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銀と魔法使い  作者: あっちいけ
第3章 純粋で純朴で純情な彼は黒に染まる
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3-21.出会い


 魔王ルイナにはオグストの村で過ごした以前、1年以上前の記憶がほとんどない。


 あるのは夢に見る幼少の頃の思い出。母と父と幸せに暮らしていた頃の温もり。


 そして雨の日の記憶。降りしきる雨の中、誰かの腕を抱え泣いている時の冷たさ。


 それ以外思い出せない。自分が世界を壊したという決定的な場面も、感情も思い出せない。


 しかし彼女は納得した。自分が魔王であるということに。


 おかしな力を自分は有している。パンをちぎるのとヒトの首を掻き切るのと、全く同じ加減で叶ってしまう。


 今まで全力だと思っていたものが、全力を出していると思い込んでいただけのものだったと気づいてしまった。布を引き裂くのに全力を使おうと思えば使えるし、指先で塀を傾けようと思っても出来てしまう。


 底が見えなかった。やろうと思ったことは全て叶ってしまう。彼女は自分の力がどこまで及ぶのか試そうとは思わなかった。


 行き着いた先が今なのだと。世界を壊そうと思ったからこうなったのだろうと考えた。


 彼女は過去を気にすることをやめた。どうせそれは真実である。過去を掘り返しても楽しい気持ちになることはないだろうと悟ったのもある。


 だから彼女は願った、いち早く死ぬことを。自分が生きていては不幸を生み続けるだけであると知って。


 ただ、魔王は英雄に殺されなければならないらしい。英雄の手以外で殺されてしまえば魔王は即座に蘇る。それも別の肉体、別の地で人知れず。そうして世界の危機を続けて引き起こすのだと。


 故に彼女は自殺も許されない。ただ自分を殺しに来る英雄を待ち、王城の一角に今日も居座る。


今代こんだいの英雄は所在を誰にも掴ませません。ですが僕が誘い出します。ルイナ先輩はここで待っていてください』


 彼女に助言をした者はそう言った。


 たしかに、ここは良いところだった。誰も不必要に語りかけてこない、近づいてこない。


 自分が感情を動かす必要もなければ、心が乱れることもない。


 何もかもを関心の外に置いて。


 無心で。


 無感動に。


 ただ、殺される時を待てばいい。


「………」


 魔王の心に、隙間が生まれる。


 あの時、そうしておけばよかったのに。


 あの時、結界の中でおとなしくしておけばよかったのに。


 あの時、我が儘を言わなければよかったのに。


 そうしなかったが故に失った———いや、自分が奪ってしまったものの重さ。


「………」


 魔王は唇を噛み締める。


 心を動かしてはいけない。


 悲しみに暮れてはいけない。


 それはいつだって間違いなく、悪い結果しか生み出してこなかったのだから。


「……ふふっ…」


 最後に1つ、彼女は乾いた笑いを吐いて地平を眺める作業を再開した。


 無心。死を許されず、生により享受される全てを拒絶した彼女の心には、今後何の情報も入り込む余地はない。


 それを彼女は望んでいる。世界が崩壊するか、彼女が死ぬか。それはそれまで変わらない。



 ———はずだった。



「あんたが軟禁されている異端ってので間違いなさそうね」


 物語に筋道が立てられているのと同じで、宿命が彼女たちを出会いに導いた。


 魔術師然とした風貌の少女。右目に眼帯をつけた赤髪の彼女はテラスの欄干に立ち、魔王を見下ろす。


「―――あなたは?」


 魔王は問うた。それは名か、ここにいる理由か。


 部屋の扉が開いた音はなかった。どこからやってきたのかも分からぬ少女。


「ふぅ~ん」


 彼女はつまらなそうな目で魔王を眺める。


 そうして眺め終えて満足したのか、少女は欄干に立ったまま、言った。


「私は異端狩りのミチ。あんたを殺しに来た者よ」


 それが彼女たちの、出会いの言葉だった。


 これで第3章は完結です。

 本章でもたくさんのいいねを押していただき、ありがとうございました。大変励みになりました。

 そして第4章については投稿まで少し間を頂きます。申し訳ございませんが、引き続き本作を宜しくお願いいたします。

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