食事。
近藤の瞳には強い意志が宿っているかの様に見えた。
「人魚を捕獲して研究している人は存在しない。総ては憶測でしかない。だが…朽ちていく美咲を救いたいのです。ただそれだけなのです。だから私は自らの仮説を信じてー」
美咲に美咲自身の【肉】を食事として与えているのですよ。
と云った。
『なんて事を…。』
神木から嗚咽の声が聞こえる。
ジジジジジジ。
明滅を繰り返す蛍光灯。
「神木さんは先程、こう仰いましたよね?人魚自身に永遠の命と若さがあると…。その知識は何処で得たのですか?」
この人は、総ては憶測だと知っているのに…。
人魚の肉に不老不死の力があると思い込んでいる。
都合の良い所だけを信じているんだ…。
『私は、歴史的な文献から…。いや、憶測で言っただけです…。』
神木は力無く答えた。
近藤は満面の笑みで
「そうでしたか…。やはり美咲は、自ら不老不死の力を持たない人魚なのですよ。だから、美咲を救うのなら、人魚の【肉】をもっと与えなくてはならないのです。」
と言った。
そして、ゆっくりと美咲に歩み寄る。
バスタブの後ろに回り込むと…。
カチャカチャと音を立て何かを探す。
神木の内に厭な予感が増殖していく。
『まさか…。』
近藤は、神木の方へ振り返り、美咲にすり寄った。
「さぁ…。食事の時間だよ…。」
穏やかな表情で言葉を発した近藤は、美咲の左腕の付近にナイフを刺し、四角く輪郭を創る。血液は滴り落ち、バスタブの中に溶けていく。
イィアァァイ。アァエェエエ。
弱々しい叫び声が響く。
近藤は、肉片を手に取ると、美咲の口へと運んだ。
アァエェエエ。
美咲は声を出し、肉片を吐き出す。
近藤は、涙を浮かべ哀願した。
「何故…。食べてくれないんだ…。お願いだ…。食べてれ…。」
異質な空間は…。
総て呑み込んだ。