レオリード ③ 〜まもられるもの〜
「この金を使いなさい」
父から渡された多額の金
「彼女にかかる費用は心配することはない。この金は、彼女のためにあるようなものだ」
多くを語ることはなかったけれど、公費や王族に与えられる費用ではなく、王家の私費からだと説明された
「彼女が過ごしやすい環境を整えなさい。そのためになら、いくら使ってもかまわない」
そう言われては受け取らざるを得ず
それに
「わたくしも協力させてもらうわ」
「母上!?」
母からは、両手に抱えきれない程の布を渡され
「彼女に似合う色を集めたわ。それと、仕立てはこの針子に頼みなさい」
マリナのドレスを頼んだ職人に頼む気がしなくて、どうしようかと頭を悩ませているのを見透かされたように、一人の針子を紹介された。
「この者は?」
「わたくしの専属針子の弟子よ」
聞けば、母は気に入った針子にすべての衣装を任せており、その者が特に目をかけている者だと
「貴方は知らないだろうけど、城にいる針子たちの腕はなかなかのものよ?」
ふふっと楽しそうに微笑まれ
「せっかくだから、城にいる針子たちにやらせなさい。彼女たちも若い令嬢のドレスを作るのは楽しみなはずよ。わたくしのように年配の者のドレスよりもね。ねぇ?」
「そのようなことはございません。リネアラさまは若々しくていらっしゃいますし、趣味もよろしくて、わたくし共も作りがいがございますわ。ですが、王家に姫君がいらっしゃらないので、少しばかり物足りないのはありますわね」
母とは親しいのか、一緒に来ていた母の専属針子はそんな軽口を口にすると
「シスツィーア嬢のドレスですが、この者はアランディール殿下のご命令でお作りしたことがございます」
「香夜祭のドレスか?」
「はい。ですから、シスツィーア嬢に知られることなく、お作りできるかと」
(たしかに、新しいドレスなど彼女が知れば)
「いただけません!」
そう言って、喜ぶどころか、泣きそうになりながら固辞する姿は容易に想像できた
(それなら、知られずに用意する方が良い)
「分かりました。母上のご厚意に感謝します。よろしくたのむ」
「ふふっ。わたくしもどんなドレスができるか、楽しみにしていてよ」
「はい。お任せくださいませ」
そして、アランも
「ツィーア、礼儀作法は身に付けたほうが良いと思うんだよね。で、講師選んだんだ」
手渡されたのは、貴族なら誰でも知っている高名な者たちの資料
「みんな引き受けてくれるって。あ、費用は僕が出すよ」
いつの間に行ったのか、すでに講師の選別も打診もすべて終わっており、あとは俺が承諾すればいいだけ
「費用は俺が・・・・・・いや、それより、どうなるか分からないんだ。しばらく様子を見てから」
「んー。たぶん、影響はすぐにはでないと思うんだよね」
アランの話では、以前もすぐに影響が出たわけではなく、そこから考えると、少なくとも10日ほどはこれまで通りだと
「お互いそれまでのあいだに、できることはしておいた方が良いと思う。それに、考える時間もないほうが良いし」
アランが憂いを帯びながら零した言葉に、はっとする
「・・・・・あたりまえのことが、できなくなるまで」
その顔は無表情と言えるほどだが、遠くを見つめるかのような視線からは、先々への不安を考えないようにしていることが伝わってくる。
(そうだ、アランも)
どうなるか分からないのは、アランも同じ
いや、アランの場合は
(魔力過多の苦しみが)
どうなるか先が見えている方が、対策のしようもある
だが、それはあくまで予想であって、実際には影響がでないことには、どうなるか分からない
(ふたりとも、不安で当然だ)
それを招いたのは、俺
遣る瀬無い気持ちで胸が痛み、いつの間にかぐっと手に力が入る。
(駄目だ。悟られるな)
俺が原因であること、それは明白なのに
(俺が知ることを、誰も望んでいない)
俺以外の誰しもが、知っていて口を噤んでいる
ふーっと静かに息を吐き、自然に聞こえるように
「分かった。アランの言う通りだ。すぐに講師たちに来てもらおう」
アランは静かに笑い
「ん。ありがと。ま、魔道術師団長も協力してくれるから大丈夫だとは思うけどね」
「どういう意味だ?」
「え?あ、魔力生成の訓練も必要になるかもしれないってことだよ」
(そうか、総長も)
「魔力に関すること」のなかには、魔力生成に関することも含まれていたのだと、今更ながらに悟る
きっと総長もすべてを知っていて、俺に悟られないようにそんな言い方をしたのだろう
(俺を傷つけないために)
それは嬉しいはずなのに、ずしりと心が重くなることでもあり
「守られている」ことをひしひしと感じるのに、嬉しいどころか苦痛を伴うことに、罪悪感が湧き
(駄目だ)
それ以上考えないように、心に蓋をする
「兄上?」
「いや。なんでもない」
さすがに何か感じたのか、訝しそうなアランへ首を振り
「他に、なにか必要なことはあるだろうか?」
「んー?大丈夫じゃないかな?足りないものは、あとからでも追加すれば良いし」
そうやって、彼女をまもるための用意を整えた
考えられる限りのことをして
『儀式』のあと、彼女が目覚めてからはメイドや騎士、そして講師たちとのあいだに問題がないか自分の目で確かめ
そして
問題ないと、確認できたあとは
(彼女とは、距離を置こう)
そばにいる
彼女をまもる
その気持ちは、今も変わらない
だが
キシキシと、心が痛み
彼女のことを、直視できなくなって
だから、ほんの少しだけ
(時間が欲しい)
同じ王宮内だ
毎日、様子を報告させ
彼女に悟られることがないように、時々会いに行って
そうやって、必要以上には会わないようにした
無責任なことだと分かっていても
こんな自分を彼女に悟られないようにするために、必要なことだった
だから、気が付かなかった
気付くのが遅れた
彼女の不安な心が
ゆっくりと壊れていることに
最後までお読み下さり、ありがとうございます。
次話もお楽しみいただければ幸いです。




