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呪いの支配者  作者: 春香秋灯
情報を操作する力
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道具作りの一族

 王都を出る時、一応、挨拶をしなければ、と筆頭魔法使いハガルに会いに行った。

 俺みたいに身分のない貧民は城門から入れない。俺が入るのは、隠し通路である。俺には妖精の目という最強の道具がある。これを発動させれば、野良の妖精たちが、筆頭魔法使いの屋敷まで導いてくれるのだ。

 人目を避けて、直接、城の敷地内にある筆頭魔法使いの屋敷に行けば、中で働く使用人たちは馴れたもので、俺に頭を下げて、応接室に案内してくれた。見るからに不審者だろうに。

 応接室でしばらく待っていれば、伝令を受けた筆頭魔法使いハガルが息をきらせてやってきた。

「ロイド、何かありました………か?」

 しばらく、俺の後ろを見て硬直した筆頭魔法使いハガルは、首を傾げる。

 俺はよくわからないので、ハガルの視線をたどる。何もいないな。だけど、妖精の目を発動させれば、いた。

「お袋!?」

 天に召されたと思われていた母サツキがいた。サツキはニコニコと笑って、筆頭魔法使いハガルの側にすーと寄っていく。

『お久しぶりですね、ハガル』

「その節は、大変、お世話になりました」

「違うだろう!! この女のせいで、無茶苦茶になったんだよ!!!」

 俺は全否定してやる。母サツキのせいで、無茶苦茶になったんだよ。それは、俺の家族だけではない。筆頭魔法使いハガルだって、そうだ。

 少し呆けていたハガルは、落ち着くと、穏やかに笑って、いつもの通り、茶を給してくれる。

「お世話になりました。昔、私の監視を潜り抜けた妖精がラインハルト様を襲撃した時、彼女が私に知らせてくれました。お陰で、未遂となりました。その節は、ありがとうございました」

『ちょっと遊びに来た時に、たまたまよ』

「アンタ、家族ほっぽって、他人ばっかり助けやがって、本当に最低だな!!」

『ご、ごめんなさい』

 俺の怒りに、母サツキは震えて、謝った。誉め言葉なんて言わなかったから、俺はそれ以上、責めない。開き直っていたら、野良の妖精を使って、母サツキの霊体を切り刻んでいただろう。

 親子喧嘩に、ハガルは口を挟まない。母サツキが落ち込んで、俺の後ろに下がるのをただ見ているだけだ。

「それで、今日はどういった御用ですか? あなたが捕縛した者たちは、きちんと裁きを受けていますよ」

「ただ、王都を離れるから、挨拶に来ただけだよ」

「兄弟喧嘩で王都を離れた時は、何も言わなかったくせに」

「俺も、それなりに成長するんだ」

 兄弟喧嘩で王都を出奔した時は、頭の片隅にも、考えなかった。ついでにハガルから逃げよう、と思ったこともあるが、それ以前に、別れの挨拶なんて、思いつきもしなかったのだ。

 俺も世間の荒波に飲まれたので、こういう人並の礼儀を学ぶものだ。

 大したことではない、とわかったハガルは落ち着いて、俺の向かいに座った。

「それで、そちらは、どういった御用ですか?」

 そして、改めて、ハガルは母サツキを見る。

 サツキは、まさかハガルから声をかけられると思ってもいなかったようで、驚いていた。そして、俺を恐る恐ると見る。迂闊なことを言って、また、俺を怒らせるのではないか、と心配していた。

「ロイドのことは、気にしなくていいですよ。親子なんて、こんなものですよ。子どもはいつまでも、親に反抗したいものです」

 俺のことをガキ扱いするハガル。俺、ハガルとは同い年なんだけどな。

 まだ迷っている母サツキ。だけど、何か決意を持って、ハガルに頭を下げた。

『どうか、義体を貸してください』

 サツキは、幽霊だというのに、床に土下座した。

「え、無理です」

 そして、ハガルは相手が幽霊といえども、容赦なく、却下する。

 そりゃそうだ。魔道具魔法具は基本、帝国の物なのだが、その中で、義体は禁忌といっていい。

 帝国は壊れた魔道具や魔法具の回収はしない。壊れた道具は、悪用しようがない。何せ、それをどうにかする技術と知識を大昔、失ってしまったのだ。

 だが、義体に関しては、絶対に帝国が回収することとなっている。まれに、道具が発掘されたりするんだ。それらは、壊れていても、使えても、帝国は気にしない。表向きは帝国の物、と言っているが、厳しく回収作業をしないのだ。そうして、道具を隠し持つ貴族や平民、貧民はいる。

 しかし、義体だけは、帝国は隠し持つことすら許さない。壊れていても、全て回収するのだ。

 そんな義体を母サツキが貸してくれ、と言ったって、筆頭魔法使いハガルが許すはずがない。

 だけど、サツキは諦めない。土下座したまま、動かない。それを呆れたように見下ろすハガル。

「だいたい、何をするつもりですか? あなたは、死んだとはいえ、道具作りの才能持ちです。ここまでは侵入を許しましたが、義体の保管場所の侵入は絶対にさせません」

『ロイドの妖精の目を直してあげたいんです。ですが、わたくしにはもう、肉体がありません。だから、義体にわたくしが憑いて、直します』

「壊れているのですか?」

 母サツキに言われて、ハガルは俺の側まで寄っていき、ジロジロと俺の片目を見た。

「私には、問題ないように見えますが」

『妖精の目が休止状態となると、ロイドは片目が見えなくなります』

「そうなのですか!? それはわかりませんでした」

 サツキが土下座したままいうと、ハガルは驚いて、さらに俺に顔を近づける。

 ちょっと前までは偽装していたハガルだが、母サツキを警戒してか、偽装を外し、男も女も心を乱す美貌を俺の前に晒してくれる。良かった、俺、免疫あって。ちょっとドキドキするけど、俺の心の中は決まっている。一方的な片思いだが、浮気はしない。

「まさか、片目が見えないなんて、教えてくれればいいのに」

「そういうものだと思ってたから」

 妖精の目という魔道具のことを俺だって知らない。だから、それが通常仕様だと思っていたから、ハガルに報告しなかったのだ。

「今後は、些細なことでも、報告してください。まさか、故障しているなんて、いつからですか?」

『アルロが装着していた頃には、壊れていました』

「直してあげなかったのですか!?」

『アルロには、私の力を隠していましたから。わたくしはただの人として生きたかった』

「そのせいで、失明してしまったかもしれないのに」

『………』

 本当に最低最悪な女だな!! 子ども五人も作ったほどの仲である夫が失明するかもしれないという危険な状態だと知っていながら、黙っていたのだ。

 俺が怒りに震えているが、ハガルは呆れている。

「どうせ、失明したら、妖精の目を直して、それで、両目の視力を元に戻すつもりだったのでしょう。そういう使い方も出来ますからね」

『っ!?』

 母サツキはわざと、俺の前で悪者になろうとしていた。それをハガルは見破ったのだ。

「なあ、お袋も兄貴も、一体、何者なんだ? 魔道具も魔法具も、直したり出来る技術とかって、なくなったという話だよな?」

 まずは、現在の常識を俺は述べる。

 大昔、帝国が滅びかけた。皇族、貴族、神殿がやらかして、貴重な本を焚書したのだ。そのため、帝国中を便利にする魔道具魔法具は壊れても、直すことが出来なくなった。

 ところが、俺の次兄は、魔道具魔法具を直す力を持っている。どういうわけか、次兄の手にかかれば、魔道具魔法具は全て、新品同然に直るのだ。

 話の流れから、母サツキにも、その力があるという。

 てっきり、限られた妖精憑きが、魔道具魔法具の修理が出来るものと思われていた。次兄が妖精憑きだからだ。

 だが、母サツキは妖精憑きではない。そこに矛盾が生じる。

 その疑問に答えるため、母サツキは頭をあげた。恐る恐ると、俺を伺い見る。ハガルは全てを知っているようだが、黙っている。全ての真実をサツキに語らせるつもりなんだろう。

『わたくしの家門は、道具作りの一族なの。才能は血筋で受け継がれていくのだけど、今では、その才能を持っているのは、死んだわたくしと、わたくしの子どもたちよ』

「えっと、俺も?」

『そうよ』

 恐ろしい事実である。まさか、俺自身にも、そんな才能があるなんて、思ってもいなかった。

 だが、過去を思い返すと、次兄が俺に道具を触らせないように、随分と警戒していた。ちょっと触れようものなら、激怒したのだ。

 てっきり、お気に入りの道具に俺の手垢がつくのを嫌った、と思っていたが、そうではなかった。俺が持つ才能を悟らせないためだ。

「俺も出来るなら、手伝ったのに」

 心底、そう思う。次兄一人で全てを抱え込まなくても良かったのだ。俺も加われば、もっと次兄の負担はなくなっただろう。

 何より、次兄の側にもっといれた。

 邪な気持ちもあるが、俺は、隠されていた事実に、がっかりする。

『あの子は、わたくしが話したことを覚えていたのね。わたくしは、道具が大嫌い。物心つく前からずっと、道具を守る役割に縛られていたわ。なのに、役割を忘れた一族たちは、わたくしを蔑ろにした。そこまでして、道具作りの役割を縛られるなんて、バカらしくなったの。だから、隠したの。ロイド、道具は救ってくれないわ。所詮、道具よ』

 母サツキは歪んだ笑みを浮かべる。

 母サツキが、実は、帝国中、語り継がれる悲劇の伯爵令嬢サツキであることを知ったのは、つい最近だ。

 悲劇の伯爵令嬢サツキは、有名だ。その身の上は赤裸々に新聞で帝国中に喧伝されたのだ。さらには、小説、戯曲、舞台と、様々な媒体を使って、文字を読めない者たちまで、伯爵令嬢サツキの悲劇は語られたのである。



 幼い頃に母親を失った伯爵令嬢サツキは、父、義母、義妹によって、酷い虐待を受けた。本来、助けなければならない使用人たちまで、伯爵令嬢サツキを蔑んだという。その事実に気づいているはずの血族は、サツキを見捨てた。それでもサツキは人前に出られるたった十年に一度行われる帝国主催の舞踏会で、亡き母の友人知人に助けを求めたが、結局、見捨てられたのだ。

 そうして、全てから見捨てられた伯爵令嬢サツキは、生家を追い出されて、義妹が次期伯爵と名乗りをあげたのだ。

 しかし、帝国では、血筋でない者は跡継ぎとなれない。

 サツキの父はサツキと血が繋がっていたが、伯爵家の血族ではない。さらに、義母もまた、伯爵家の血族ではない。その二人から生まれた義母はもちろん、伯爵家の血族ではない。

 この事実を告発したのは、伯爵令嬢サツキを見捨てた血族たちである。

 帝国は弱肉強食。サツキの父、義母、義妹が行ったことは、正当化されるはずだった。しかし、サツキはまだ親の保護を必要とする未成年である。帝国では、跡継ぎである未成年を保護することとなっていた。万が一、跡継ぎが成人前に亡くなったりした場合、帝国がその死を調査することとなっていた。

 サツキの父、義母、義妹はお家乗っ取りの犯罪者となった。

 それから数日して、生家を追い出された伯爵令嬢サツキは死体となって発見された。そこから、サツキの父、義母、義妹はサツキの殺人容疑をかけられたのである。

 悲劇の伯爵令嬢サツキが亡くなったことで、伯爵家も跡継ぎ争いで、内乱状態となって、大変なこととなった。

 ここまでの悲劇が帝国中に知れ渡ってしまったのだ。帝国は伯爵家を取り潰すわけにはいかず、正当な跡継ぎが決まるのを見守ることにした。



 悲劇の伯爵令嬢サツキが亡くなったその後は、俺だって知っている。そこまでの災いになるようにしたのは、母サツキなのだ。彼女の憎悪は、俺の想像を越えるものだった。

『我が家の跡継ぎは、道具作りの才能持ちだけがなれるものです。ですが、誰もわたくしを助けてくれませんでした。言われた通り、道具を直したって、ただ、利用されるだけです。だから、わたくしはあんなガラクタ、捨ててやったんです。なのに、あなたが妖精の目をつけてしまうなんて』

 母サツキとしては、道具に関わりたくないのだ。それは、死んだ後もだ。

 だが、俺が装着している妖精の目が壊れているから、仕方なく、筆頭魔法使いハガルに頭を下げてまでも、壊れたいる妖精の目を直そうとした。

「今更、母親面するな。失明したら、それまでだ』

『貧民で、五体満足で生きていられるのは、奇跡なのよ!! せっかく、健康に生きていられたというのに、片目をなくして、妖精の目をつけるなんて!?』

「全部、あんたのせいだろう!! あんたが、俺たち家族のことを見捨てて、侯爵家に居座ってたから、こうなったんだ」

「言い過ぎです」

 俺の責めに泣くしかない母サツキをかばったのは筆頭魔法使いハガルだ。俺は言い足りないが、黙った。

「過去のことを責めたって、今が変わるわけではありません。人は気づいた時にはいなくなっています。残された時間は大事にしなさい。過去を後悔するよりも、この先のことを考えるほうが、より、いい人生を歩めますよ」

「じゃあ、兄貴は、どうなるんだよ!? 取返しがつかないほどの不幸で」

「人の幸福はそれぞれです。あれはあれで、幸福なんです。あなたの幸福論を押し付けないでください」

「っ!?」

 俺と同じ時間を生きているハガルが吐く正論に、俺は言い返せない。

 俺が黙り込んだことで、ハガルは再び、俺の向かいに座る。

「事情が事情ですから、義体、貸出ましょう。私では、ロイドの妖精の目を直せませんからね」

『ありがとうございます!!』

「せっかくなので、色々と、教えてください」

『? はい』

 嫣然と微笑むハガルに、母サツキは首を傾げて頷いた。



 結論から言おう。この母サツキも、容赦のない女だった。




 場所は地下に移された。俺はやっぱり、拷問とかで使われる椅子に座らされ、全身、動けないように拘束された。そんな俺を義体に憑いた母サツキは心配そうに覗き込む。

 視界の端にはハガルがこれまで、俺を調べつくした内容をまとめた用紙をめくって、何か考えこんでいた。

「色々と調べたのですが、差異が見られなかったんですよね。この休止させられる仕組みがわかれば、今後、役に立つはずです」

「調べたって、どうやって?」

「解剖です。生きたまま解剖までしたのですが、人体的には差異が見られませんでした」

「見せてください」

 母サツキは、ハガルにこれまでのまとめを見せてもらう。サツキはパラパラととんでもない速度でそれを読み進めて、すぐにハガルに返した。

「結論から言いますと、足りないのでしょう」

「足りない?」

「繋がる箇所です。妖精憑きとただの人とでは、妖精の目を繋げるための、その、神経? の数が違うようです。見てみてください」

 そう言って、母サツキは、容赦なく俺の妖精の目をえぐり取る。だけど、痛くないんだよなー。

「ほら、数が違います。才能と言いますが、ようは、ちょっと見る視点が増えている、とか、その程度のことですよ」

「では、ただの人では、ロイドのようなことは出来ない?」

「この中で、いらない線を一つ、消してしまえばいいと考えられます。試すしかありませんが。もともと、妖精の目は妖精憑きの力を増幅させるための道具です。ただの人の仕様ではありません。だったら、ただの人の仕様に合わせてみればいいのです」

「そうすると、装着者の意思通りに、妖精の目が休止する?」

「試すしかありません。はい、終わりです」

 話しながら、母サツキは妖精の目を俺に戻した。もう、終わったというのには、驚きだ。

「うわっ!?」

 そして、急に、見えなかった片目が見えるようになったから、俺は頭が痛くなった。ちょっと平衡感覚も狂ったようで、世界が回っている感じだ。

「馴れるまで、時間がかかるでしょうね」

「せっかく馴れたのにぃ」

 片目での生活に馴れていたから、両目が見える状態になって、感覚が狂った。

 サツキの手で、俺の拘束は解かれたが、俺は動かない。まず、両目で見るということに馴れないといけないのだ。

 片目になった時は、ちょっと不便で終わった。情報が減ったんだ。だが、両目に戻るということは、情報が増えるということだ。

 初めて妖精の目を装着された時に似ている。両目が見える上、妖精から与えられる情報の多さに、頭が痛くなった。それでも、廃人にならなかったのは、次兄のお陰といえる。

 妖精憑きとしてのコツ? みたいなものを次兄から聞いたことがある。

「話半分、無視する感じだな」

 その通り、俺は妖精から受ける情報を半分は無視したのだ。そのお陰で、廃人にならず、普通に動けるのだ。

 だが、片目から両目になるというのは、無視とは違う。四六時中、この情報を受けるのだ。妖精の目のように、休止出来ない。結果、俺はしばらく、おぼつかない足取りで動くこととなった。

 そんな俺をハガルと母サツキは観察している。ハガルはともかく、母は、なんか、怖いな。

「少し、心配ですから、しばらく、わたくしはロイドに憑いていきますね」

「おいおい!!」

 俺が止めようとしても、母サツキは止まらない。さっさと義体から離れ、幽体となって、俺の側にやってきた。

「えー、実験、手伝ってほしいかったのにー」

 それを見て、ハガルはとんでもないことを言った。そうか、妖精の目を実用化するために、何かやるんだな。俺は聞きたくないので、さっさと筆頭魔法使いの屋敷から逃げた。

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