰ったなら、問題なんて起こるはずありません!むしろ、すみません。わたしのために」

「気にしないでくれ。俺がやりたくてしたことだ」


穏やかに微笑むレオリードに、シスツィーアはまた泣きたくなって、言葉が詰まってなにも言えなくて


「繊細な魔道具だからこちらも催促できず・・・・・・一昨日、出来上がったと報告を受けて、昨日受け取ってきたんだ。総長が講義のときに使い方を説明すると言っていた。役立てて欲しい」


誰かに取りに行かせたわけでも作った者に持ってこさせたわけでもなく、レオリードが受け取りに行ってくれたことに、シスツィーアはますます恐縮して


レオリードの優しさに甘えてばかりな、与えられるばかりなことに申し訳なさで心苦しくて


俯いてしまったシスツィーアに、レオリードが不安そうなに声を掛ける。


「気に入らなかっただろうか?」

「そんなことありません!」


慌ててシスツィーアが顔を上げる。


「その・・・・・・こんなところまでお手を煩わせてしまって・・・・・・申し訳なくて・・・・・」


両手でぎゅっと『女神像』を握りしめて、泣きそうになるのを必死に堪えて


「すみません・・・・・・・・魔道具、ありがとうございます。あの、できれば作ってくださった方にもお礼を」


総長にはもちろんお礼を言うけれど、シスツィーアが王宮で暮らすことになって、まだ3ヶ月ほど


こんなに小さな『女神像』の魔道具を作るのもだけど、『護符』を描くのはもっと大変だったはずだ


「えっと、こういった魔道具は、もっと作るのに時間がかかるのに・・・・・・急いで作ってくださったと思うので」

「ああ。必ず伝える」


レオリードがしっかりと頷いてくれたことにほっとして


シスツィーアはようやく笑みを返すことができた。



最後までお読み下さり、ありがとうございます。

次話もお楽しみいただければ幸いです。

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