舞台裏 ② ~シグルドと魔道術師団長~
シスツィーアが王宮で暮らすと決まったとき
シグルドは余計な詮索を避けるために、一計を案じることにした
そのため、『シスツィーア嬢はアランディールの『禁呪』の身代わりとなった』と、メイド長をはじめ上層部へ告げていた。
『だが、それを公にすることはできない』とも
『禁呪』を行ったとされる、けれど、自身も殺害されてしまったエリック・マーシャル公爵
死の間際のマーシャル公の自白により犯人と断定されたものの、その後すぐに息を引き取ったために、『禁呪』を行った動機も詳しい経緯もすべてが闇に葬られた。
『禁呪』を解く方法も、手がかりも、なにもかもが
けれど、シスツィーアは諦めなかった
「エリック・マーシャルを害した」と冤罪を掛けられ、偶然行きついた『エツィールド家』で『禁呪』を解く手がかりを見つけ、魔道術師団長へと協力を仰ぎ
その結果、アランディールの『魔力』を万全にするために、シスツィーアは『身代わり』を申し出たのだ、と
王城へ務める者たちの上層部へは、そう告げたのだ。
だが、いくら尊い王族を救うためとはいえ、そこまでの献身を尽くすなど、そう易々と決断できるはずもない。
アランディール殿下のように『魔力不足』となるなど、誰だって忌避したいに決まっている
まして、シスツィーア嬢から『身代わり』を申し出たなど、誰が信用するだろうか
そんな意見が出るのは、もっともなこと
だから、城に勤める者たち、特にシスツィーア付きの使用人たちには『アランディールの禁呪を解くために、『魔力』生成の機能に傷を負った』と伝えられることになった
『それを癒すための、王宮での生活なのだ』と、納得しやすいように
箝口令を敷くことなく
よって、正しく、『『禁呪』によりアランディールの魔力がシスツィーアへと流れており、それを正した』と知るのは、王族とほんの一握りの者たちだけ
メイド長は嘘を教えられたわけではないが、真実を告げられているわけでもない。
まだ、シスツィーアがアランへと『魔力を還す』つもりでいることを知らずにいた、『建国記念の夜会』
『君へ多大な苦労をかけることになり、その心身に傷を負わせることにもなった』
『これより先、王家は君への感謝を忘れることはない。そして、庇護することを誓う。まずは、傷ついた心身を癒しなさい』
集まった貴族たちの前でシグルドが告げたことと、乖離していることもない
少しずつ、真実とは違うことを
けれど、シスツィーアへの認識は変わらないように
そう、シグルドは一計を案じた
シスツィーアを
レオリードを
王家の威信を
護るために
「では、彼女の様子は、おかしなところはなかったのだな」
「はい。「回復した」と考えてよいでしょう」
マーディア領の視察から戻った翌日
シスツィーアに異変が見られたことを知ったシグルドは、魔道術師団長をシスツィーアのもとへ使わしていた。
魔道術師団長からの報告に、シグルドはほっと安堵する。
「ご報告が遅くなり、申し訳ありませぬ」
「いや、魔道術師団長とて旅の疲れがとれぬうちは無理はできないだろう。こちらも急かして悪かったな」
シスツィーアのことを『正しく』知る者の一人である魔道術師団長
彼がシスツィーアの状態を確認するのが一番間違いはなく、だが、シスツィーアの状態を確認するために一番良い王族用の魔道具は、使い手の状態も万全でなくては使い手に危害が及ぶ。
魔道術師団長はひとまず身体を休めることを優先し、そして夕方ごろにシスツィーアのもとを訪れ、状態を確認したのだ。
「それで?総長はシスツィーア嬢のことをどう考える?」
「正直なところ、分かりません。『切り離し』た影響だと考えることも出来ますが、不在のあいだ魔力量に問題がなかったのですから、精神的なものである可能性も否定できないところです」
「そうか・・・・・・・・・」
精神的なものが原因なら良いと言うわけではない。
それでも
「『切り離し』が原因だとすれば、今後、彼女はどうなる?」
「・・・・・・・・・・・」
シグルドの問いかけに、魔道術師団長は返事をすることができない
『魔力生成』はこの国の者たちなら、呼吸をするようにしているから、講義なぞ気休めでしかないことくらい、誰しもが理解している
実際に、シスツィーアに教えていることは5歳の子どもと変わらない内容で、『しないよりまし』な程度だ。
なにもかもが手探り状態で、症状が現れてからの対処療法しかできない現状
唯一出来ることと言えば
「『魔力生成』のための魔道具。レオリード殿下より「出来上がった」と伺いました」
「ああ。たしか、レオリードが「任せたい者がいる」と言って、その者に制作を任せていたな。そうか、出来上がったか。では、総長が出来上がりを確認したあとシスツィーア嬢へ?」
「はい。明日にでもレオリード殿下よりお預かりし、性能を確認いたします」
魔力生成が不安定な者たちへ与えられる補助の魔道具
それをシスツィーアのために用意し、『魔力』を安定させるように備えるしかなかった。
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