七瀬瑞樹の生きる場所
毎日が充実していたとは言い難い。
私は人に好かれるように振舞ってきたし、実際たくさんの人が私の周りにはいた。
青春だとかそういったものを体現したような環境の中に、私は存在する事が出来ていた。
でも、何かが違った。
いつも放課後に誰かの家に集まって、なんでもない時間を過ごす。
これが、人間としての幸せなんだ。きっと。
それが日常と化したある日、この行為に何の意味があるんだろうって、つい思ってしまった。
本当はこんなことに意味を求めるべきではなかった。
それでも、一度考えてしまったことは消えずに残る。
ただただ、そこは空虚だった。
そして気付いた。
彼女たちが見ているのは、私そのものじゃなくて、私がいることで発生するこの環境なんだって。
全てに絶望を感じたのを覚えている。
私そのものを欲してくれている人は実はいないんじゃないかって、怖くなった。
まるで自分が生きている理由なんてないって言われたようで。
心臓に鋭利な刃物を突き付けられたみたいだった。
そんな時に、あの子。白世幸音を見つけた。
クラスメイトだということは知っていたけれど、関わろうとしてこなかったし、いつも一人の子だという認識しかなかった。
ある日、その白世さんがインフルエンザで休んだ。
どうしてか、チャンスだと思った。
ここで仲良くなれれば、もしかしたら私そのものを見てくれるんじゃないかって。
だから、適当な理由をつけて彼女が私のことを気にするように仕向けた。
初めて唇を合わせた相手は、小さな妖精のようで図らずも可愛らしいと思ってしまった。
ここから運命の歯車がかみ合い始めた。
いや、全てをつなげる最後の一つのピースが埋まったんだ。
始めは打算的な行動だった。
でも、それがいつの間にか白世さんのことが欲しいと思うようになっていた。
きっとそう変わってしまったのは、彼女が私を頼ってくれた時。
飾っていない私自身を求めてくれている。そんな気がして嬉しくて、同時に守ってあげたいと思った。
好きという感情は、こういうことなんだと分かった。
それからは、白世さん、いや、幸音に好きって言ってもらうために色々とした。
キスだって少し恥ずかしかったけれど、思いが伝われと念じてやった。
まあ、何回か楽しいか聞いても、返事は曖昧なものだったから自信を何度も無くしかけたけれど。
そうやって幸音を捕まえたと思っても、何度もすり抜けられた。
何度も理解してあげたいと思って手を伸ばしても、それが届くことは無かった。
私はこの手を幸音に取ってほしかった。そうすれば誰かに求められたいという自分の欲求が満たされるから。
それでも駄目だったから、告白した。
一生分の勇気を振り絞って。
それでも、その時はまだ振り向いてもらう事が出来なかった。
幸音は大切な人がいなくなることが怖いみたいだ。
誰だってそうなのに。
私はずっと幸音を待つことにした。
いつか彼女が私の手を取ってくれるまで‥‥‥。
その日が来たのは唐突だった。
幸音が自分のことをいきなり化け物だと言った時、私には何が何だか良く分からなかった。
ただ、幸音が何かに葛藤しているということしか。
多分幸音はそうやって人を遠ざける方がましだと思うくらい、孤独で苦しんだんだ。
大切な人を失ったことの全ての感情を抱え込んで。
それを知った時に、目の前の人が大きな氷の殻に閉じこもっている。そんな想像をしてしまった。
だから、幸音が私から離れていこうとしたとき、つい強い言葉で当たってしまった。
でも、それでどんなに憎まれても、私はその行動を後悔はしないつもりだった。
幸音は絶対に私を許してくれるっていう、根拠のない自信もあったし。
実際それは正しかったようで、幸音はこの時初めて私に好きだって言ってくれた。
その夜のキスが一番気持ちがよかった。
幸音が私の恋人になってからは、自分が変わった気がした。
今まで何かを求めて彷徨って、でもそれを埋めてくれるものがなかったから、虚無な自分が怖かった。
でも、その恐ろしさを幸音が振り払ってくれた。
きっと彼女は自分だけが救われたとか思っているだろう。
実際に助けられたのは、私の方なのに。
だから、幸音の願いは全部叶えてあげたい。
幸音は一人にしないでと言った。
本人も自覚しているみたいだけれど、大切な人を失いたくないということみたいだ。
私は絶対に幸音から離れない。
これは幸音の願いでもあり、私の望みでもあるのだ。
本話で、「少し大人なクラスメイトに溶かされる」は完全に完結です。
お読みいただき、ありがとうございました。
少しでも、七瀬さんの行動原理の理解のお役に立てたなら幸いです。
ここまで続けられたのは本当に読んで下さった皆様のおかげです。
感謝してもしきれません。
本当に読んでいただきありがとうございました。




