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彼女のために ③

「シスツィーアさまへのご面会は、しばらくお控えください」


キーサがレオリードのところへやって来たのは、休息日明けの朝食後のこと


シスツィーアに会いに行くため早々に朝食をすませ、執務室で書類を片付けていたレオリード


「なぜだ?」


反射的に声を荒げそうになるのを押さえ、静かに尋ねる。


一昨日、シスツィーアと久しぶりに面会したときに様子がおかしいと感じて、昨日もレオリードはシスツィーアに会いに行った。


一昨日よりも疲れたような様子を見せるシスツィーアに、「長居は駄目だ」と早々に立ち去ったものの、会わずにいれば心配で落ち着かず


(まさかとは思うが)


シスツィーアが「会いたくない」と言っているのだろうか?


そんな考えが浮かぶだけで、レオリードの心はズキリと痛む。


(いや、彼女がそんなこと言うはずはない)


シスツィーアがそんなこと言うなんてあり得ないと思いつつも、言い出せずにいるシスツィーアのためにキーサが告げに来た可能性は否定できない。


レオリードはドクドクと鳴る心臓を押さえるように、ぐっと手を握りしめる。


キーサはそんな様子に静かに息を吐き


「恐れながら、国王陛下ご不在の折は、レオリード殿下が名代を務めると伺っております」

「ああ。そうだが・・・・・・」


シグルドは視察に向かうにあたって「私が戻るまでは、レオリードを国王代理と指定する」と、宰相たち家臣へ通達していた。


これまでは、シグルド不在時の代理は王妃(ミリアリザ)が務めていた。だが、今はミリアリザが療養中で、側妃(リネアラ)が王妃代理を務めている。


リネアラが問題なく王妃代理を努めているとはいえ、さすがにリネアラに国王代理まで任せるのは無理があり、そうなれば、成人した第一王子(レオリード)が国王代理を努めるのは自然なことだ。


と言っても、レオリードとてシグルドの代理を務めるのははじめてのことで、宰相をはじめとする優秀な家臣たちが中心となって(まつりごと)を行い、レオリードにはそこまで負担がないようになっている。


もちろん、それでも『国王代理』としての執務はあるのだが


「おそらく、シスツィーアさまも同じようにお考えなさるかと」

「どういう意味だ?」

「殿下がお忙しくなることぐらい、 シスツィーアさまも予想されているということです」

「・・・・・・・・・・」


たしかに、シスツィーアはアランの側近をしていたから、この国の国政がどのように執り行われているのか知っている。


レオリードが国王代理となることは、知られていないはずだが・・・・・・・


(王妃さまが療養中の今、父上が不在の間は俺が代理となることくらい予想できるな)


キーサの言いたいことが伝わり、そしてキーサの言う通りだと思わざるを得ず、レオリードはジトッとした視線を向ける。


「ご理解いただけたようですね」


にこりと微笑むキーサ


「シスツィーアさまの憂いを払うことが、わたくしのお役目ですので」


レオリードの視線をものともせず、サラリと受け流すのはさすがだろう。レオリードは口惜しく思いながらも


「・・・・・・・仕方ないな。では、オルレンだけ向かわせよう」

「レオリード殿下がお忙しいときに、側近であるレザ侯爵令息がいらして、シスツィーアさまにご負担ではないでしょうか?」

「っ!彼女がどうなっても良いと言うのか!?」


さすがにレオリードが声を荒げると


「わたくしも先日はレザ侯爵令息がお越しくださる方が良いと思いました。ですが、」



思案顔のキーサが話しはじめたのは、朝の身支度のときのこと





「本日は魔道術士団長ではなく、レザ侯爵令息がお越しくださるのでしょうね。シスツィーアさまは久しぶりにお会いなさるのでしょう?楽しみですわね」


シスツィーアの髪を梳きながらキーサがそう話しかけたところ


「え?オルレンさま?」


きょとんとした顔をされて、キーサは「忘れていらしたのね」と内心で思いながら


「ええ。魔道術師団長が来られないときはレザ侯爵令息がお越しになる。たしか、そういうお話では?」

「えっと、たしかに以前、レオリード殿下はそう仰っていたけれど、陛下がいらっしゃらないんですもの。オルレンさまもお忙しいでしょう」

「ですが、シスツィーアさま」

「オルレンさまにも無理はして欲しくないわ。魔道術士団長とは、最近は魔道具のお話しがほとんどだし。わたしなら大丈夫ですもの」


昨日よりも声に張りがあるものの、力のない笑みを浮かべるシスツィーアにキーサは頭を悩ませ


朝食後に行う魔力検査で機器は『青』を示し、医師の診察で身体に異常は見られないのであれば、精神的な疲れが原因かもしれない


それなら、シスツィーアの望まない、負担になることは避けた方が良いとの結論に至ったのだ。




話を聞き終わったレオリードも難しい顔をする


「・・・・・・・・・オルレンが行くことによって、彼女の負担が増えると言うことか」

「平時であれば問題はないと思われますが、陛下ご不在の折、レオリード殿下の側近であるレザ侯爵令息が殿下のお側を離れるとなれば、シスツィーアさまが「ご自分のせいで」と思い悩まれるのではないかと思いまして」

「たしかにあり得そうだよな」


それまで部屋のなかにはいたものの、黙って聞いていたキアルも頷く。


「それでキーサはレオンに相談しに来たってことか」

「左様でございます」


本来であれば、この時間にキーサがレオリードの元を訪ねてくることはない。シスツィーアの午前の授業の用意をしたりと忙しいからだ。それでもここへ来たのは、オルレンがシスツィーアのところに来ないうちにと考えたからだろう。


「レオン、オルレンは?そろそろ来るころだよな?」

「ああ。だが、ここへは彼女のところへ行ってから来るはずだ」

「んじゃ、とりあえず今日のところはオルレンが行くのは中止ってことで良いか?急いだ方が良いだろ、言ってくる」

「ああ・・・・・・・そうだな。魔力量に問題がないのであれば、今日のところは止めておこう。キーサ、それで良いだろうか?」

「ばい。わたくしもその方が良いと存じます」


キーサも同意したことで、キアルがオルレンへ伝えるために部屋を出て行き


「わたくしも失礼させていただきます」

「ああ。彼女の様子は逐一知らせてくれ」

「かしこまりました」


一礼してキーサも部屋を出て行く。


ひとり部屋に残ったレオリードは、やるせない想いを抱え


「・・・・・・・どうすれば・・・・・・・」


シスツィーアの負担にならずに、支えることができるだろうか


椅子に深く身体を預け、レオリードは天井を仰いだ。

最後までお読み下さり、ありがとうございます。

次話もお楽しみいただければ幸いです。

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