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小説

その鳥の飛ぶ頃

作者: 永井晴

ベランダの縁にカラスがやってきた。やけに醜い姿をしていた。素早く首を振ると、一声。その時、ベッドに腰掛けていた青年と目が合った。

青年は入学した高校のクラスメイトとLINEをしている。先に連絡先だけ交換してしまって、画面越しでやり取りをしたいという臆病な魂胆の合致から、二人は互いの人相を探っていた。

「何か趣味とかある?」

出来るだけの気さくを装っていて、気味が悪い。

「音楽とか好きだよ。あとは野球とか。○○は?」

返信にもそういう匂いがプンプン漂った。しかし敢えて苗字で呼ぶという策の愚かさには誰も気づかない。

熱心なセールスマンのようにさりげなく、似もしない自身の偶像を相手の前に並べていった。そんな二人がもつ相手の第一印象は、「優しい」であった。これで作戦成功である。


青年は生ぬるい決闘のようなやり取りを終えて、幼なじみとLINEをし始めた。慣れ親しんだ間柄には、文章を練る時間は当然なかった。しかし、油断していた青年は奇襲をかけられた。

「あ、そういえばお前と同じ高校の○○から聞いたんだけどさ、お前音楽詳しいらしいな。結構付き合い長いけど知らんかったわ。ちな何のバンドが好き?」

何かが揺すぶられた。重たい響音は青年の中にも伝わった。それは偶像の破壊される音だったか?

「お前ら知り合いだったのかよw」

やけにメッセージ横の時刻が進んでいた。

「そうだよwお前らが絡んでるの想像つかんわw」

青年は何故かニヤけた。今まさに新しい偶像が作られるかもしれない。

「w

○○とかが好きかな。アルバムとか全部聞いてるし」

呆れた醜態。唯一聞いたアルバムは途中で寝落ちしたというのに。

「俺も好きだけど、全部は聞いてないな」

何という僥倖。こうして青年にはまた、文章を練る必要が出てきた。

カラスは飛び立った。ベランダには鳩の羽が落ちていた。今度はきっと、雀にでもなるつもりなのだろう。青年も、また送信ボタンを押した。

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