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魔女は一本の幸せ屋  作者: キオ


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誰かを不幸にするなんて 6


 悲鳴を上げて停まった車からトラッドと秘書の女性、ザダグが出てくる。


 少女は秘書に身体を支えられ、男二人との間にトラッドとザダグが立った。




「お久しぶりです。会いたくありませんでした」




「そっくりそのまま返させてもらうよ。彼女に何をした」




 併せてザダグが腕まくりをするのに、眼鏡の男は戯けて両手を上げて見せる。




「おっと暴力はよろしくない。足の傷も頰の腫れも私は無関係ですよ。後者はこの同僚の仕業ですので、すべて彼にお願いします」




「おいテメ、仲間を売るかよ」




「仲間ではなく同僚です。上の配役に過ぎない関係に思い入れはありません」




「そんな話どうでもいい。……この爆発も、君たちがやったのか?」




「ええ、私たちの仕事です」




 静かに凄むトラッドに金髪の男は淡々と答え、さらに続けた。




「勘違いされているようなので、誤解は解いておきましょうか。このガレージは現在使われていない工場の資材置き場で、所有権は市にあります。私たちは勝手に住居に押し入って爆破したのではなく、『不法侵入者を追い払った』というのが正しい認識です」




「だとしても、人として守るべき程度があるだろ」




「失礼、言い直しましょう。『虫が湧いたから殺虫剤を撒いた』」




「っ……、どうして君たちはいつも!」




「理想は金を産まないからです」




 それはやはり淡々としていて、けれど少し苛立ちを滲ませたような声だった。




「ジェロント新市長の区画整備政策は決定事項、我々がいくら足掻こうとも発展を優先させることは不可能になりました。であれば私たちが目指すは最短での政策達成です」




 爪がめり込むほど拳は握り締められ、眼鏡の奥の目が鋭く細む。




「居住者全員の同意と移住先の確保……はっ、冗談でしょう。一体何年、平行線の交渉を続けるつもりなのですか。理想を掲げるのはいくらでも結構ですが、現実を変えたいのであれば現実を見るべきです」




 言い切って、一呼吸、金髪の男は眼鏡を押し上げる。




「この件で何か訴えがあるのであれば市役所を通してください。何ら違法性はないので処分は下らないでしょうが。仕事は疾うに済んでいるので、私たちは失礼します」




 横でザダグと無言の睨み合いをしていた同僚に視線で訴え、車に足を向ける。


 その際、僅かだけ歩みを止め、こう言い残した。




「これは助言ではなく警告ですが……貴方の会社も、理想だけではいつか滅びますよ」




 □




「……ごめん、来るのが遅くなった」




「そんな、なんで、わかったんですか」




 さっさと会社を出て、自分はもう街から遠く離れているはずだったのに。




「君を探すために、少し遅れて駅に行ったんだけど、一人でいる女の子はいないって言われたんだ。そうしたら爆発騒ぎを耳にして、もしかしたらって……途中、君の靴が落ちているのも見つけたから」




 秘書が消毒と包帯を処置してくれたけれど、血が滲んでいる今は履けそうにない。




「君こそ、どうして。一人で見に来るなんて危ないよ」




 問われて、少女は喉が苦しくなった。




「違います。違うんです……わたしの、せいなんです」




「え」




 話してはいけないと心に決めていた。依頼者の幸せが誰かの不幸で成り立っているなんて、知られるわけにはいかなかった。けれどそのときばかりは、声に出してしまった。




 吐き出さないと押しつぶされてしまうくらい、少女はまだ、少女だった。


 




 わたしの幸せの魔法は、その代償として不幸になるんです。




 起こり得る偶然の幸せを引き寄せた代償は、等しく起こり得る不幸で。




 代償の内容は叶えた幸せの対になるものです。




 わたしが不幸になるはずだった。今までずっとそうだったんです。




 けど、今回は不幸にならなかった。なれなかった。




 だからきっと、絶対、わたしのせいでこうなったんです。





「君の魔法が、不幸で……」




 少女自身理解しきれていないのだ、トラッドが困惑するのも無理はなかった。




 それでも大人として、必死に少女を宥めようと尽くした。


 君のせいではないと何度も言った。ただの偶然だと何度も諭した。


 その度に少女は首を振った。




「わたしは、わたしは……なんで」




 宥めてくれる声に強情に首を左右に振って、両手で顔を覆った。




「幸せ屋なのに、誰かを不幸にするなんて」




 泣き声は、次第に叫び声のようになった。


 何度も咽び返して、嗄れ声が出て、掠れて声が出なくなっても叫び続けた。




 今にも壊れてしまいそうな少女に、秘書もザダグも青褪め、けれど動けなかった。


 どんな言葉が少女に必要なのか、どんな言葉であれば届くのかわからなかった。




「なら、それは僕のせいでもある」




 トラッドだけは、わかる気がした。




 今日に併せて一新したスーツが汚れるのも厭わずに膝をついて、少女の肩に触れた。




「君に魔法を使わせた。僕が幸せになる代わりに、君に誰かを不幸にさせた」




「そん、なの……結果論です。わたしが話さなければ、知らずにいられたのに」




「けど、君は話した。それに結果論で言うなら、君の魔法以前に僕のせいなんだ」




 ほんの少し、少女の強張りが弱まった気がした。




「一昨日、君とここを見に来たよね。でも、もし見に来ていなくても、君は会社のオープンを成功させられたと思う。そのときは、爆発事故が起きても君が自分のせいだなんて思わなかったはずだよ」




 自分のエゴが、回り回って少女を傷つけた。


 正論で、けれど、少女は認めないだろう。




「君を宥めたいだけじゃない。それでもこれを君の魔法が引き寄せたんだとしたら、僕だって責任を感じる。君が一人で背負おうとしてもそれは変わらない。……だから、さ」




 自分を責めるなとは言わない。


 背負うなとは言わない。


 言わないから、




「一緒に、後悔させてくれないかな」




 少女の肩を引き寄せて、強く抱きしめた。





 やがて少女は、声を上げて泣き始めた。


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