仮説。
伝えるべき言葉が見つからない。
語るべき言葉が見つからない。
近藤は納得した表情で…
「そうですよね?美咲は人魚なんですよね?」
と言った。
あぁ…、そういう事だったのか…。
近藤さんは思い込む事で現実から逃げたのか…。
ジジジジジジ。
蛍光灯は五月蝿い。
「人魚は永遠の命と若さを持っている。私は、そう思っていました。だけど美咲は日に日に衰弱していく。何故なのか理解出来なかった…。そこで私は《ある仮説》を立てた。」
ピシャッ。
美咲は力無く水を叩く。
「人魚自身には不老不死の力は無く、人魚の《肉》にこそ不老不死の力が宿っているのではないかと…。」
ジジジジジジ。
蛍光灯は明滅を繰り返す。
「妻は生きていてくれた。それだけで良いのです。例え、人魚になってしまったとしてね…。私は美咲を愛しているのです。」
神木は…。
感情の濁流に呑み込まれそうになる。
「生きて逢えたのに…。私は、また美咲と別れなければならないのですか?」
神木さん…。
貴方に解りますか?
「愛する人が日に日に衰弱し、眼の前で、朽ちていくのを見せ付けられると云う現実を…。」
神木は唇に手の甲を押し当て、泣き出したくなるのを懸命に堪えているのであった。